和漢三才圖會卷第八十六 果部 果部[冒頭の総論]・種果法・收貯果
和漢三才圖會卷第第八十六之七目録
果部
說文云木上曰果【菓同和名古乃美俗云久太毛乃】地上曰蓏【和名久佐久太毛乃】
漢書注有核曰菓無核曰蓏又云木實曰菓草實曰蓏凡
乾則可脯豊儉可以濟時疾苦可以備藥輔助粒食以
養民生
五果者以五味五色應五臟李杏桃栗棗是矣 占書曰
欲知五穀之收否伹看五果之盛衰李【主小豆】杏【主大麥】桃
【主小麥】栗【主稻】棗【主禾】
本草綱目集草木之實號爲果蓏者爲杲部分爲六類曰
[やぶちゃん注:「杲」は「日光の明らかなさま」或いは「高い」の意であり、「果」の誤刻である。訓読では訂した。]
五果曰山果曰夷果曰味果曰蓏曰水蓏
種果法 【同接木】
張約齋種花果法 春分和氣盡接不得夏至陰氣盛種
不得立春正月中旬宜接木樨櫻桃黃薔薇正月下旬
宜接桃梅杏李半枝紅臈梅梨棗栗柹楊柳紫薔薇二
月上旬可接橙橘已上種接於十二月閒沃以糞穰至
春花果自然結實立秋後可接林檎川海棠寒毬黃海
棠已上接法並要接時将頭與木身皮對皮骨對骨用
麻皮札縛緊緊上用箬葉寛覆之如萠出稍長卽取去
箬葉無有不茂也
古今醫統云凡種果宜望前上旬日種則多子凡種果須
候肉爛核和種也否則不類其種
果樹凡經數次接者則果大而核小伹其核不可種
鑿果樹納鍾乳粉少許則果多且美也樹老亦以鐘乳
末泥於根上揭去皮抹之復茂盛
[やぶちゃん字注:「抹」は、原本では(つくり)の「末」が「未」になっているが、訓点から「抹」の誤刻と断じて訂した。以下も同じ。]
凡果樹生蟲者其䖝孔用杉木作釘釘之卽絕又法元旦
鷄鳴時以火把燃照果樹上下則不生蟲
酉陽雜組云用生人髮挂果樹烏鳥不敢食其實
凡花欲令莟速開者用花枝倒懸於井中伹可使水不浸
又花樹用馬糞浸水澆之則速開
凡花果俱忌麝香衣香諸香之氣宜栽蒜韭可以避之有
觸香則淹溺急用雄黃和艾葉於上風燒之卽解
凡贈花於遠用菜葉實籠中籍覆上下使花不動揺亦以
禦日氣又以蠟封花蔕可數日不落
果樹茂盛不結實者元日五更或除夜以斧斫之卽結實
一云辰日将斧砍果樹子結不落
[やぶちゃん注:この「砍」は、訓読して『ハツレハ』と振る。「砍」は「切る」・「取り除く」の意であるから、しばしば使用される「斫」が相応しいので、訓読では、それに変える。]
△按除夜一人在樹上一人在其下誚曰汝宜結子乎否
今當斫棄也樹上人答曰諾自今以後宜結子也果翌
年多有子蓋雖俗傳和漢趣相似矣
諸木卒然將枯者急宜灸地上三寸向陽𠙚多活
收貯果
古今醫統云諸般青果收貯法淨罈中十二月下臘水入
[やぶちゃん注:「罈」は原本では、「缶」が(「卸」の(へん))になっている。しかし、このような漢字は見出せない。原本では「罈」に『ツボ』と読みを打つので、「壺」の意である、この「罈」(音「タン」で、「口が小さく腹が膨れていた容器・瓶」の意がある)を当てた。]
些小銅青末宻封久留青色不變凡有青梅批杷林檎
葡萄小棗橄欖菱芡橙瓜李柰之類皆收如此
又用生大竹鑿一孔以鮮果投入不可傷破皮以木塞孔
泥封之久留不壤桃李杏皆然
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和漢三才圖會卷第第八十六之七目録
[やぶちゃん注:「卷第八十六」と「卷第八十七」のカップリングを言う。「之」を訓じてしまうと、誤解を生むので、そのままで訓読しなかった。敢えて読むなら、「いたる」(至:「巻八十六から巻八十七に至る」の意)となろう。]
果部
「說文」に云はく、『木の上《うへ》なるを、「果《くわ》」と曰ひ、』【「菓」と同じ。和名、「古乃美《このみ》」。俗、云ふ、「久太毛乃《くだもの》」。】『地の上なるを、「蓏(くさのみ)」と曰ふ。』【和名「久佐久太毛乃《くさくだもの》」。】≪と≫。
