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2024/12/31

和漢三才圖會卷第八十七 山果類 柰

 

Dai

 

からなし 頻婆【梵言】

 

【音耐】

 

 

本綱柰江南雖有而北國最豊作脯食之【苦寒有小毒】與林檎

[やぶちゃん注:「雖」は、原本では、「グリフウィキ」のこれに近いが、(へん)の貫く「口」が、もう一つある奇体な字体で、表示出来ない。通用字で示した。]

一類二種樹實皆似林檎而大有赤白青三色白者爲素

柰赤者爲丹柰【一名朱柰】青者爲綠柰皆夏熟

又有冬柰冬熟子帶碧色【凉州有之】

 

   *

 

からなし 頻婆《ひんば》【梵言。】

 

【音「耐(タイ)」。】

 

 

「本綱」に曰はく、『柰《だい》は、江南[やぶちゃん注:現在の江蘇省・浙江省。]にも有ると雖《いへども》、北國《ほくこく》には、最も豊《おほ》し。脯《ほしもの》と作《なし》、之れを食ふ【苦、寒。小毒、有り。】林檎と、一類、二種なり。樹・實、皆、林檎に似て、大なり。赤・白・青、三色、有り。白≪き≫者を、「素柰《そだい》」と爲し、赤き者、「丹柰《たんだい》」【一名、「朱柰《しゆだい》」。】と爲し、青き者を「綠柰《りよくだい》」と爲す。皆、夏、熟す。』≪と≫。

『又、「冬柰《とうだい》」、有り。冬、熟す。子《み》、碧色《みどりいろ》を帶ぶ【凉州[やぶちゃん注:現在の甘粛省。]、之れ、有り。】。』≪と≫。

 

[やぶちゃん注:前の「菴羅果」の項の最後の注で、中央アジア原産であるサクラ亜科リンゴ属セイヨウリンゴ Malus domestica としたが(東洋文庫訳では、そっちも、こっちも、割注で「セイヨウリンゴ」に同定している)、その最後で、私は中国のリンゴの野生種の祖先として、

新疆野蘋果 Malus sieversii

を挙げ、英文の同種のページに於いて、その種が、セイヨウリンゴ Malus domestica の主な祖先であると断定されていることを示した結果、どうも、附和雷同的に「セイヨウリンゴ」でケリをつけるのが、厭になった。寧ろ、「菴羅果」の注で示した、中国原産、或いは、中国に分布する古いリンゴ類の孰れかである、とするのが、最も良心的であると考える。かと言って、ここに列挙される「素柰」・「丹柰」=「朱柰」・「綠柰」・「冬柰」を中文検索をしても、種名は、全く掛かってこないので、同定比定は不可能である。されば、これを以って、あっさりと注を終わることとする。逃げ? フフフ……いや、そうじゃないさ……だって――次の項はね、……「林檎」……なんだゼ?!?…………

 ただ、最後に、良安が勝手に「柰」につけた訓、「からなし」は、先行する「和漢三才圖會卷第八十六 果部 果部[冒頭の総論]・種果法・收貯果」で示した注を再掲しておく。現代中国語では、バラ科モモ亜科ナシ連ナシ(リンゴ)亜連リンゴ属セイヨウリンゴ Malus domestica を指すが、宋代の「柰」は広義のリンゴ(リンゴ属)に留めておくのがよかろう。なお、この漢字は本邦では、まず、別にリンゴ属ベニリンゴ Malus beniringo を指す。小学館「日本大百科全書」によれば、葉は互生し、楕円形、又は、広卵形で、縁(へり)に細かな鋸歯(きょし)がある。四~五月、太く短い花柄の先に、白色、又は、淡紅色の花を上向きに開く。この形状から別名「ウケザキカイドウ」(受咲海棠)とも呼ぶ。楕円形のリンゴに似た果実が垂れ下がる。先端に宿存萼(しゅくそんがく:花が枯れ落ちた後になっても枯れずに残っている萼のこと)があり、十月頃、紅色、又は、黄色に熟す。本州北部原産で(従って、ここでの「柰」としては無効)、おもに盆栽にするが、切り花にも用いる。日当りのよい肥沃な砂質壌土を好み、寒地でよく育つ、とある。ところが、実は、この漢字、また、別に、日本では「からなし」(唐梨)と訓じ、一般名詞では赤い色をした林檎を指す以外に、面倒なことに、バラ科シモツケ亜科ナシ連ナシ亜連カリン属カリン Pseudocydonia sinensisの異名としても通用しているのである(但し、カリンの中文ウィキ「木瓜(薔薇科)」の解説(非常に短い)には、この「柰」の字は載っていないし、前に出した「植物名實圖考(道光刻本)」の「第三十二卷」の「木瓜」の解説にも「柰」の字は使われていないから、「柰」には中国語としてはカリンの意はないと考えてよかろう)。ネット上でも、「柰」の字の示す種、或いは、標準和名や通称名・別名が、ごちゃごちゃになって記載されており、甚だ混乱錯綜してしまっている。――ダメ押しで、再度、中文検索サイト三箇所で旧漢名・ラテン語学名で検索したが、新しい発見は、なかった……。

 なお、「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十」の「果之二」の「山果類」の「菴羅果」([075-16b]以下)のパッチワークである。必要があろうから、引用しておく(一部の表記に手を加えた)。

   *

【别録下品】

 釋名 頻婆【音波言時珍曰篆文柰字象子綴於木之形梵謂之頻婆今北人亦呼之猶云端好也】

 集解【弘景曰柰江南雖有而北國最豐作脯食之不宜人林檎相似而小俱不益人士良曰此有三種大而長者爲柰圓者爲林檎皆夏熟小者味澀爲梣秋熟一名楸子時珍曰柰與林檎一類二種也樹實皆似林檎而大西土最多可栽可壓有白赤靑三色白者爲素柰赤者爲丹柰亦曰朱柰靑者爲綠柰皆夏熟凉州有冬柰冬熟子帶碧色孔氏六帖言凉州白柰大如兎頭西京雜記言上林苑紫柰大如升核紫花青其汁如漆著衣不可浣名脂衣柰此皆異種也郭義恭廣志云西方例多柰家家收切暴乾爲脯數十百斛以爲蓄積謂之頻婆粮亦取柰汁爲䜴用其法取熟柰納瓮中勿令蠅入六七日待爛以酒醃痛拌令如粥狀下水更拌濾去皮子良久去淸汁傾布上以灰在下引汁盡劃開日乾爲末調物甘酸得所也劉熈釋名載柰油以柰擣汁塗繒上暴燥取下色如油也今闗西人以赤柰楸子取汁塗器中暴乾名果單是矣味甘酸可以饋遠杜恕篤論云日給之花似柰柰實而日給零落虛僞與真實相似也則日給乃柰之不實者而王羲之帖云來禽日給皆囊盛爲佳果則又似指柰爲日給矣木槿花亦名日及或同名耳】

  氣味苦寒有小毒多食令人肺壅臚脹有病人尤甚【别錄曰思邈曰酸苦寒濇無毒時珍案正要云頻婆甘無毒】主治補中焦諸不足氣和脾治卒食飽氣壅不通者擣汁服【孟詵】益心氣耐飢【千金】生津止渴【正要】

   *]

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