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2025/01/13

茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「第一詩集」「家神奉幣」(一八九五年) 「私の生家」 /「家神奉幣」~了

 

 私の生家

 

幼い日の至愛の家は

追億から消えはしない。

私が碧い絹張りの客間で

繪本を見た處、

太い銀糸で豐かに

笹緣(ささべり)をつけた人形の著物が

私の幸福であつた處、『計算』が

私に熱い淚を押出した處。

 

私が暗い呼聲に從つて、

詩に手を出したり、

窟の段の上で

電車や船の遊戲をした處。

 

向うの伯爵家から、いつも

一人の娘が私を差招いた處……

あの頃輝いてゐたあの宮殿が

今ではあんなに寐ぼけて見える。

 

それから男の子が接吻を投げると

笑つたブロンドの子供は

今は去つて、遠くに息(やす)んでゐる。

もう微笑(ほほゑ)むことも出來ない處に。

 

[やぶちゃん注:……これは……我が身に擬えれば……永劫に……哀しい…………

「笹緣(ささべり)」「ささへり」とも読む。衣服の縁、或いは、袋物や茣蓙(ござ)などの縁(へり)を、補強や装飾の目的で、布や扁平な組紐で細く縁取(ふちど)ったものを指す。]

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