和漢三才圖會卷第八十五 寓木類 桑寄生
さうき せい 寄屑 寓木
宛童 蔦
桑寄生
【久和乃也止里木】
本綱凡物寄寓他木而生在樹爲寄生在地爲寠藪其高
者二三尺其根在枝節之內其葉圓而微尖厚而柔靣青
而光澤背淡紫有茸四月花白色其子黃色大如小豆子
汁稠粘者良也伹生桑樹上者佳他木寄生恐反有害此
物若以爲鳥食物子落枝節閒感氣而生則麥當生麥穀
當生穀不當生此一物也自是感造化之氣別是一物也
惟取桑上者是假其氣爾第以難得眞者須自采或連桑
采者佳以銅刀和根枝莖葉剉勿見火
桑寄生【苦或云甘】 治腰痛癰腫安胎去產後餘疾主金瘡
△按嫩樹無寄生而養蠺之地老桑亦少故眞者難得唯
隱岐肥前五島有之俗以爲中風要藥貴之
*
さうき せい 寄屑《きせつ》 寓木《ぐうぼく》
宛童《えんだう》 蔦《つた》
桑寄生
【「久和乃也止里木《くわのやどりぎ》」。】
「本綱」に曰はく、『凡《およそ》、物、他木に寄寓《きぐう》して、生ず。樹に在るを、「寄生《やどりぎ》」と爲す。地に在《ある》を「寠藪《くそう》」と爲す。其の高き者、二、三尺。其の根、枝節《えだふし》の內《うち》に在《あり》、其の葉、圓《まろ》≪く≫して、微《やや》尖り、厚くして、柔かに、靣《おもて》、青く、光澤≪あり≫、背、淡紫にして、茸《じよう》[やぶちゃん注:ここは「細くて細かな毛」の意。]、有り。四月、花、≪開き、≫白色≪たり≫。其の子《み》、黃色。大いさ、「小豆《あづき》」の子のごとし。汁、稠粘《ちうねん》する[やぶちゃん注:粘りがしっかりとある。]者、良なり。伹《ただし》、桑の樹の上に生ずる者、佳なり。他木の寄生(やどりぎ)、恐らくは、反《かへり》て、害、有《あら》ん。此の物、若《も》し、以≪つて≫、鳥、≪その≫物の子を食ひて、枝節の閒《あひだ》に落とし、氣を感じて、生ずと爲せば、則《すなはち》、麥《むぎ》は、當《まさ》に麥を生ずべく、穀《こく》≪ならば≫、當に穀を生ず。當に此の一物≪のみを≫生ずべからざるなり。是《これに》より、造化《ざうか》の氣を感じ≪たる物にして≫、別に、是れ、一物なり。惟《ただ》、桑の上の者を取るは、是れ、其の氣を假《か》るのみ。第(たゞ)、以つて、眞なる者を、得難し。須らく、自(みづか)ら采るべし。或いは、桑を連《つらね》て[やぶちゃん注:桑を摘むのと一緒に。]、采る者、佳なり。銅刀を以つて、根・枝・莖・葉を和(ま)ぜて、剉《きる》。火《ひ》を見すること、勿《なか》れ。』≪と≫。
『桑寄生《さうきせい》【苦。或いは、「甘」とも云ふ。】』『腰痛・癰腫[やぶちゃん注:悪性の腫れ物で、根が浅く、大ききなものを指す。]を治し、胎を安≪んじ≫、產後の餘疾《よしつ》を去り、金瘡《かなさう》を主《つかさど》る。』≪と≫。
△按ずるに、嫩(わか)き樹に、寄生《やどりぎ》、無くして、蠺《かひこ》を養ふの地に、老桑《おひくは》、亦、少《すくな》し。故、眞なる者、得難し。唯《ただ》、隱岐・肥前の五島に、之れ、有り。俗、以つて、「中風《ちゆうぶ/ちゅうぶう》の要藥」と爲し、之れを貴《とうとぶ》。
[やぶちゃん注:やっと、巻の大項目である「寓木類」(木に宿るもの)の正当な植物が登場した(個人的には好きな寄生植物である)。まず、先に、良安の本邦の知られた自生種のタイプ種を示すと、
双子葉植物綱ビャクダン(白檀)目ビャクダン科ヤドリギ属セイヨウヤドリギ亜種ヤドリギ Viscum album subsp. coloratum
である。而して、「維基百科」の同種(タイプ種 Viscum album )「槲寄生」では、「分類」の上記種を示しつつ、そこで、『中国の植物相の分類規定では、
独立種 Viscum coloratum (Kom) Nagai
として扱われる』とし、『日本に分布するヤドリギとヨーロッパの亜種は同じ染色体系に属しているが、染色体転座の多様性が最も大きいことが確認されている』という興味深い記載がある(以下に示す邦文ウィキも参照されたい)。また、「維基百科」の「槲寄生」では、中国に分布する別種を示していないことから、同一と考えて問題ないようにも思われたが、シメとして、「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「ヤドリギ」を見ると、
● Viscum articulatum (漢名『扁枝槲寄生・楓香寄生・蟹爪寄生・蝦脚寄生・螃蟹脚・桐樹寄生』。『アジア・太平洋諸島・豪洲の熱帯・亜熱帯に産』する。「中国本草図録」に拠る)
