和漢三才圖會卷第八十七 山果類 枇杷
び は 葉形似琵琶
故名批杷云
枇杷 今觀葉不如言
【有犬批杷者卽此
天仙花見夷果下】
本綱枇杷易種高一𠀋餘肥枝長葉如驢耳背有黃毛陰
宻婆娑可愛四時不凋盛冬開白花春實其子簇結有毛
[やぶちゃん字注:「𮔉」は「宻」の誤刻。訓読文では訂した。]
四月熟色如黃杏大者如鷄子小者如龍眼皮肉甚薄核
大如茅栗黃褐色無核者名佳子色白者爲上黃者次之
[やぶちゃん字注:「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十」の「果之二」の「枇杷」([075-41b]以下)をパッチワークしたものであるが、この「佳子」は、誤刻と思われ、「焦子」が正しい。訓読文では、訂した。]
實【甘酸平】 止渴下氣止吐逆治上焦熱
多食發痰熱傷脾同炙肉及熱麪不可食
葉【苦平】 治肺胃之病大都取其下氣之功耳清熱解暑
毒治嘔噦不止【凡使火炙以布拭去毛不爾射人肺生咳】
古今醫統云尋常以淋過灰湯濕灰壅之根頭花多實大
△按枇杷木黏堅堪爲杖棒其子七八顆作梂生初則黃
帶青熟則正黃亦有淡白色者不爲佳此異乎本草之
說一核者核圓大有二三或五六抱合者全無核者爲
希珍其一核之核能解毒被蟲螫而腫痛者刮核傅之
倭方有枇杷葉湯 治食傷及霍亂以爲妙
批杷葉肉桂藿香莪朮吳菜萸木香甘草【各等分或有異同】
[やぶちゃん注:「莪朮」の「朮」は、底本では、上部が「上」で、下部が「水」の字であるが、こんな字は存在しない。国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版の当該部、及び、東洋文庫訳に従い、漢方生薬名である「莪朮」に従った。]
*
び は 葉の形、琵琶に似る。
故、「批杷」と名づくと云ふ。
枇杷 今、葉を觀るに、言《げん》、
如《し》かならず。
【「犬批杷《いぬびは》」と云ふ者、有り。
卽ち、此れ、「天仙花」≪なり≫。「夷果」
の下《もと》を見よ。】
[やぶちゃん注:次の「和漢三才圖會卷第八十八 夷果類」に収録されてある「いぬびわ天仙果」で、『俗、云ふ、「犬枇杷」。』がそれ。国立国会図書館デジタルコレクションの当該部をリンクさせておく。それは、双子葉植物綱バラ目クワ科イチジク連イチジク属イヌビワ変種イヌビワFicus erecta var. erecta で、本項のバラ科ナシ亜科シャリンバイ(車輪梅)属ビワ Rhaphiolepis bibas とは、近縁関係は、ない。]
「本綱」に曰はく、『枇杷≪は≫、種《うゑ》易し。高さ、一𠀋餘。肥《こえ》たる、枝、長き葉、驢(うさぎうま)[やぶちゃん注:驢馬(ロバ)。]の耳(みゝ)のごとく、背に、黃毛、有り、陰宻、婆娑《ばさ》として[やぶちゃん注:舞う人の衣服の袖が美しく翻るさまの原義を、梢が風に揺れるさまを喩えた語。]、愛すべし。四時、凋まず。盛冬に、白花を開き、春、實のり、其の子《さね》、簇-結(こゞな)りて、毛、有り。四月、熟す。色、黃杏《わうあん》のごとし。大なる者、鷄子《けいらん》のごとく、小なる者は、龍眼《りゆうがん》[やぶちゃん注:ムクロジ目ムクロジ科リュウガン属リュウガン Dimocarpus longan 。]のごとし。皮肉、甚だ、薄く、核《さね》大にして、茅栗(しばぐり)のごとし。黃褐色。核、無き者を、「焦子《しやうし》」と名づく。色、白き者、上と爲す。黃なる者、之れに次ぐ。』≪と≫。
『實【甘酸、平。】』『渴を止《とめ》、氣を下《くだ》し、吐逆を止め、上焦の熱を治す。』≪と≫。《但し、》『多≪く≫食へば、痰熱を發し、脾を傷《そこなへ》り。同《おなじ》く、炙《あぶり》たる肉、及《および》、熱-麪(うどん)と、≪合せ≫食ふ、べからず。』≪と≫。
