和漢三才圖會卷第八十七 山果類 柑子
かうじ 柑子
【和名加無之
柑子 俗云加宇之】
黃柑【今按】
[やぶちゃん注:最後の割注は、ママ。良安に書き忘れか。]
△按柑子乃柑類之總名也今單稱柑子者乃陳藏器之
所謂黃柑是也然詳考形狀今柑子乃橘之屬也其樹
似橘葉亦似橘而短實似𮔉柑而小皮薄純黃味酸苦
夫木この程はいせに知る人をとつれて便り色ある花かうし哉慈圓
[やぶちゃん注:「をとつれて」はママ。]
一種有白和柑子出於遠州白和村故名之大如𮔉柑而
味亦稍美
*
かうじ 柑子
【和名、「加無之《かむじ》」。
柑子 俗、云ふ、「加宇之」。】
黃柑《わうかん》【今、按ずるに、】
[やぶちゃん注:最後の割注は、ママ。良安に書き忘れか。]
△按ずるに、柑子は、乃《すなはち》、柑類の總名なり。今、單に「柑子」と稱する者、乃《すなはち》、≪「本草綱目」に≫陳藏器が所謂《いはゆ》る、「黃柑」、是れなり。然《しか》るに、詳《つまびらか》に形狀を考《かんがふ》るに、今の柑子、乃ち、橘(みかん)の屬なり。其の樹、橘に似《に》、葉も亦、橘に似て、短く、實は𮔉柑に似て、小《ちさ》く、皮、薄く、純黃、味、酸《すぱ》く、苦《にが》し。
「夫木」
この程は
いせに知る人
をとづれて
便《たよ》り色ある
花かうじ哉《かな》 慈圓
一種、「白和柑子(しろわ《かうじ》)」、有り。遠州白和村[やぶちゃん注:現在の静岡県浜松市中央区白羽町(しろわちょう:グーグル・マップ・データ)]に出づ。故《ゆゑ》、之れを名づく。大いさ、𮔉柑のごとくにして、味も亦、稍《やや》、美なり。
[やぶちゃん注:これは、
双子葉植物綱バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン亜科ミカン属コウジ Citrus leiocarpa
である。当該ウィキによれば、漢字表記は『「甘子」または「柑子」』で、『「ウスカワ(薄皮)ミカン」とも言われる』。『古くから日本国内で栽培されている柑橘の一種だが』、八『世紀頃に中国から渡来したと言われる(一説には「タチバナ」』(日本固有種タチバナ Citrus tachibana )『の変種とも)。果実は一般的な「ウンシュウミカン」』( Citrus unshiu )『よりも糖度が低く酸味が強い。種は多いが』、『日持ちは良い』。『樹勢が強く』、『耐寒性に優れている』ため、『「ウンシュウミカン」の露地栽培が難しい日本海側の一部でも栽培されている』とある。小学館「日本国語大辞典」も引いておく。『「かんじ」の変化した語』で、『ミカン科』Rutaceae『の常緑小高木。在来ミカンの一種で』、『耐寒性が強く』、『山陰・北陸・東北地方にも家庭用として栽培されている。果実は扁平で小さい。果皮は蝋質黄色、滑らかで薄くむきやすい。果肉は淡黄色で、八~』十『室あり、酸味が強く』、『種子が多い。スルガユコウ』(駿河柚柑:Citrus leiocarpa ‘Suruga-yuko’ )『フクレミカン』( Citrus tumida )『などの品種がある。新年の注連縄』・『蓬莱などの飾りに用いることがある。こうじみかん。また一般にミカンの異名としてもいう』とある。
『≪「本草綱目」に≫陳藏器が所謂《いはゆ》る、「黃柑」、是れなり』「本草綱目」の「卷三十」の「果之二」の「柑」の項(「漢籍リポジトリ」のここの[075-35b]以降)の「集解」の(一部の漢字を書き換え、句読点・記号を打ち、当該箇所に太字下線を附した)、
*
藏器曰、『柑、有、朱柑・黃柑・乳柑・石柑・沙柑。橘、有、朱橘・乳橘・塌橘・山橘・黄淡子。此輩、皮、皆、去氣調也。中實俱、堪食。就中、以乳柑、爲上也。』。
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「夫木」「この程はいせに知る人をとづれて便《たよ》り色ある花かうじ哉《かな》」「慈圓」既注の「夫木和歌抄」に載る慈円の一首で、「卷八 夏二」の最後に所収する。「日文研」の「和歌データベース」で確認した(同サイトの通し番号で「02729」)。そこでは、
*
このほとは-いせにしるひと-おとつれて-たよりいろある-はなかうしかな
*
とある。]
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