茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「形象篇」「第一卷」 「進步」
進 步
それで再(ま)た私の深い生命は一層高く音たてる。
より廣い岸の中を行くやうに。
物は愈〻私に近しくなり。
すべての景象はいよいよ明かになつて、
私は名の無いものに愈〻親しいのを感ずる。
鳥のやうに私の感覺を飛ばして、
私は檞の樹から風立つた天に達し。
また池の千ぎれた日の中へ、
魚に乘つてるやうに沈む私の感情。
[やぶちゃん注:「檞」個人的には「かし」と読んでおきたい。ドイツ語の「Wikisource」のここで、原詩‘ Fortschritt ’が電子化されてあるが、その当該行は、“ ich in die windigen Himmel aus der Eiche, ”で、「檞」相当の単語は“Eiche”(音写「アイヒェ」)で、これは、「カシ・オーク・カシワ」を指す。この語は、広義には、双子葉植物綱ブナ目ブナ科コナラ属 Quercus を広範に指すが、ヨーロッパでは、まず、コナラ属オウシュウナラ(欧州楢) Quercus robur を指すことが多いので、ここもそれと採ってよい。樹高は、二十五~三十五メートルで、中には四十メートルに達する個体もある。普通に五百年の長寿とされる。因みに、本邦に自生する「檞」類は、クヌギ(櫟・椚・橡)Quercus actissima・ナラガシワ(楢柏)Quercus aliena・ミズナラ(水楢)Quercus crispula・カシワ(柏・槲)Quercus dentata・コナラ(小楢) Quercus serrata・アベマキ(阿部槇)Quercus variabilis であるが、このうち、ミズナラが最大樹高三十五メートルで、本邦の同種の最大樹齢は北海道網走郡津別町にある「千年大樹」と呼ばれる「双葉のミズナラ」が匹敵し得るか(ここ・グーグル・マップ・データ)。伝承上で千二百年の古木である。]
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