● カキノキヤドリギ Viscum diospyrosicola (漢名『稜枝槲寄生』。『臺灣・河北以南に産』する、「雲南の植物Ⅰ」)
● Viscum fargesii (漢名『綫葉槲寄生』。『陝甘』(現在の陝西省)『・青海・四川産』)
● フウノキヤドリギ Viscum liquidambaricola(漢名『楓香槲寄生・狹葉楓寄生』。『臺灣・河北以南・越南・タイ産』)
● Viscum monoicum (漢名『五脈槲寄生』。『中国~インド産』)
● Viscum multinerve (漢名『果柄槲寄生』。『中国南部・臺灣・ベトナム・タイ・ネパール産』。「中国本草図録」に拠る)
● Viscum nudum (漢名『綠莖槲寄生』。『中国』の『西南産』。「雲南の植物Ⅱ」に拠る)
● Viscum orientale (漢名『瘦果槲寄生』。『ヒマラヤ・インド・アフガニスタン産』)
● Viscum ovalifolium(漢名『瘤果槲寄生』。『中国南部・東南アジア・豪洲産』)
の九種が載るので、「本草綱目」に載るものは、「槲寄生」属の以上の種等として、ヤドリギ Viscum album subsp. coloratum に加えて、同属異種で掲げておく必要があるように思われる。
以下、当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『ヤドリギ(宿生木・宿り木・宿木・寄生木)は広義には』、『ヤドリギ類(Mistletoe)の総称的通称だが、狭義には』、『特にそのうちの一種、日本に自生する Viscum album subsp. coloratum の標準和名である。英語ではミスルトウ(mistletoe)と呼ばれる』。『狭義のヤドリギ Viscum album subsp. coloratum は、セイヨウヤドリギ Viscum album (英語:European mistletoe, common mistletoe)の亜種である。この項目ではViscum albumと』、『その亜種について解説する』。『なお、学名はラテン語』で『「白い(album)宿り木(viscum)」の意』である。『従来はヤドリギ科』Viscaceae『に属すとされていたが、現在(APG植物分類体系)はビャクダン科』Santalaceae『に含められている』。『ヨーロッパ』、『及び』、『西部・南部アジア原産』の『寄生植物で』、『地面には根を張らず、他の樹木の枝の上に生育する常緑の多年生植物である。他の樹木の幹や枝に根を食い込ませて成長するが、一方的に養分や水を奪っているわけではなく』、『自らも光合成をおこなう半寄生である』。三十センチメートルから一メートル『ほどの長さの叉状に分枝した枝を持つ。黄色みを帯びた緑色の葉は』一『組ずつ対をなし、革のような質感で、長さ』二~八センチメートル、『幅』〇・八~二・五センチメートル』、『ほどの大きさのものが全体にわたってついている。花はあまり目立たない黄緑色で、直径』二~三ミリメートル『程度である。果実は白または黄色の液果であり、数個の種子が非常に粘着質なにかわ状の繊維に包まれている。果実の色は、アカミヤドリギは赤色、セイヨウヤドリギは白色、日本のヤドリギは淡黄色が多い』。『全体としては、宿主の枝から垂れ下がって、団塊状の株を形成する。宿主が落葉すると、この形が遠くからでも見て取れるようになる』。『ヤドリギは多細胞真核生物としては初めてミトコンドリアの複合体Ⅰ』(Complex Ⅰ:呼吸に於ける電子輸送の最初の段階の反応を行なう酵素で、NADHキノン酸化還元酵素NADH(nicotinamide adenine dinucleotide))とも呼ばれる。ミトコンドリア呼吸鎖の中で最大の複合体であり、電子伝達系の最初の役割を担っている)『が完全に欠如し』、『電子伝達系全体が変化していることが確認された生物である』。『亜種は一般的に』四『種類まであるとされており、しばしば』、『さらに』二『亜種が加えられる。それらは果実の色、葉の形と大きさ、そして最も特徴的には』、『宿主となる木が異なる』ことである。
● Viscum album subsp. abietis(『中央ヨーロッパに分布』し、『果実は白、葉の大きさ』八『センチメートル』で、『モミに寄生する』)
