茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「巡禮の歌」(一九〇一年) (私は嵐の重壓に驚かない――……)
巡 禮 の 歌
(一九〇一年)
私は嵐の重壓に驚かない――
お前は嵐の大きくなるを見てゐた。――
木々は逃げた、その逃亡が
騎馬の竝木を作つた。
お前は知つてゐる。彼等が恐れて逃げる者
其者の許へお前は行くのだ。
窗側に立つとき
お前のこころは彼を歌つてゐる。
夏の幾週は靜かであつた。
木々の血は登つた。
今お前は感ずる、それは凡てを爲す者ヘ
落ちやうとしてゐる。
お前は恐怖に摑まれたとき、
その力を知つたと思つた。
今それがまた謎のやうになつて、
お前は再び客である。
夏はお前の家のやうだつた。
其處でお前は凡ての物の立つてるのを知つてゐる――
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