「漢書」の注≪に≫、『核(さね)の有るを「菓」と曰ひ、核、無きを「蓏《ら》」と曰ふ』≪と≫。又、云はく、『木の實を、「菓」と曰ひ、草の實を「蓏」と曰ふ。』≪と≫。凡そ、乾く時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、脯(ひぐはし)[やぶちゃん注:訓読のは、恐らく「干果子(ひぐわし)」の誤記であろう。東洋文庫訳では、割注して『(干果)』とあるからである。]と≪す≫べし。豊儉《ほうけん》[やぶちゃん注:豊作と凶作を指す語。]以つて、時に濟(すく)ふべし。疾苦《しつく》[やぶちゃん注:病気に苦しむこと。]≪の時は≫、以つて、藥に備(そな)ふべし。粒食《りうしよく》[やぶちゃん注:穀類の食糧。]を輔助《ほじよ》して、以つて、民生を養ふ。
五果は、五味五色を以つて、五臟に應《おう》じ、李《すもも》・杏《あんず》・桃・栗・棗《なつめ》、是れなり。 占書《うらなひのしよ》に曰はく、『五穀の收否《しうひ》[やぶちゃん注:収穫の多寡。]を知《しら》んと欲せば、伹《ただ》、五果の盛衰を看(み)よ。李【小豆《あづき》を主《つかさど》る。】・杏【大麥《おほむぎ》を主る。】・桃【小麥を主る。】栗【稻を主る。】棗【禾《きび》を主る。】。』≪と≫。
「本草綱目」に、草木の實、號(なづ)けて、「果」・「蓏」と爲《す》る者を集めて、「果の部」と爲《な》し、分《わけ》て、「六類」と爲《なす》。曰はく、「五果」。曰く、「山果」。曰はく、「夷果《いくわ》」。曰はく、「味果」。曰はく、「蓏《ら》」。曰はく、「水蓏《すいら》」《なり》。
[やぶちゃん注:「說文」(せつもん)は「說文解字」の略。漢字の構成理論である六書(りくしょ)に従い、その原義を論ずることを体系的に試みた最初の字書。後漢の許慎の著。紀元後一〇〇年頃の成立。
「蓏(くさのみ)」「蓏《ら》」「廣漢和辭典」には、『うり。木にあるものを果というのに対して、地にあるもの。または蔓生(ツルセイ)のものをいう。また、殻・核のあるものを果というのに対して、殻・核のないものをいう。また、木の実を果というのに対して、草の実をいう。』とあり、「解字」には、『会意。』とし、『艸+㼌。地上又は蔓(つる)になる瓜(うり)のこと。㼌はその複数を表す。』とある。
「漢書」後漢の班固の撰になる史書。漢の高祖から王莽(おうもう)政権の崩壊に至るまでの全十二代、二百三十年間の前漢の歴史を記述した、中国の正史の一つ。「本紀」十二巻・「表」八巻・「志」十巻・「列傳」七十巻の全百巻。後漢の明帝の永平年間(五八年~七五年)に勅命を受けて、二十余年の歳月を費やし、章帝の建初年間(七六年~八三年)に完成した。当該部は、「卷八十一」の「匡張孔馬傳第五十一」の以下の略述。「中國哲學書電子化計劃」の「卷二十四上」の「食貨志第四上」から引く(一部に手を加えた)。
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瓜瓠果蓏【應劭曰、「木實曰果、草實曰蓏。」。張晏曰、「有核曰果、無核曰蓏。」。臣瓚曰:「案木上曰果、地上曰蓏也。」。師古曰、「茹、所食之菜也。畦、區也。茹音人豫反。畦音胡圭反。蓏音來果反。」。】
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「禾《きび》」単子葉植物綱イネ目イネ科キビ属キビ Panicum miliaceum 。]
果を種《うう》る法 【同≪じく≫接木《つぎき》。】
