茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「時禱篇」(番人が葡萄畑に、……)
番人が葡萄畑に、
小舍を持つて見張るやうに、
主よ、私はあなたの手の中の小舍、
ああ、主よ、あなたの夜の夜です。
葡萄山、牧場、古い林檎の園、
春をゆるがせにしない耕地、
大理石のやうに堅い地にも生えて
澤山の實を結ぶ無花果の樹。
薰はあなたの圓い枝から發するが、
私が眼ざといかどうかあなたは問はれない。
恐もなく、木の液(しる)に溶けて、
あなたの深い心は私の傍を登つてゐる。
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