茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「舊詩集」 「少女等がうたふ」
少女等がうたふ
お母樣だちの話されたやうな時は、
私たちの寢室(ねま)にはなかつた。
そこでは總べて滑かで明(あきら)かだつた。
嵐に吹きまくられた或る年に
挫けたと云はれるが。
私らは知らない。何だらう、嵐とは。
私らは何時も深く塔の中に住み
をりをりただ遠くから
外の森が風に搖れるのを聞くばかり。
一度は見知らない星が
私たちの側に立止つた。
それから庭にゐると、
始まるのかと、震へて
日に日に待つてゐる――
しかし私らを撓(たわ)ましさうな
風は何處にもない。
[やぶちゃん注:標題の位置・ポイント(本文と同じ)はママ。
「挫けた」「くじけた」。
「何時も」「いつも」。
「側」「そば」。]
« 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「舊詩集」 「少女の歌」 (序詩)・(今彼等はもうみんな人妻、……)・(女王だ、お前らは富むでゐる。……)・(波はお前らに默つてはゐなかつた。……)・(少女らは見てゐる、小舟らが……)・(お前ら少女は小舟のやうだ。……) | トップページ | 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「舊詩集」 「一人の少女が歌ふ」 »