張約齋が花果《くわくわ》を種る法[やぶちゃん注:東洋文庫訳では、ここに割注して『(『古今医統』通川語方、花木類)』とある。] 『春分には、和氣《わき》盡きて、接《つぐ》ことを、得ず。夏至《げし》には、陰氣、盛《さかん》≪と成り≫、種ることを、得ず。立春・正月中旬に、宜しく、木樨(もくせい)・櫻桃(ゆすら)・黃薔薇《わうしやうび》を接ぐべし。正月下旬には、宜しく、桃・梅・杏・李・半枝紅《はんしこう》・臈梅(らう《ばい》・梨・棗・栗・柹《かき》・楊柳《やうりう》・紫薔薇《ししやうび》を接ぐべし。二月上旬には、橙(だいだい)・橘《きつ》を接ぐべし。已上の、種《うゑ》・接《つぎ》、十二月の閒《あひだ》に於いて、沃《そそ》ぐに、糞-穰(こえ)を以てすれば、春に至《いたり》て、花果《くわくわ》、自然《しぜん》と實《み》を結ぶ。立秋の後《のち》、林檎(りんご)・川海棠(《かは》かいどう)・寒毬《かんきう》・黃海棠《わうかいどう》を接ぐべし。已上の接ぐ法、並びに、接ぐ時を要《えう》して[やぶちゃん注:接ぎ木するタイミングが大切で。]、頭と、木の身《み》と≪を≫将《もつ》て、皮は、皮に對し、骨は、骨に對し、≪接ぎ木し≫、「麻皮(あらそ)」を用≪ひ≫て、札-縛(しめ)ること、緊緊(きんきん)として、上(《う》へ)を「箬-葉(をかあしのは)」を用≪ひ≫て、寛(ゆる)く、之れを覆《おほふ》。如(も)し、萠出《もえいで》て、稍《やや》、長卽ずる時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、箬葉《わかば》を取去《とりさ》れば、茂らざると云ふこと[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]、有ること、無し。
「古今醫統」に云はく、『凡そ、果を種《ううる》には、宜しく、望《もち》[やぶちゃん注:満月。]の前にすべし。上旬の日、種る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、子《み》、多し。』≪と≫。『凡そ、果を種るに、須らく、肉、爛《ただ》れ、核《さね》、和《やはらぐ》を候《うかがひ》て、種るべきなり。否(しからざ)る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、其の種に類《るゐ》せず。[やぶちゃん注:その種に相応しい正常で似合ったものは繁茂しない。]』≪と≫。
『果の樹、凡そ、數次を經て、接ぐ者は、則ち、果、大にして、核《さね》、小《ちいさ》し。伹し、其の核、種《ううる》に類《るゐ》せず[やぶちゃん注:植えても芽生えない。]。』≪と≫。
『果樹を鑿(うが)ちて、鍾乳《しようにう》の粉《こ》を、少許《すこしばかり》、納《をさむ》る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、果、多≪く≫、且つ、美なり。樹≪の≫老(ひね≪こび≫)たるにも、亦、鐘乳の末《まつ》を以て、根の上に泥《なづませ》[やぶちゃん注:塗り附け。]、皮を揭-去(かき《さり》)、之れを、抹(ぬりつ)ぐれば[やぶちゃん注:後で、再度、その剝した皮を再び、そこに塗り附け次ぐれば。]、復《ふた》たび、茂盛《もせい》す。』≪と≫。
『凡そ、果の樹に、蟲、生ずる者≪には≫、其の䖝《むし》の孔《あな》に、杉《すぎ》≪の≫木を用≪もちひ≫て、釘《くぎ》に作《つくり》、之れを、釘《くぎた》てば、卽ち、絕《たゆ》る。又、法≪ありて≫、元旦の鷄鳴の時、火《ひ》を以つて、燃≪ゆる≫を把《と》り、果樹の上下を照《てら》せば、則ち、蟲、生ぜず。』≪と≫。
「酉陽雜組」に云はく、『生(いき)ている人の髮(かみのな《✕→け》)を用《もちひ》て、果樹に挂《かけ》れば、烏(からす)・鳥、敢《あへ》て其の實を食ず。』≪と≫。
[やぶちゃん注:以下は、「酉陽雜組」には認められない。引用なのか、引用なら出典は何かは、判らない。良安の纏めたデータとしておく。]
凡そ、花、莟(つぼみ)をして、速く開らかしめんとに《✕→「に」は不要》欲さば、花枝を用《もちひ》て、倒《さかさま》に井≪の≫中に、懸け、伹(ただし)、水をして浸(ひた)らざらしめして、又、花樹、馬糞を用《もちひ》て、水に浸して、之れを澆《そそ》げば、則ち、速《はや》く開く。
