茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「巡禮の歌」(一九〇一年) (あなたは未來だ。……)
あなたは未來だ。
永遠の平野の上の偉大な日の出だ。
あなたは時の夜の後の雞鳴、
露、朝の獵犬、また女だ、
見知らぬ男だ、母だ、死だ。
常に寂しく運命から卓出する
變轉する姿だ、
喜び迎ふるものも訴ふるものもなく、
記されることもない、野生の森のやうに。
あなたは、物ごとの深い總加だ。
その本質の最後の言葉は默つてゐる。
そして異る人には常に異つて見える。
船には岸と、陸には船と見える。
[やぶちゃん注:底本はここ。
「雞鳴」「けいめい」。
「總加」「さうか」。総ての対象体を完全に足(た)すこと。
「そして異る人には常に異つて見える」個人的には、「そして異(ことな)る人には常に異(ことな)つて見える」、或いは、「異(ちが)つて見える」と読みたい。]
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