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2024/11/07

和漢三才圖會卷第八十五 寓木類 猪苓

 

Tyorei

 

[やぶちゃん注:双子葉植物綱ブナ目ブナ科 Fagaceaeの類(下部の葉から。上部のモミジ様の葉は同一の木の葉とは思われない。鋸歯から、ブナ科コナラ属コナラ亜属ミズナラ Quercus crispula var. crispula ぽい)と思しい木の下方に五個の猪苓が描かれてある。]

 

ちよれい 豭豬屎 豕槖

     地烏挑

猪苓

 

 

チユイ リン

 

本綱猪苓生山谷是木之餘氣所結如松之餘氣結茯苓

之義他木皆有楓木爲多耳其皮黒色肉白而實者佳削

去皮用其塊黒似猪屎故名【古者屎與苓字通用】肉赤黒者不可用

猪苓【廿平】 升而微降【與茯苓同】治痎瘧利水道解傷寒温疫

 大熱發汗能除温如無濕證者勿服之又久服必損腎

 氣昬人目

 

   *

 

ちよれい 豭豬屎《かちよし》 豕槖《したく》

     地烏桃《ちうたう》

猪苓

 

 

チユイ リン

 

「本綱」に曰はく、『猪苓は山谷に生ず。是れ、木の餘氣《よき》、結する所。松の餘氣、茯苓《ぶくりやう》に結するの義のごとし。他木、皆、有り《✕→るも》、楓木《ふうぼく》に、多く、爲《な》るのみ。其の皮、黒色、肉、白くして、實《じつ》する[やぶちゃん注:十全に中実が緻密である。]者、佳し、皮を、削り去りて、用ふ。其の塊《かたまり》、黒≪くして≫、猪《ゐのしし》の屎《くそ》に似たる故《ゆゑ》、名づく【古《いにしへ》は、「屎」と「苓」の字、通用せり。】。肉、赤黒き者、用ふべからず。』≪と≫。

『猪苓【廿、平。】』『升《のぼ》りて[やぶちゃん注:樹木の根附近から延び上がって。]、微《やや》、降《くだ》る【茯苓《ぶくりやう》と同じ。】。痎瘧《がいぎやく》[やぶちゃん注:熱性マラリア。]を治し、水道を利し、傷寒《しやうかん》・温疫《おんえき》[やぶちゃん注:急性伝染性の熱病。]・大熱を解す。汗を發して、能く、温《おん》を除く。如(も)し、濕證《しつしやう》、無き者、之れを服すること、勿《なか》れ。又、久《しさしく》、服すれば、必《かならず》、腎氣を損《そんじ》、人≪の≫目《め》を昬《くら》くす[やぶちゃん注:眼が曇って見え難く

させる。]。』≪と≫。

 

[やぶちゃん注:「猪苓」は、日中ともに、

菌界担子菌門真正担子菌綱チョレイマイタケ目サルノコシカケ科チョレイマイタケ属チョレイマイタケ Polyporus umbellatus

である。「維基百科」の「豬苓」を見られたい。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記は『猪苓舞茸』。『株の高さは』十~二十センチメートルm『径は』十~三十センチメートル。『表面の色は栗褐色〜淡茶褐色。根元から枝分かれした先端に』一~四センチメートル『の径の傘をつける。白色腐朽菌』。『ヨーロッパや北アメリカ、中国などに分布』し、『日本では本州中部以北にみられる』。『ブナ林、ミズナラ林』、『或いは』、『これらの伐採跡地の地下』十センチメートル『程の所に宿主の根に沿って固い菌核を形成し、ここから』、或いは、『宿主から』、『直接』、『マイタケ型の子実体を生じる。この菌核は猪苓(ちょれい)と呼ばれ』、『日本薬局方に収録されている生薬である』。『猪苓は、消炎、解熱、止褐、利尿薬、抗がん剤として用い、有効成分は明らかになっていないが、最近は抗腫瘍効果があるとする研究も公表されている。また、猪苓湯(ちょれいとう)、五苓散(ごれいさん)、柴苓湯(さいれいとう)などの漢方方剤に配合される』とある。漢字文化圏の医史・本草史・医薬文化交流史・医薬書誌学の研究者で、北里研究所東洋医学総合研究所の真柳誠氏のサイト「医史学の真柳研究室」の真柳誠『「漢方一話  処方名のいわれ38-猪苓湯」『漢方診療』14巻6号35頁、1996年1月』の「漢方一話  処方名のいわれ38 猪苓湯」に以下のように記されておられる。