凡そ、花・果、俱《とも》に麝香《じやかう》・衣香《えかう》・諸香の氣を忌《い》む、宜しく、蒜《のびる》・韭《にら》を栽うべし。以つて、之れを避(さ)く。香に觸るること、有らば、則ち、淹-溺《えんでき》≪せば≫[やぶちゃん注:「淹溺」は「溺死する」の意である。ここは、花や果実が、香に酔って元気を失ってへたってしまっていたなら。]、急《すぐ》に、雄黃《ゆうわう》を用《もちひ》て、艾《よもぎ》の葉に和(ま)ぜて、上風《かざかみ》に於《おい》て、之れを燒き、卽ち、解《かい》す。
凡そ、花を遠《とほく》に贈る≪には≫、菜《な》の葉を用《もちひ》て、籠《かご》の中に實《いれつめ》、上下(《う》へ《した》)に籍-覆(しき《おほひ》)、花をして、動-揺(うご)かざらしめ、亦、以つて、日《ひ》の氣《け》を禦(ふせ)ぐなり。又、蠟を以つて、花の蔕(へた)を封じ≪れば≫、數日《すじつ》、落ちず。
果の樹、茂盛して、實を結ばざる者には、元日、五更[やぶちゃん注:この時期では、午前三時頃から五時頃まで。]、或いは、除夜、斧《おの》を以つて、之れを斫(は)つれば、卽ち、實を結ぶ。一《いつ》に云ふ、「辰の日、斧を将《もつ》て、果樹を斫(は)つれば、子《み》を結んで、落ちず。」≪と≫。
△按ずるに、除夜、一人、樹の上に在《あり》、一人、其の下に在りて、誚(なじ)りて、曰はく、「汝《なんぢ》、宜しく、子を、結ぶか、否《いな》や。今、當《まさに》に斫り棄つべきなり。」≪と≫。樹の上の人、答《こたへ》て、曰はく、「諾(いかに)も、今より以後、宜しく、子を結ぶべし。」と云《いふ》なり[やぶちゃん注:云は送り仮名にある。]。果《はた》して、翌年、多《おほく》、子、有《あり》。蓋し、俗傳と雖《いへども》、和漢≪の≫趣《おもむき》、相似《あひに》たり。
諸木、卒然として、將《まさ》に枯《かれ》んとする者には、急《すぐ》に、宜しく、地上三寸≪の≫、陽《ひ》に向ふ𠙚《ところ》に、灸す。多《おほく》、活《かつ》す。
[やぶちゃん注:「張約齋が花果《くわくわ》を種る法」東洋文庫訳の後注で、著者については、『張鎡(ちょうじ)のこと。宋の文人。官は奉議郎・直秘閣。約斎は号。』とある。引用は、割注で、『(『古今医統』通川語方、花木類)』とある。当該部は、中文サイトの「五術堪輿學苑」の「古今醫統大全 通用諸方 花木類第二3026」で確認出来た。
「木樨(もくせい)」中国語の「木犀」は、双子葉植物綱シソ目モクセイ科オリーブ連モクセイ属モクセイ Osmanthus fragrans 等のモクセイ属の常緑香木の総称である。含まれる種は、先行する「木犀花」を見られたい。
「櫻桃(ゆすら)」何度も注意喚起しているが、この良安の読みは――完全なるハズレ――で「アウトウ」と読まねばいけないので、注意。本邦で「ゆすら」と言った場合は、
✕バラ目バラ科サクラ属ユスラウメ Prunus tomentosa(当該ウィキによれば、『中国北西部』・『朝鮮半島』・『モンゴル高原原産』であるが、『日本へは江戸時代初期にはすでに渡来して、主に庭木として栽培されていた』とある)
を指すが、中国語で「櫻桃」は、
○サクラ属カラミザクラ Cerasus pseudo-cerasus(唐実桜。当該ウィキによれば、『中国原産であり、実は食用になる。別名としてシナミザクラ』『(支那実桜)』・『シナノミザクラ』・『中国桜桃などの名前を持つ。おしべが長い。中国では』「櫻桃」『と呼ばれ』、『日本へは明治時代に中国から渡来した』とあるので、良安は知らない)
である。「維基百科」の「中國櫻桃」をリンクさせておく。