『葉【苦、平。】』『肺胃の病《やまひ》を治≪す≫。大-都(すべて)、其《それ》、下氣《げき》の功を取るのみ[やぶちゃん注:この「のみ」は限定条件ではなく、効能として、絶対的効能として体内の気を下す効能があることを言っているので注意が必要である。]。熱を清《きよく》し、暑毒を解す。嘔噦《わうゑつ/からゑづき[やぶちゃん注:現代仮名遣「空噦(からえず)き」。吐き気が起こるものの、実際の吐瀉物が出てこない病態。]》、止まざるを治す【凡そ、使《つかふ》に、火に炙り、布を以つて、毛を拭ひ去る。爾《し》かざれば、人の肺を射て、咳を生ず。】。』≪と≫。
「古今醫統」[やぶちゃん注:複数回、既出既注。]に云はく、『尋常、「淋-過-灰(あくの《はひ》)」・「湯-濕-灰(たれかす《ばひ》)」[やぶちゃん注:不詳。]を以《もつて》、之れを根《ね》の頭(ほとり)に壅《うめ》≪れば≫、花、多《おほく》、實《みのり》、大なり。』≪と≫。
△按ずるに、枇杷の木、黏(ねば)く、堅く、杖(つえ[やぶちゃん注:ママ。])・棒(ぼう)と爲《す》るに堪《たへ》たり。其の子《み》、七、八顆、梂-生(すゞなり)を作《な》す。初《はじめ》は、則《すなはち》、黃に、青(あをみ)を帶《おび》、熟すれば、則、正黃なり。亦た、淡白色の者、有《あり》、佳と爲さず。此《これ》、「本草≪綱目≫」の說に異《ことなる》か。一つ核《さね》の者は、核、圓《まろ》く、大≪きく≫、二、三、或いは、五、六、抱合(だき《あひ》)たる者、有り。全く、核、無き者、希珍と爲《なす》。其《その》、一つ核の核、能《よく》、毒を解す。蟲≪に≫螫(さゝ)れて、腫痛《はれいたむ》者、≪その一つ核の≫核を刮《けずり》、之れを傅《つ》く≪べし≫。
倭方に「枇杷葉湯《びはやうたう》」、有り。食傷、及び、霍亂を治す。以《もつて》、妙と爲す。「批杷葉」・「肉桂」・「藿香《かつかう》」・「莪朮《がじゆつ》」・「吳菜萸《ごしゆゆ》」・「木香《もつかう》」・「甘草《かんざう》」【各《おのおの》、等分。或いは、異同、有り。】[やぶちゃん注:改行しているが、これは、ネット上の漢方データによって、中医学にはない本邦独自の「枇杷葉湯」という配合例であることを確認したので、繋げた。]
[やぶちゃん注:「枇杷」は日中ともに、
双子葉植物綱バラ目バラ科ナシ亜科シャリンバイ属ビワ Rhaphiolepis bibas
である。「維基百科」の同種は、Eriobotrya japonica とするが、ウィキの「ビワ」で判る通り、シノニムが多量にあり、Eriobotrya japonica もその一つである。ウィキの「ビワ」を引く(注記号はカットした。下線・太字は私が附した)。『原産地は中国南西部』。『日本では四国、九州に帰化植物として自生する。環境省及び農林水産省が作成した生態系被害防止外来種リストでは、産業管理外来種に選定されている』。『分子系統学的研究を経て』、二〇二〇『年上旬に Eriobotrya 』(ビワ属)『とシャリンバイ属( Rhaphiolepis )の区別が否定され、ビワも後者とされたが、この研究に懐疑的な見方も存在する』。『和名ビワの語源は、実の形が楽器の琵琶に似ているからとされる。中国語でも「枇杷」』『と表記するほか、「蘆橘」』『とも呼ばれ、英語の「loquat」』(音写「ロウクワト」)『は後者の広東語発音に由来する』。『ビワの学名には』一八二一『年発表の Eriobotrya japonica (Thunb.) Lindl. が用いられてきた』が、二〇二〇『年、劉彬彬(中国科学院植物研究所および米国国立自然史博物館所属)等は染色体ゲノムや nrDNA』(ribosomal RNA:リボソームRNA)『の分析を経てビワ属( Eriobotrya )がシャリンバイ属( Rhaphiolepis )を含む側系統群であるという結果を得、これに形態的・地理的要素を加味し』、『ビワ属とシャリンバイ属とを統合するとした。ビワ属が』一八二一『年発表』であるの『に対し』、『シャリンバイ属は』一八二〇『年発表で』、『後者が優先されることとなり、それまでビワ属とされていた種を全てシャリンバイ属に移すとした。