茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「時禱篇」(私が生れて來た闇黑よ、……)
私が生れて來た闇黑よ、
私は熖よりも汝を愛する。
熖は輝いて、
ある範圍に
世界を限つてゐる、
その外へ出ると知つてゐるものはない。
しかし闇黑はすべてを持つてゐる、
形をも、熖をも、獸をも、私をも。
それからまた、
人間を、諸の力を――
そして私の隣に大きな力が
動いてゐるかもしれないのだ。
私は夜々を信ずる。
[やぶちゃん注:「諸」岩波文庫の校注によれば、再版「詩集」では、『諸〻』と訂正されているとある。個人的には「もろもろの」と訓じたい。]
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