「黃薔薇《わうしやうび》」バラ目バラ科バラ属ロサ・ユゴニス Rosa hugonis の中文名。Shu Suehiro氏のサイト「ボタニックガーデン」の「ロサ・ヒューゴニス」のページに、『中国の中部、山西省から陝西省、甘粛省、青海省それに四川省に分布しています。日当たりの良い山地の林縁や潅木帯に生え、高さは』二『メートルほどになります。枝先は弓なりに垂れ下がり、細かい棘が生えています。春に直径』五~七『センチのレモンイエローの花を咲かせます。種名は、発見者のヒュー・スカラン(Hugh Scallan)神父に因みます』とある。因みに学名の読み方であるが、ラテン語ではhは発音しないので、「ユニゴス」と読んでおく。
「半枝紅《はんしこう》」 ナデシコ目タデ科ソバカズラ属イタドリ変種イタドリ Fallopia japonica var. japonica か。通常、花は黄色であるが、当該ウィキ(注記号はカットした)。によれば(一部を私が太字にした)、『春、タケノコのような赤紅色の斑点がある新芽が、地上から直立して生える。茎は円柱状の中空で、多数ある節は赤みを帯び』、『特に若いうちは葉に赤い斑紋が出る』。『花』は『雌雄異株で、葉腋と枝先に白か赤みを帯びた小さな花を多数つけた円錐花序をだして、枝の上側に並んでつく』。『特に花の色が赤みを帯びたものは、ベニイタドリ(メイゲツソウ)』(イタドリ品種ベニイタドリFallopia japonica var. japonica f. colorans )『と呼ばれ、本種の亜種として扱われる』とある。全く私の見当違いかも知れない。しかし、日中ともに「半枝紅」の植物名は見当たらない。
「臈梅(らう《ばい》)」前掲リンク先「古今醫統大全」では、『臘梅』となっているので、双子葉植物綱クスノキ目ロウバイ科ロウバイ属ロウバイ Chimonanthus praecox である。先行する「蠟梅」を見られたい。「蠟梅」は俗称を「臘」と言う(「維基百科」の「蠟梅」を見よ)。」
「楊柳《やうりう》」双子葉植物綱キントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属 Salix を指す。先行する「柳」を見よ。
「紫薔薇《ししやうび》」これは簡単に判ると思いきや、園芸品種に紫色のバラはゴマンとあり、中国で古くに、こう、名指したものが、如何なる種なのか、遂に判らなかった。識者の御教授を乞うものである。
「橙(だいだい)」この読みはミカン、基! アカンね。中国で言うこれは、少なくとも現代では、甘いムクロジ目ミカン科 ミカン属 オレンジ Citrus × inensis を指し(ウィキの「オレンジ」によれば、日本では、オレンジといえば、『主に和名アマダイダイ(甘橙、甘代々。 学名:Citrus sinensis )を指し、英語圏ではこれが「スイートオレンジ」と呼ばれている』。『スイートオレンジの品種は』、『接ぎ木による珠心胚実生を介したアポミクシスの無性生殖で殖やしていく』。『これらの変種は突然変異を介して生じる』。『オレンジは、ザボン(ブンタン)とマンダリンの交雑種である』。『葉緑体のゲノムすなわち母系はザボンのものである。スイートオレンジは全ゲノム配列解析済みである』。『オレンジは、中国南部・インド北東部・ミャンマーを含む地域が発祥で』、『同果物に関する最初期の言及が紀元前』三一四『年の中国文学に見られた』とある)、本邦の「橙(だいだい)」は、酸味のあるミカン属ダイダイ Citrus aurantium を指すからである。ダイダイは当該ウィキによれば、『インド、ヒマラヤが原産』で、『日本へは中国から渡来した』とある。