命名は』、『この研究チームのメンバーである劉彬彬と文軍』『(米国国立自然史博物館所属)が担当し、ビワに関しては Rhaphiolepis japonica が既に』一八四一『年』、『シーボルトとヨーゼフ・ゲアハルト・ツッカリーニにより別種のために用いられており』、『使用不可であるということで、ビワの英語名 loquat にちなんだ種小名を用いて Rhaphiolepis loquata B.B.Liu & J.Wen とした。しかし』、『この学名には問題があった。劉らは論文内でビワのシノニムとして』一七九〇『年記載の Crataegus bibas Lour. も挙げていたが、その種小名 bibas は被りが無かったため、本来はこれを用いるべきであったのである。劉らの論文発表から』三『ヶ月後に組み替え名 Rhaphiolepis bibas を発表し』、『上記の問題を解決したのは、共にミラノ市立自然史博物館所属でイタリアにとっての外来種の情報整理に携わっているガブリエーレ・ガラッソ』『と』、『エンリコ・バンフィ』『であった』。『一方でその後の研究では、Liu et al.』(二〇二〇年)『とは異なる分子系統解析が得られたとして』、『ビワ属とシャリンバイ属を統合すべきでないとしているものもある』。『中国南西部(重慶および湖北省)の原産で、日本には古代に持ち込まれたと考えられており、主に本州の関東地方・東海地方の沿岸、石川県以西の日本海側、四国、九州北部に自然分布する。また』、『インドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルやブラジルに広まった。トルコやレバノン、ギリシャ、イタリア南部、スペイン、フランス南部、アフリカ北部などでも栽培される。日本では江戸時代にビワの栽培が盛んになり、寺の僧侶が檀家の人々に中国から伝わったビワの葉療法を行ったため、寺にはビワの木が多いといわれている。千葉県以南の地域では、庭木として植えられているものもよく見られる』。『常緑広葉樹の小高木で、高さは』五~十『メートル』『ほどになる。枝葉は春・夏・秋と年に』三『度伸長する。若枝は、淡褐色の細かい毛に覆われている』。『葉は互生し、葉柄は短い。葉の形は、長さ』十五~二十『センチメートル』『前後の広倒披針形・長楕円形・狭倒卵形で先端は尖り、基部は次第に狭くなって葉柄に続いていく。葉身は厚くて堅く、表面が凸凹しており葉脈ごとに波打つ。葉縁には波状の鋸歯がある。葉の表面は初めは毛があるが、生育するにつれて毛はなくなり』、『光沢が出てくる。葉の裏面は、淡褐色の綿毛に覆われたままである』。『花芽は主に春枝の先端に着く。花芽は純正花芽。花期は晩秋から冬(』十一~二『2月)で、甘い芳香がある地味な白い』五『弁の花を群がりつける。花径は』一センチメートル『ほどで、クリーム色を帯びた白い花弁は、茶色の短い軟毛が密に生えた萼片に包まれていて、開花のときは花弁を外側に出す。葯には毛が密に生えている。長期の花期に多量の花密を蓄え、甘い芳香を放って昆虫または小鳥が来るのを待ち、花粉の媒介が行なわれる』。『自家受粉が可能で、果実ははじめ緑色で、初夏(』五~六『月)に黄橙色に熟す。果実は花托が肥厚した偽果で、直径』三~四センチメートル、『長さは』六センチメートル『前後の球形から卵形、広楕円形になり、全体が薄い産毛に覆われている。果実』一『個の重さは』五十『グラム前後で、果皮は薄く、果肉は厚みがある。果実の中には大きな赤褐色の種子が数個あり、可食できる甘い果肉部分は全体の約』三『割ほどである』。『長崎県、千葉県、鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの』、『若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温』摂氏マイナス十度『程度であれば』、『生育・結実可能である』。『やや日陰にも耐え、気温が比較的暖かいところで生育する。