茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「第一詩集」「家神奉幣」(一八九五年) 「夕の王」
夕の王
嘗てバルタザアル王が近づいたやうに、
額(ひたひ)を王冠で照らされて、
紫衣をつけた夕の王が
世界へ入つて來る。
第一の星は王を昔のやうに
一番遠い小山の緣(へり)へ導くと、
其處には子なる夢を抱いて
母の夜が凭りかかつてゐる。
王は丁度、あの東洋の賢者のやうに、
黃金を子に與へる、積重ねて。
その金を夢の童子は、
解きながらそつと蒔く、我々のまどろみへと。
[やぶちゃん注:岩波文庫の校注によれば、再版「詩集」では、本篇は削除されている。
「夕の王」「ふゆべのわう」と読んでおく。
「バルタザアル王」「旧約聖書」中でバビロニアの最後の王であったとされるバルダサル。ベルシャザル、又は、ベルシャツァルとも(英語:Belshazzar)。詳しくは、当該ウィキを見られたい。]
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