和漢三才圖會卷第八十六 果部 五果類 阿面桃
あめんとう 正字未詳
阿面桃
【用巴且杏名
阿女牟止宇
今人以此桃
爲同名者不
知其𢴃也】
[やぶちゃん注:「あめんとう」はママ。「用巴且」の「且」は「旦」の異体字だが、紛らわしいので、訓読では、「旦」に代えた。]
△按阿靣桃樹髙不過四五尺矮勁葉亦厚深綠色花小
單葉粘枝繁重開淡紅色三月花落生葉其實百千攅
生時摘去其繁者一朶纔有四五顆則甚大冬熟肉軟
而甘能離核其核眞紅色種之易生翌年髙尺餘而開
花未見其大木蓋此與西王母桃一類二種也
*
あめんとう 正字、未だ詳かならず。
阿面桃
【「巴旦杏《はたんきやう》」を用《もち
ひ》て、「阿女牟止宇《あめんどう》」
と名づく。今≪の≫人、此の桃《もも》
を以つて、同名と爲すは、其の𢴃《よ
りどころ》≪を≫知らざるなり。】
△按ずるに、阿靣桃《あめんたう》≪の≫樹、髙さ、四、五尺に過ぎず。矮(ひき)く[やぶちゃん注:「低く」。]、勁(たくまし)く、葉も亦、厚く、深綠色。花、小《ちさ》く、單葉《ひとへ》。枝に粘《ねん》じて、繁重《しげりかさなり》≪て≫、開く。淡紅色。三月、花、落ちて、葉を生ず。其の實、百千、攅(あつ)まり、生ず。時(よりより)、其の繁≪れる≫者を摘(むし)り去《さり》て、一朶《ひとふさ》、纔《わづか》に、四、五顆《くわ》有る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則ち、甚≪だ≫大≪なり≫。冬、熟して、肉、軟《やはらか》にして、甘く、能《よ》く、核《さね》、離《はな》る。其の核、眞紅色。之れを種《うゑ》て、生(は)へ[やぶちゃん注:ママ。]易く、翌年、髙さ、尺餘にして、花を開く。未だ其の大なる木を見ず。蓋し、此れ、「西王母《せいわうぼ》≪の≫桃」と、一類≪にして≫、二種≪なる≫や。
[やぶちゃん注:これは、和名音から推測される通り、
双子葉植物綱バラ目バラ科モモ亜科サクラ属アーモンド cerasus dulcis
である。アーモンドは、本邦には、江戸時代初期にポルトガル船で種子が、明治時代に生木が渡来したと伝えられている。既に、先行する「巴且杏」で立項されてあるので、そちらの注を見られたいが、良安は、何故、そちらとの比較考証を、もっと、ディグしなかったのか、正直、解せない。而して、スライドして、前項の中国伝説の「西王母の桃」の別種であろうか? と袋小路に入ってしまっているのだ。これでは、語るに堕ちたと言わざるを得ない。その神経症的な世界には、ちょっと、私は足を踏み入れる余裕はない。そっけなくて、悪しからず。]
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