● セイヨウヤドリギ Viscum album subsp. album (『ヨーロッパ西部・南部アジアが原産。ヨーロッパ、南西アジアからネパールにかけて分布。果実は白、葉は』三~五『センチメートル。リンゴ属、ポプラ、シナノキ属、まれにコナラ属の樹木に寄生』する)
● Viscum album subsp. austriacum (『中央ヨーロッパに分布。果実は黄色、葉は』二~四『センチメートル。カラマツ属、マツ、トウヒに寄生する』)
● Viscum album subsp. meridianum (『東南アジアに分布。果実は黄色。葉は』三~五『センチメートル。カエデ、クマシデ属、クルミ、サクラ属、ナナカマド属に寄生』する)
● Viscum album subsp. creticum (『ベーリング(Böhling)らが』、『近年』、『クレタ島西部から報告した(Böhling et al. 2002)』亜種で、『果実は白、葉は短い。カラブリアマツ( Pinus brutia )に寄生』する)
◎ヤドリギ Viscum album subsp. coloratum Komar (『日本でヤドリギといった場合、主にこれを指す』「中国植物志」(中国科学院中国植物志編輯委員会編・一九五九年~二〇〇六年・科学出版社刊)『では別種 Viscum coloratum (Komar) Nakai として扱われる』)
(以上の太字は私が附した)。以下、「日本のヤドリギ」の項。『標準和名ヤドリギ(学名:Viscum album subsp. coloratum 』又は、『 Viscum album subsp. coloratum f. lutescens 』(』『(狭義)』『は、半寄生性の常緑広葉樹の小低木。日本のヤドリギは上記のようにセイヨウヤドリギの亜種とされる』。『日本、朝鮮半島、中国』(☜)『に分布し、日本では北海道、本州、四国、九州に分布する。宿主樹木は主にエノキやケヤキなどの落葉広葉樹で、クリ・アカシデ・ヤナギ類・ブナ・ミズナラ・クワ・サクラにも半寄生して』、『宿主樹木は幅広いが、基亜種よりは多くない。宿主の枝や幹に根をはって、養分と水分を吸い取って生育し、樹上に丸く茂る。枝は緑色で』二、三『回ほど分枝する。冬になると葉を落とした宿主樹木の上で、常緑の葉が目立つ』。『葉は対生。葉身は倒披針形で長さ』二~六『センチメートル』、『革質で厚い。花期は』二~三『月、雌雄異株で、枝先の葉の間に小さな黄色い花が咲く。果期は』十一~十二『月。果実の直径は』六『ミリメートル』『ほどの球形で、基亜種の果実が白く熟すのに対し、淡黄色になる。まれに橙黄色になるものがあり、アカミヤドリギ f. rubro-aurantiacum と呼ばれる』。『キレンジャク・ヒレンジャクなどがよく集まることで知られ、果実は冬季に鳥に食われて遠くに運ばれる。果実の内部は粘りがあり、種子はそれに包まれているため、鳥の腸を容易く通り抜け、長く粘液質の糸を引いて宿主となる樹上に落ちる。その状態でぶら下がっているのが見られることも多い。粘液によって樹皮上に張り付くと、そこで発芽して樹皮に向けて根を下ろし、寄生がはじまる』。『枝や葉は、腰痛や婦人病の薬になる』。以下の「学名」の項には、以下が列挙される。
ヤドリギ(標準学名)Viscum album L. subsp. coloratum Kom. (1903)(『別名タイワンヤドリギ』)
ヤドリギ(狭義)Viscum album L. subsp. coloratum Kom. f. lutescens (Makino) H.Hara (1952)
ヤドリギ(シノニム)
Viscum album L. var. coloratum (Kom.) Ohwi (1953)
Viscum coloratum (Kom.) Nakai var. alniformosanae (Hayata) Iwata (1956)
Viscum coloratum (Kom.) Nakai (1919)
Viscum alniformosanae Hayata (1916)