「橘《きつ》」これは、双子葉植物綱バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン属マンダリンオレンジ Citrus reticulata のこと。当該ウィキによれば、『原産地はインドのアッサム地方で、これが交雑などで変化しながら世界各地に伝播したものと考えられている』もので、一方、本邦の「橘」(たちばな)は、古代を除き(「古事記」に出る「橘」は如何なる種であったかは、現在も確定不能である)、同じミカン属ではあるが、日本固有のタチバナ Citrus tachibana で、種としては、異なる。なお、東洋文庫では、これに割注して、『(くねんぼ)』とするが、これはおかしい。クネンボはマンダリンオレンジ品種クネンボ Citrus reticulata 'Kunenbo' で、元はインドシナ原産の種であって、古く中国を経て渡来し、本邦で品種として改良され、栽培されるようになったものだからである。
「川海棠(《かは》かいどう)」不詳。所謂、「海棠」=バラ目バラ科ナシ亜科リンゴ属ハナカイドウ Malus halliana には、「~海棠」の漢字名を持つ近縁種や変種・品種ばかりか、以下の「黃海棠」のように、全く明後日の全然、縁がない別種もあるので、その中の一種ではあろうが、この名のものは、判らなかった。
「寒毬《かんきう》」不詳。クリ(栗)の類かとは思うのだが。
「黃海棠《わうかいどう》」これは、海棠とは縁も所縁もない、キントラノオ目オトギリソウ科オトギリソウ属トモエソウ Hypericum ascyron である。同種については、当該ウィキを見られたい。「維基百科」の同種の標題が、バッチり、「黃海棠」であるからである。
「鍾乳《しようにう》」鍾乳石のこと。鍾乳洞(石灰洞)の天井に垂れ下がる、白色に近い氷柱状の石灰岩。石灰岩が二酸化炭素を伴った水に溶けて鍾乳洞の天井から滲み落ちる際に、二酸化炭素を含む水分を空気中に放出してできた炭酸カルシウム CaCO3 で表が再び固まったもの。「石鍾乳」とも言う。樹木が強い酸性土壌から摂取してしまう酸性物質を中和させるためであろう。植物にはアルカリ性土壌を好むものと、酸性土壌を好むものがあるが、「タキイネット通販」の「土壌改良のためだからといって、石灰をやりすぎることはよくないと聞きましたが、本当でしょうか?」に、『酸性が強くなると、植物に必要な成分(リン酸、カルシウムなど)の吸収が妨げられ、主要栄養分の欠乏をきたします。その一方で、植物に有害なアルミニウムが大量に溶け出すなど、強い酸性土壌では、園芸植物の多くは生育が悪くなってしまうのです』とあった。]
果(このみ)を收-貯(たばふ)[やぶちゃん注:「果実を貯蔵する(方法)」の意。]
「古今醫統」に云はく、『諸般の青果、收-貯(たば)ふ法。淨《きよ》き罈(つぼ)の中に、十二月、臘水《らうすい》を下《したたら》し、些(ちと)小(ばかり)、銅青(ろくしやう)の末《まつ》を入《いれ》、《靑果を》宻封して、久《ひさしく》留《とど》めて《✕→めれば》、青≪き≫色、變ぜず。凡そ、青梅・批杷・林檎・葡萄・小-棗(なつめ)・橄欖《かんらん》・菱(ひし)・芡(みつぶき)・橙(だいだい)・瓜(うり)・李・(すもゝ)・柰(からなし)の類《るゐ》、皆、收むに、此くのごとくなること、有り。』≪と≫。
又、『生《なま》の大竹《おほだけ》を用《もちひ》て、一つの孔《あな》を鑿(ほ)り、鮮(あらら)しき果を以つて、投入《とうにふ》≪す≫。皮を傷-破(やぶ)るべからず。以つて、木で、孔《あな》を塞ぎ、泥にて、之れを封ず。久《ひさしく》留《とどめ》て、壤(そこね)ず。』≪と≫。桃・李・杏、皆、然《しか》り。
[やぶちゃん注:「たばふ」という和語は「庇ふ・貯ふ」と書き、「かばう・守る」の芋の他に、「蓄える・保存しておく」の意がある。
