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2025/01/16

茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「舊詩集」 (序詩)・(日常の中に滅びた憐れな言葉、……)

 

 

      舊詩集

 

 

  憧憬は、波濤の中に住むで、

  時の中に故鄕を持たぬこと。

  願ひは、永遠と

  日々の時間との小聲の會話。

 

  生活は、昨日の中から

  あらゆる時間の一番寂しい時間が、

  他の姉妹等とは異つた微笑をしながら、

  昇つて來て永遠を默つて迎へるまで。

 

[やぶちゃん注:「(序詩)」は、岩波文庫の校注に、『〔旧詩集〕序詩』とあるのに従った。実際には、原本では、この詩は有意なポイント落ちになっているが、それは再現しなかった。]

 

 

 

日常の中に滅びた憐れな言葉、

目立たぬ言葉を私は愛する。

私の宴(うたげ)から私がそれに色を與へると

言葉は微笑むで徐に樂しくなる。

 

彼等が臆病に内へ押入れた本性が

はつきりと新になつて誰にも見えて來る。

一度も未だ歌の中で步まなかつたのが、

慄へながら私の小曲の中を步く。

 

[やぶちゃん注:「徐に」「おもむろに」。

「新になつて」「あらたになつて」。]

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