茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「第一詩集」「冠せられた夢」(一八九七年) 「夢みる(二十八章の中)」「一一」
一一
一體私はどうしたのかしら。
そよ風の匂の靄の中に、
靑銅褐色の草の莖の中に
失はれた蟋蟀の歌。
私の魂の中にもひびく、
低い一つの響、哀れになつかしい――
恐らく熱病の小兒が、
死んだ母の歌ふを聞くのも斯うだらう。
[やぶちゃん注:「蟋蟀」「こほろぎ」である。一応、「Internet archive」の「Traumgekrönt : neue Gedichte」で当該詩を見つけた。そこでは、“ Grillenlied ”となっているから、直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目Ensiferaコオロギ上科 Grylloidea のコオロギ類を指す語で、間違いない。気になったのは、日本語では、芥川龍之介の「羅生門」でご存知の通り、近代まで「蟋蟀」を「きりぎりす」と読むのが、支配的であったからである。但し、残念ながら、ドイツ語のウィキには「コオロギ上科」相当のウィキがなく、上位タクソンの「剣弁(キリギリス)亜目Ensifera」相当の「Langfühlerschrecken」しかなく、そこを見ても、種同定までは至らなかった。識者の御教授を乞うものである。]
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