「臘水」これは、単に十二月の水ではなかろう。「臘」は、原義は、「冬至の後、第三の戌 (いぬ)の日に行う祭りで、猟の獲物を祖先や神々に供える」という日の意がある。ここでは、その日に汲んだ神聖な指すものと思う。
「橄欖《かんらん》」ムクロジ目カンラン科カンラン属 カンラン Canarium album 。ウィキの「カンラン科」によれば、『インドシナの原産で、江戸時代に日本に渡来し、種子島などで栽培され、果実を生食に、また、タネも食用にしたり油を搾ったりする。それらの利用法がオリーブ』(シソ目モクセイ科オリーブ属オリーブ Olea europaea )『に似ているため、オリーブのことを漢字で「橄欖」と当てることがあるが、全く別科の植物である。これは幕末に同じものだと間違って認識され、誤訳が定着してしまったものである』とある。
「芡(みつぶき)」双子葉植物綱スイレン(睡蓮)目スイレン科オニバス(鬼蓮)属オニバス Euryale ferox 。一属一種。別名「ミズブキ」(水蕗)。当該ウィキによれば、『アジア原産で、現在ではアジア東部とインドに見られる』。『日本では本州、四国、九州の湖沼や河川に生息していたが、環境改変にともなう減少が著し』く、嘗て『宮城県が日本での北限だったが』、『絶滅してしまい、現在では新潟県新潟市北区松浜に位置する松浜の池が北限』『となっている』。『ハスと名が付くが』、『分類上はハス科ではなく』、『スイレン科に属する』。『葉が大型で葉や葉柄に大きなトゲが生えていることから「オニ」の名が付けられている』。『特に葉の表裏に生えるトゲは硬く鋭い。葉の表面には不規則なシワが入っており、ハスやスイレン等と見分けることができる。また、ハスと違って葉が水面より高く出ることはなく、地下茎(レンコン)もない』。『春ごろに水底の種が発芽し、矢じり型の葉が水中に現れる。茎は塊状で短く、葉は水底近くから水面へと次々に伸びていき、成長するにつれて形も細長いハート型から円形へ変わっていく。円形の葉は、丸くシワだらけの折り畳まれた姿で水面に顔を出し広がる。円形葉の大きさは直径』三十センチメートルから二メートル程と『巨大で』、一九一一年には『富山県氷見市で直径』二メートル六十七センチメートルもの『葉が見つかっている』。『花は水中での閉鎖花が多く、自家受粉で』百『個程度の種子をつくる。種子はハスと違って球形で』、『直径』一センチメートル程。八月から九月頃、『葉を突き破って花茎を伸ばし、紫色の花(開放花)を咲かせることもある。種子はやがて水底に沈むが、全てが翌年に発芽するとは限らず、数年から数十年』も『休眠してから発芽することが知られている。また冬季に水が干上がって種子が直接空気にふれる等の刺激が加わることで発芽が促されることも知られており、そのために自生地の状態によってはオニバスが多数見られる年と』、『見られない年ができることがある』。『農家にとってオニバスは、しばしば排除の対象になることがある。ジュンサイ』(スイレン目ハゴロモモ科ジュンサイ属ジュンサイ Brasenia schreberi )『などの水草を採取したりなど、池で農作業を行う場合、巨大な葉を持つオニバスは邪魔でしかないうえ、鋭いトゲが全体に生えているために嫌われる羽目になる。また、オニバスの葉が水面を覆い』、『水中が酸欠状態になったため、魚が死んで異臭を放つようになり、周囲の住民から苦情が出たという話もある』。『水が少ない地域に作られるため池では水位の低下は死活問題に直結するが、オニバスの巨大な葉は水を蒸散させてしまうとされて歓迎されないこともあった』。『葉柄や種子を食用としている地域もある』。『種子は芡実(けつじつ)とも呼ばれ、漢方薬として用いられている』。『日本では、環境の悪化や埋め立てなどで全国的に自生地の消滅が相次ぎ』、『絶滅が危惧されており、オニバスを含めた環境保全運動も起きている。