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2024/12/26

和漢三才圖會卷第八十七 山果類 絲埀櫻

 

Sidarezakura

 

したれさくら

 

絲埀櫻

 

いとさくら

 

△按絲埀櫻枝靭埀如絲柳其花單葉淡白似卵色而小

 開如束絲帛不結實

千葉絲櫻 卽絲埀櫻之千葉者也凡絲櫻枝接山櫻彼

 岸櫻卽能活

                      花山內大臣

  夫木白川や近き御寺の糸櫻年のを長く君そさかへん

 

   *

 

しだれざくら

 

絲埀櫻

 

いとざくら

 

△按ずるに、絲埀櫻は、枝、靭(しな)へ埀れて、「絲柳《いとやなぎ》」のごとし。其の花、單葉(ひとへ)にて、淡白、卵色に似て、小《ちさ》く、開≪けば≫、絲帛《いとぎぬ》を束(たば)ねたるがごとし。實を結ばず。

千葉絲櫻(《やへ》の《いとざくら》) 卽ち、絲埀櫻の千葉《やへ》なる者なり。凡そ、絲櫻の枝を、「山櫻」・「彼岸櫻《ひがんざくら》」に接《つ》げば、卽ち、能く活(つ)く。

  「夫木」

    白川《しらかは》や

      近き御寺(みてら)の糸櫻

     年のを長《なが》く

       君ぞさかへん   花山內大臣

 

[やぶちゃん注:これは、狭義の、

双子葉植物綱バラ亜綱バラ目バラ科サクラ属シダレザクラ

Prunus itosakura (シノニム:Cerasus itosakura ‘Pendula’

である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『バラ科サクラ属の植物の一種で、広義では枝がやわらかく枝垂れるサクラの総称で、狭義では特定のエドヒガン系統の枝垂れ性の栽培品種』である。以下、「広義のシダレザクラ」の項。『シダレザクラは広義では枝がやわらかく枝垂れるサクラの総称。野生種(species)のエドヒガンから生まれた栽培品種の狭義のシダレザクラ』である。『やベニシダレ』( Prunus spachiana )『やヤエベニシダレ』( Prunus pendula )『が有名である。他にはエドヒガン』( Prunus itosakura var. ascendens  )『とマメザクラの交雑種の栽培品種のウジョウシダレ』(  Prunus  × subhirtella 'Ujou-shidare' )、『エドヒガン系と他種との雑種と推定される栽培品種のカミヤマシダレザクラ』( Prunus ‘Kamiyama-shidarezakura’)、『野生種のオオヤマザクラ』( Prunus sargentii )『の下位分類の品種(form)のシダレオオヤマザクラ』( Prunus sargentii f. pendula )、『野生種のカスミザクラ』( Prunus leveilleana )『の下位分類の品種のキリフリザクラ』(Prunus verecunda f. pendula )『があるほか、野生種のヤマザクラから生まれた栽培品種、もしくはオオシマザクラ』( Prunus speciosa )『由来の栽培品種のサトザクラ』( Prunus serrulata var. lannesiana )『といわれるシダレヤマザクラ(センダイシダレ)』(Prunus  lannesiana 'Sendai-shidare')『などがある。枝が枝垂れるのはイチョウやカツラやクリやケヤキなどでも見られるが、その原因は突然変異により植物ホルモンのジベレリンが不足して枝の上側の組織が硬く形成できず、枝の張りが重力に耐えられなくなっているからと考えられている。枝垂れ性は遺伝的に潜性のため、シダレザクラの子であっても』、『枝垂れない個体が生まれる場合がある』。『樹高は』八メートル『以上に育つ高木、花は一重咲きの小輪で淡紅色、東京基準の花期は』三『月中旬である。枝垂れる以外の特徴はエドヒガン』( Prunus itosakura var. ascendens )『と同じで』、『個体により変異がある』。『個体ごとに変異があるのは、シダレザクラには遺伝情報が違う複数のクローンがあるからであり、複数のクローンがある原因は、接ぎ木や挿し木のほかにも他の個体と交雑した種子でも増殖され、その後に各個体の形態が似ていたことから』、『別々の栽培品種として区別されず、一つのシダレザクラという栽培品種として認識されたことによるものと考えられている』。『既に平安時代には「しだり櫻」や「糸櫻」などが存在したことが当時の文献に記録されており、これは狭義のシダレザクラの祖先であったと考えられる。また、広義のシダレザクラであるカスミザクラの品種(form)のキリフリザクラ』( Prunus leveilleana f. pendula )『やオオヤマザクラの品種のシダレオオヤマザクラ』( Prunus sargentii f. pendula )『は野生での自生が確認されているが、狭義のシダレザクラには野生での自生木は発見されていない。さらに全国の狭義のシダレザクラには複数のクローンがあるとはいえそれぞれが遺伝的に近縁であり、日本各地に狭義のシダレザクラの古木が存在することから、狭義のシダレザクラは平安時代には既に種子により増殖されて栽培化されていて、それらの樹々が全国に広まったと考えられている』とある。

「千葉絲櫻(《やへ》の《いとざくら》)」既に示した「桜の博物館」「八重紅枝垂/遠藤桜(ヤエベニシダレ/エンドウザクラ)」に、学名を、Cerasus(= Prunusspachiana 'Plena Rosea' とし、『遠藤桜、糸桜八重、枝垂八重紅桜などの呼称を持つ』というのが、それであろう。

「山櫻」サクラ属ヤマザクラ Prunus  jamasakura

「彼岸櫻《ひがんざくら》」ヒガンザクラ Prunus subhirtella

「夫木」「白川《しらかは》や近き御寺《みてら》の糸櫻年のを長《なが》く君ぞさかへん」「花山內大臣」作者は花山院師信(かさんのいんもろのぶ)。鎌倉後期の公卿で、内大臣花山院師継の子。官位は従一位・内大臣。「夫木和歌抄」に載る西行の一首で、「卷卅四:雜十六」に所収する。「日文研」の「和歌データベース」で確認した(同サイトの通し番号で「16423」)。そこでは、

   *

しらかはや-ちかきみてらの-いとさくら-としのをなかく-きみそさかえむ

   *

となっている。「を長く」は、枝垂れ桜の枝の「尾」のように「長く」の意であろう。]

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