土壌は砂壌土がよく、根は深く張る。果実を目的に栽培されるが、庭木などの植栽にもされ、葉が濃く茂るため目隠しとしたり、あるいは使い方によっては異国風の庭を演出することもできる。実生苗の結実には』七~八『年の歳月を要する。自家結実性のため、他品種を混植する必要はない。殖やし方は実生、接木であるが挿し木も可能。植栽適期は』三『月下旬』、六~七『月上旬』、九月『中旬』~十『月中旬とされ、新植は可能だが』、『移植することは不可である。剪定は』三『月下旬』~四月、また、九月『に行う。露地栽培の場合、摘房・摘蕾を』十『月、開花は』十一月~二月、『摘果を』三『月下旬〜』四『月上旬、袋かけを摘果と同時に行う。果実が大きくなると』、『モモチョッキリ』(昆虫綱有翅昆虫亜綱甲虫目多食(カブトムシ)亜目オトシブミ(落とし文)科Rhynchites属モモチョッキリゾウムシ(桃短截象虫)Rhynchites heros )『の食害を受ける』。『花の数が多く』、『受粉率が高いことから、花蕾が出たら摘蕾や摘房を行わないと、果実がたくさんなりすぎて』、『実が小さくなってしまう。食用目的で果実を育てるためには、さらなる摘果が必要となる』。『江戸時代末期に日本に導入され、明治時代から、茂木(もぎ)や田中などの果樹としての品種がいくつかあるが、栽培品種は少ない方で、この』二『品種で』、『日本の生産量の』九十五『%を占める。現在ではその他に大房、瑞穂、クイーン長崎(福原)、白茂木、麗月、陽玉、涼風、長生早生、室戸早生、森尾早生、長崎早生、楠、なつたよりなど多くの品種がある。中国ビワとして冠玉や大五星などがある』。二〇〇六『年、種なしビワである希房』(きぼう)『が品種登録された』。『古代に渡来して野生化した物と考えられる自生木もあるが、種が大きく果肉が薄いため』、『果樹としての価値はほとんど無い』。『日本では全国でビワの実が』二千八百九十『トン』(二〇二一年産・『農林水産省統計)収穫され、長崎県、千葉県、和歌山県、香川県、愛媛県、鹿児島県など温暖な気候の土地で栽培されている。特に長崎県は、全国の』三『分の』一『近くを産する日本一の産地となっている。近年は食の多様化や種子を取り出すなど』、『食べにくさに加え、農家の高齢化、寒波に弱く収穫が安定しないなどの問題もあり、収穫量は』『減少傾向にある。近年ではビニールハウスによる促成栽培も行われている』。『寒さに弱いため』、『産地は温暖な地域に限られ、九州、四国、淡路島、和歌山、房総半島で栽培が盛ん。また、寒波の影響を受けやすいため、生産量が乱高下しやすい』。以下、県別の産地記事であるが、カットする。次に「利用」の項。『果実は甘く、生食や缶詰にされる。茶色い種子は、生薬の杏仁の代用として利用される。果樹であるが、葉は薬用として重宝されてきており、ビワ茶にしたり』、『浴湯料にする。種子や葉は毒性の高いアミグダリン』(amygdalin:C20H27NO11:青酸配糖体の一種。青酸中毒を引き起こす危険性がある)『を含む』。『ビワ果実の旬は』五~六『月とされ、果皮にハリがあるものがよく、全体に産毛とブルーム(白い粉)が残っているものは鮮度が高い。果肉は橙黄色で果汁が多く、糖度』十二~十三『度程度で』、『さっぱりした甘さがあり、生食されるほかに缶詰・ジャム・シロップ煮などに加工されるが、中心にできる種子が大きく廃棄率が』三十『%以上である。生食する場合の可食率は』六十五~七十『%で』、『バナナと』、『ほぼ同等である。食べるところが少ないという苦情に応えるかたちで、「たねなしビワ」も作出されている。ゼリーなどの菓子、ジャム等にも加工される。果実を保存するときは、常温の涼しい場所におき、日持ちしないため』、二~三『日で食べきるようにする』。『果実酒は、氷砂糖とホワイトリカーだけでも作れるが、ビワは酸味が非常に少ないので、果実のほかに皮むきレモンの輪切りを加えて漬け込むとよい』。『また、果肉を用いずにビワの種子のみを使ったビワ種酒は、杏仁に共通する芳香を持ち、通の間で好まれる』。『果肉には体内でビタミンAに変換されるカロチノイド色素のβ-クリプトキサンチンや、ポリフェノールの』一『種であるクロロゲン酸も含まれている』。