『古くからヨーロッパでは宗教的に神聖な木とされ幸運を呼ぶ木とされてきた。冬の間でも落葉樹に半寄生した常緑樹(常磐木)は、強い生命力の象徴とみなされ、西洋・東洋を問わず、神が宿る木と考えられていた』。私の偏愛する、イギリスの社会人類学者『ジェームズ・フレイザー』(James George Frazer 一八五四年~一九四一年)の名著で、未開社会の神話・呪術・信仰に関する集成的研究書である「金枝篇」(‘ The Golden Bough ’)『の金枝とは』、『宿り木のことで、この書を書いた発端が、イタリアの』ローマ県ネーミ(Nemi:ここ)『における宿り木信仰、「祭司殺し」の謎に発していることから採られたものである。古代ケルト族の神官ドルイドによれば、宿り木は神聖な植物で、もっとも神聖視されているオーク』(ブナ目ブナ科コナラ属オウシュウナラ Quercus robur )『に宿るものは何より珍重された』。『セイヨウヤドリギは、クリスマスには宿り木を飾ったり、宿り木の下でキスをすることが許されるという風習がある。これは、北欧の古い宗教観に基づいたもので、映画や文学にもたびたび登場する』とある。
「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十七」の「木之四」「寓木類」にある([090-13a]以下)「桑上寄生」のパッチワークである。
「桑寄生」生薬名「ソウキセイ」。「日本薬学会」公式サイト内の「ヤドリギ Viscum album L. subsp. coloratum Komar. (ヤドリギ科)」に以下のようにある(学名の斜体でないのはママ。ウィキぺディアを信頼しないガチガチのアカデミストのために、全文を引用させて貰った)。
《引用開始》
冬の落葉した木々に緑の葉を付けて寄生しているヤドリギをよく見かけます。ヤドリギは北海道から九州に分布し、エノキ、ブナ、ミズナラ、ケヤキやサクラなど落葉樹に寄生するため、冬にこんもりした小さな枝のかたまりを容易に見つけることができます。枝は緑色の円柱で、二あるいは三股状に分かれます。葉は対生で、葉質は厚くて細長く、先は丸く、長さ3~6 cm、幅0.5~1 cm程です。雌雄異株で、2~3月に黄色の花は咲きますが、小さくてあまり目立ちません。果実は直径6 mm程の球形で、早春に薄黄色に熟し、半透明になります。果肉はもちのように粘りがあり、鳥黐(とりもち)として、細いサオの先に塗って、小鳥や昆虫の捕獲に使われてきました。また、甘い果実を鳥が好んで食べ、糞中に残った未消化の粘性をもった種子や食べ残しの種子が他の樹皮に付着して、発芽後に新株となります。このようにヤドリギは種子を鳥散布型で他の樹木に付着させる戦略で、種の保存を保っています。
和名は「宿り木」又は「寄生木」で、まさしく樹の上を宿のように寄生して繁茂することに由来します。また、「ホヤ」、「ホヨ」や「トビヅタ」という古名もあります。英名はJapanese Mistletoeと言います。学名のViscumはヤドリギを表すラテン語で粘性の鳥黐(とりもち)に由来し、種小名のalbumは「白い」を意味します。これはヨーロッパ産のセイヨウヤドリギ(V. album)の果実が白色であることに由来します。この種は1893年以来米国オクラホマ州の象徴花となっています。coloratumは「色のついた」の意味で、日本のヤドリギの果実が薄黄色であることを示しています。これとは別に橙赤色の実を結ぶものはアカミノヤドリギ(V.alubum var.rubro-aurantiacum)といいます。
ヤドリギやアカミノヤドリギの枝や葉を乾燥させたものを生薬ソウキセイ(桑寄生)といいます。ソウキセイを煎じて飲むと、血圧を下げ、利尿、頭痛の緩和、リウマチ、神経痛、婦人の胎動不安、産後の乳汁不足などに効果があるとされています。漢方では独活寄生丸(どっかつきせいがん)に配合され、腰痛、関節痛、下肢のしびれ・痛みに効果のある処方として市販されています。ちなみに、セイヨウヤドリギエキスは国外でサプリメントとして、高血圧、動悸や頻脈に使用されています。国内では同エキスを含む4種の生薬エキスからなる薬が、緊張緩和やあがり症などにも効果がある催眠鎮静薬として市販されています。
ヤドリギ科は1,300種もあり、日本にはヤドリギとは属の異なる、葉の大きいオオバヤドリギ(Scurrula yadoriki (= Taxillus yadoriki ))や葉がヒノキに似たヒノキバヤドリギ(Korthalsella japonica)などが生育します。前者は絶滅危惧種に、後者は準絶滅危惧種に指定されています。ヤドリギの仲間は足が地に着くことなく、その存続さえも危ぶまれる気の毒な植物なのです。(高松 智、小池 佑果、磯田 進)
《引用終了》
とある。
「中風」脳血管障害の後遺症である半身不随・片麻痺・言語障害、及び、手足の痺れや麻痺などを指す症状の総称。]