ため池に関しても』、『減反や水事情の改善によって以前よりも必要性が薄れており、管理している水利組合等との話し合いによって保全活動が行われているところもある』。『氷見市の「十二町潟オニバス発生地」は』大正一二(一九二三)年に『国の天然記念物に指定され』、『保護されてきたが、後に指定範囲での自生は見られなくなっており、現在は再生の取り組みが行われている』。『このほか、各地の自治体によって天然記念物指定を受ける自生地も多い。環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている』。僕らの子ども時代の図鑑の定番挿絵であった『子供を乗せた写真で知られるオニバスに似た植物は、南米原産のオオオニバス』は同じスイレン科 Nymphaeaceae のオオオニバス属オオオニバス Victoria amazonicaであり、オニバスとは別種である。「三重県」公式サイト内の「紙上博物館」の「絶滅の危機にひんする弱きオニ」も見られたい。学名のグーグル画像検索もリンクさせておく。
「橙(だいだい)」既出既注。「だいだい」はアウトだっつうの!
「柰(からなし)」現代中国語では、バラ科モモ亜科ナシ連ナシ(リンゴ)亜連リンゴ属セイヨウリンゴ Malus domestica を指すが、宋代の「柰」は広義のリンゴ(リンゴ属)に留めておくのがよかろう。なお、この漢字は本邦では、まず、別にリンゴ属ベニリンゴ Malus beniringo を指す。小学館「日本大百科全書」によれば、葉は互生し、楕円形、又は、広卵形で、縁(へり)に細かな鋸歯(きょし)がある。四~五月、太く短い花柄の先に、白色、又は、淡紅色の花を上向きに開く。この形状から別名「ウケザキカイドウ」(受咲海棠)とも呼ぶ。楕円形のリンゴに似た果実が垂れ下がる。先端に宿存萼(しゅくそんがく:花が枯れ落ちた後になっても枯れずに残っている萼のこと)があり、十月頃、紅色、又は、黄色に熟す。本州北部原産で(従って、ここでの「柰」としては無効)、おもに盆栽にするが、切り花にも用いる。日当りのよい肥沃な砂質壌土を好み、寒地でよく育つ、とある。ところが、実は、この漢字、また、別に、日本では「からなし」(唐梨)と訓じ、一般名詞では赤い色をした林檎を指す以外に、面倒なことに、バラ科シモツケ亜科ナシ連ナシ亜連カリン属カリン Pseudocydonia sinensisの異名としても通用しているのである(但し、カリンの中文ウィキ「木瓜(薔薇科)」の解説(非常に短い)には、この「柰」の字は載っていないし、前に出した「植物名實圖考(道光刻本)」の「第三十二卷」の「木瓜」の解説にも「柰」の字は使われていないから、「柰」には中国語としてはカリンの意はないと考えてよかろう)。ネット上でも、「柰」の字の示す種、或いは、標準和名や通称名・別名が、ごちゃごちゃになって記載されており、甚だ混乱錯綜してしまっている。
以上の引用は、先に示したサイトでは、見当たらなかったが、別の中文サイト「Qi」の「歷代名著選」の「醫論」にある「古今醫統大全」の「古今醫統大全 卷之九十八 通用諸方」に、以下のように見出せた(このサイト、物凄い!!!)。
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【諸般青果】用十二月收貯淨壇中下臘水,入些小銅青末,密封,久留青色不變。凡有青梅、枇杷、林檎、葡萄、小棗、橄欖、菱、芡、橙、瓜、李、柰之類,皆收如此。
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【桃、李、杏】用生大竹鑿一孔、以鮮果投入、不可傷破皮、以木塞孔。泥封之。久留不壞。
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