以下、「薬用」の項。『葉は枇杷葉(びわよう)、種子は枇杷核(びわかく)とよばれる生薬である。「大薬王樹」とよばれ、昔から咳止めなどの民間療薬や』、『お茶として親しまれてもいる。なお、以下の利用方法・治療方法は特記しない場合、過去の歴史的な治療法であり、科学的に効果が証明されたものであることを示すものではない』。『葉には収斂(しゅうれん)作用があるタンニンのほか、鎮咳(ちんがい)作用があるアミグダリンなどを多く含み、乾燥させてビワ茶とされる他、直接患部に貼るなど生薬として用いられる。葉の上にお灸を乗せる(温圧療法)とアミグダリンの鎮痛作用により神経痛に効果があるとされる。 枇杷葉は』、九『月上旬ごろに採取して葉の裏側の毛をブラシで取り除き、日干しにしたものである。この枇杷葉』五~二十『グラムを』六百『ccの水で煮出した煮汁を』、一『日』三『回に分けて茶のように飲むと、咳、胃炎、悪心、嘔吐、下痢止めに効果があるとされる。また、あせもや』、『湿疹には、煎じ汁の冷めたもので患部を洗うか、浴湯料として用いられる。江戸時代には、夏の暑気あたりを防止する枇杷葉湯に人気があったといわれており、葉に含まれるアミグダリンが分解して生じたベンズアルデヒド』((benzaldehyde:C7H6O)『によって、清涼飲料的効果が生み出されるといわれている』。『果実は咳、嘔吐、喉の渇きなどに対して効能を発揮する。ビワ酒は、食欲増進、疲労回復に効果があるといわれている』。『種子は』、五『個ほど砕いたものを』四百『ccの水で煎じて服用すると、咳、吐血、鼻血に効果があるとされる』。『ただし、アミグダリンは胃腸で分解されると』、『猛毒である青酸を発生する。そのため、種子などアミグダリンが多く含まれる部位を経口摂取する際は、取り扱いを間違えると』、『健康を害し、最悪の場合は命を落とす危険性がある』(☜)。『ビワの種子に含まれるアミグダリン(青酸配糖体)はサプリメントなどに配合され、俗に「がんに効く」などと言われているが、人を対象にした信頼性の高い研究で』、癌『の治療や改善、延命に対して効果はなく、むしろ青酸中毒を引き起こす危険性があると報告されている。過去にアミグダリンをビタミンの一種とする主張があったが、生体の代謝に必須な栄養素ではなく欠乏することもないため、現在では否定されている。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、癌治療に何の効果も示さない非常に毒性の高い製品であり、本来の医療を拒否したり』、『開始が遅れることにより』、『命が失われていると指摘し、アメリカでの販売を禁じている』。『古くから葉や種子は生薬として使用されてきたが、これはアミグダリンを薬効成分としてごく少量使い、その毒性を上手に薬として利用したものである。薬効を期待して利用する場合は』、『必ず』、『医療従事者に相談し、自己判断での摂取は避けるようにする』。『食薬区分においては、種子、樹皮、葉は「医薬品的効能効果を』標榜『しない限り」、『医薬品と判断しない成分本質 (原材料) 」(非医薬品)にあたり、医薬品的な効能効果を表示することができない。ただし『明らか食品(医薬品に該当しないことが明らかに認識される食品)』であれば薬機法(旧薬事法)には違反しない。しかし「癌が治る」「血糖値が下がる」「血液を浄化する」といった誇大な医薬品的効果効能表示(店頭や説明会における口頭での説明も含む)を行うと、景品表示法や健康増進法の規制の対象となる』。
