茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「形象篇」「第二卷」 「侏儒の歌」
侏儒の歌
私の魂は恐(おそら)くは眞直で善良だ、
しかし私の心臟と、隱れてゐる血と、
私を痛ませる總べての物が、
魂を眞直に擔へない。
私の魂は、園もなく、寢床もなく、
私の鋭い骸骨に
恐しい羽博きをして懸つてゐる。
私の兩手ももう何にも成らない。
ご覽、何といふ慘めさだ。
雨後の小さい蛙のやうに、
强靭に、濕つて、重く飛んでゐる。
その他私に著(つ)いてるものは、
ぼろぼろで、古くて、もの悲しい。
汚物の上に之等總べてのものを置くのを
どうして神樣が躊躇しよう。
不平さうな口をした私の顏を
神樣が怒つてはゐないかといふのか。
眞底では、明るく輝かしくならうと
屢〻用意はしてゐたが、
大きな犬ほど近く
顏のそばに來るものは何もなかつた。
そして犬はそんなものを持つてゐない。
[やぶちゃん注:「擔へない」「になへない」。]
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