茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「形象篇」「第一卷」 「四月から」
形 象 篇
第 一 卷
四月から
再び森はにほふ。
浮き漂ふ雲雀の群は、
我々の肩に重かつた空を持上げ、
木の枝を透かして人はなほ空虛だつた日を見たが、――
長い雨の午後の後に
黃金に日の照らした
新らしい時間が來る。
それを避けて逃げながら、遠い家並の前面の傷いた總べての窗は、
臆病に翼扉をはためかす。
やがてそれも靜まり、雨さヘ一層靜に
鋪石の穩かに暮れてゆく輝きの上を步き、
すべての騷音は、小枝にひかる
莟の中へすつかりもぐり込む。
[やぶちゃん注:「雲雀」ドイツ語の同種のウィキを見る限り、タイプ種であるスズメ目スズメ亜目ヒバリ科ヒバリ属ヒバリ Alauda arvensis で、よい。博物誌、及び、本邦の分布種は、私の「和漢三才圖會第四十二 原禽類 鷚(ひばり) (ヒバリ)」を見られたい。
「窗」は「窓」の異体字。
「翼扉」見かけない熟語だが、「よくひ」でよかろう。ここは、窓の外に両開きになる扉を指している。]
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