以下、「安全性」の項。『ビワ、アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンドなどのバラ科サクラ属植物の種子 (種皮の内部にある胚と胚乳からなる仁)には、種を守るために青酸配糖体であるアミグダリンが多く含まれ、未熟な果実や葉、樹皮にも微量』、『含まれる』。『アミグダリン自体は無毒であるが、経口摂取する事で、同じく植物中に含まれる酵素エムルシンや、ヒトの腸内細菌が持つ酵素β-グルコシダーゼによって体内で分解され、シアン化水素(青酸)を発生させる。シアン化水素は』、『ごく少量であれば』、『安全に分解されるが、ある程度摂取すれば嘔吐、顔面紅潮、下痢、頭痛等の中毒症状を生じ、多量に摂取すれば意識混濁、昏睡などを生じ、死に至ることもある』。『熟した果肉や加工品を通常量摂取する場合には、安全に食べることができる。アミグダリンは果実の成熟に従い、植物中に含まれる酵素エムルシンにより』、『シアン化水素(青酸)、ベンズアルデヒド(アーモンドや杏仁、ビワ酒に共通する芳香成分)、グルコースに分解されて消失する。この時に発生する青酸も揮散や分解で消失していく。また、加工によっても分解が促進される』。『しかし、種子のアミグダリンは果肉に比べて高濃度であるため、成熟や加工によるアミグダリンの分解も果肉より時間がかかる。種子がアミグダリンをもつのは自分自身を守るためにあると考えられ、外的ショックを受けてキズが入った種子には』、千~二千『ppmという高濃度のシアン化水素を含むものもある。生の種子を粉末にした食品の中には、小さじ』一『杯程度の摂取量で安全に食べられるシアン化水素の量を超えるものある』。二〇一七『年に高濃度のシアン化合物(アミグダリンやプルナシン)が含まれたビワの種子の粉末が発見されたことにより、厚生労働省は天然にシアン化合物を含有する食品と加工品について』、十『ppmを超えたものは食品衛生法第』六『条の違反とすることを通知した。欧州食品安全機関(EFSA)は、アミグダリンの急性参照用量(ARfD)(毎日摂取しても健康に悪影響を示さない量)を』二十『μg/kg体重と設定している』。『アミグダリンの最小致死量は』五十『mg/kgであり』、三グラム『のサプリメント摂取による死亡報告がある』。二〇一八年、『国民生活センターは、ビワの葉と種子を原材料とした』四『銘柄の健康茶のシアン化合物濃度を測定し、種子を原材料とした』三『銘柄からは』一『パックにつきシアン化合物が』百六十~六百六十『ppm検出された。商品に記載された方法で浸出したものは』一・七~七・三『ppmと健康に悪影響を示す量ではなかったが、飲用量や淹れ方によっては』十『ppmを超える可能性がある。結果を受け国民生活センターは、事業者へは品質管理の徹底を、行政機関には指導の徹底を要望した。 また消費者には、ビワの種子などを原材料にした健康食品等は、利用する必要性をよく考え、利用する場合は、製造者等により原材料や製品、摂取する状態でのシアン化合物の濃度が調べられているかを確認し』、一『度に多量に摂取しないようアドバイスをしている』。『厚生労働省は、ビワやアンズなどの種子を利用したレシピの掲載についても注意喚起を行っている。家庭で生のビワやアンズの仁から杏仁豆腐を作ると、調理実験により数分煮るだけではシアン化物が全て除去されないことが報告されている。場合によっては』、一~二『食分の杏仁豆腐でシアン化物の急性参照用量(ARfD)を超えることが考えられる』(この注意喚起は、ネット上の記事で私も確認したことがある)。
以下、「木材」の項。『乾燥させると』、『非常に硬い上に粘りが強く、昔から杖の材料として利用されていた。現在でも上記の薬用効果にあやかり、乾燥させて磨いた物を縁起物の「長寿杖」と称して利用されている。激しく打ち合わせても折れることがないことから、剣道・剣術用の高級な木刀として利用されている』。
以下、「文化」の項より、一部のみ引く。『ビワは種子から育てて結実するまでに長い年月を要する果樹で知られ、「桃栗三年柿八年、枇杷(は早くて・の大馬鹿・馬鹿めが)十三年」などと言われている。 「ビワを庭に植えてはいけない」という格言については、ビワの木は広く根を張るので家が倒れるなど、いくつか言い伝えがある』とあった。