   《引用開始》

 猪苓湯は3世紀初の仲景医書が出典で、『傷寒論』陽明病篇・少陰病篇や『金匱玉函経』、また『金匱要略』消渇小便利淋病篇などに記載される。猪苓・茯苓・阿膠・滑石・沢瀉の5味からなり、もちろん本処方名は主薬の猪苓にちなむ。ただし猪苓を配剤する本方以外の仲景医方は五苓散と『金匱要略』にある3味の猪苓散のみで、計3首[やぶちゃん注:「種」か。以下、同じ。]しかない。

 なお五苓散の方名はもともと猪苓散だった。それで3味の猪苓散と区別するため五味猪苓散といい、さらに五苓散になったことは幕末の森立之がすでに考証している。一方、猪苓は『神農本草経』から本草書に収載されたが、これに増補した『名医別録』は効能を追加しない。前漢や後漢の出土医書にも猪苓の記載はない。仲景医書の猪苓配剤方も3首のみなので、かつて猪苓はさほど常用されない薬物だったようだ。

 これには猪苓の古義が関係するかもしれない。『神農本草経』は猪苓の別名に{豕+(暇-日)}猪矢(屎)を記し、それに陶弘景は「塊で皮が黒く、猪屎に似るためこう名づけられた」と注釈する。むろん中国語の猪は日本語のブタをいい、イノシシではない。つまり豚の糞らしい外観からの命名である。

 別な解釈もできる。晋の司馬彪は『荘子』徐無鬼にある「豕零」について、司馬本が「豕嚢」に作るといい、「一名を猪苓、根が猪卵に似て渇きを治す」と注する。獣類の卵とは睾丸をいうので、「猪卵」は豚の睾丸、そして「豕嚢」は豚の陰嚢ということになる。すると豚の陰嚢に類似することから古くは豕嚢とよばれ、のち豕零そして猪苓に変化したと解釈できる。茯苓の和名マツホトが、松の陰嚢をいう古い和語であることも当解釈を支持しよう。

 しかし糞・陰嚢のいずれにせよ、この薬名では服用する気になれない。かつて常用されなかった理由だろうか。猪苓の古義は詮索すべきでなかった。反省!

   《引用終了》

 「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十七」の「木之四」「寓木類」にある([090-11b]以下)「豬苓」のパッチワークである。

「豭豬屎《かちよし》」「豭」は原義が「豚」(哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ亜目イノシシ科イノシシ属イノシシ亜種ブタ Sus scrofa domesticus )で、その原種「猪」(イノシシ Sus scrofa )をも指す。「豭」も同義であるが、特にイノシシを指す漢語である。「屎」は「糞」に同じ。

「豕槖《したく》」「豕」は「いのこ」と訓じ、イノシシ・ブタを総称する漢語。「槖」は「袋(ふくろ)」の意。「屎・糞」を忌んで言ったものであろう。

「地烏桃《ちうたう》」これも「糞」を厭じて、作った名であろう。この名でグーグル画像検索を掛けると、桃の実の画像の合間に、中文サイトの「豬苓」の画像が挟まる。

「茯苓《ぶくりやう》」先行する「茯苓」を見よ。

「傷寒《しやうかん》」漢方で「体外の環境変化により経絡が冒された状態」を指し、具体には、「高熱を発する腸チフスの類の症状」を指すとされる。

「濕證《しつしやう》」これは、現行の慢性関節リウマチの症状を指すようである。]

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