「枇杷葉湯《びはやうたう》」、有り。食傷、及び、霍亂を治す。以《もつて》、妙と爲す」「株式会社 ウチダ和漢薬」の「生薬の玉手箱 」の「枇杷葉(ビワヨウ)」を見られたいが、そこに、『枇杷葉湯は中国明代の処方を参考に江戸時代に考案された日本独自の処方で』あるとはっきり記されてあり、まさに、本項の本文が、そこに引かれてある。而して、この「枇杷葉湯」は、『「暑気あたり」にも使用されていたことがわか』るとある。
「肉桂」双子葉植物綱クスノキ目クスノキ科ニッケイ属ニッケイ Cinnamomum sieboldii 。詳しくは先行する「肉桂」を参照。
「藿香《かつかう》」「かはみどり」と読めば、薄荷の匂いのするシソ目シソ科カワミドリ属カワミドリAgastache rugosa がある。当該ウィキによれば、『葉や茎は漢方に用いられる』。『乾燥した葉に芳香があり、生薬名に藿香(かっこう)を当てているが、これは誤りで、日本では排香草ともいう』。『かぜ薬などの漢方薬として、茎、葉、根を乾燥させたものを用いる』。『民間では』、六~七月に、『茎の上部だけを切り取り、水洗いしたあとに吊るして陰干ししたものを、解熱薬として、また健胃薬として用いられる』とある。
「莪朮《がじゆつ》」単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ウコン属ガジュツ Curcuma zedoaria 。当該ウィキによれば、『根茎が生薬(日本薬局方に収録)として用いられ、芳香健胃作用がある』。『ウコン』(ここに「鬱金」と出る、ウコン属ウコン Curcuma longa 。熱帯アジア原産であるが、十五世紀初めから十六世紀後半の間に、沖縄に持ち込まれ、九州・沖縄地方や薬草園で薬用(根)及び観葉植物として栽培された)『よりも薬効は強いとされる。生薬としては莪朮というが』、『中国では塊根を鬱金(ウコン、キョウオウと同じ)、根茎を蓬莪朮という』とある。
「吳菜萸《ごしゆゆ》」既出既注だが、再掲すると、「ごしゅゆ」はムクロジ目ミカン科ゴシュユ属ゴシュユ Tetradium ruticarpum 。当該ウィキによれば、『中国』の『中』部から『南部に自生する落葉小高木。日本では帰化植物。雌雄異株であるが』、『日本には雄株がなく』、『果実はなっても種ができない。地下茎で繁殖する』。八『月頃に黄白色の花を咲かせる』。『本種またはホンゴシュユ(学名 Tetradium ruticarpum var. officinale、シノニム Euodia officinalis )の果実は、呉茱萸(ゴシュユ)という生薬である。独特の匂いと強い苦みを有し、強心作用、子宮収縮作用などがある。呉茱萸湯、温経湯などの漢方方剤に使われる』とあった。漢方薬剤としては平安時代に伝来しているが、本邦への本格的渡来はこれまた、享保年間(一七一六年から一七三六年まで)とされる。
「木香《もつかう》」キク目キク科トウヒレン属モッコウ Saussurea costus 又は Saussurea lappa の孰れかの根から採れる生薬。薫香原料として知られ、漢方では芳香性健胃剤として使用されるほか、婦人病・精神神経系処方の漢方薬に多く配合されている。
「甘草《かんざう》」マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza。当該ウィキによれば、『漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬であり、日本国内で発売されている漢方薬の約』七『割に用いられている』とある。]
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