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2025/02/01

茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「巡禮の歌」(一九〇一年) (深夜に私はお前を堀る。寶よ。……) / 「巡禮の歌」~了

 

 

深夜に私はお前を堀る。寶よ。

私が見た總べての盈溢も、

まだ來ないお前の美に比べると、

貧しくまた見すぼらしい補足だ。

 

しかしお前にゆく路は恐しく遠く、

久しく通つた者もないので埋れてゐる。

ああお前は寂しい。お前こそ寂寥だ、

ああ遠い谷へゆく心よ。

 

堀るために血が出る兩手を

私は風の中に開きかかげる、

樹のやうに枝を出せよと。

私はその手でお前を空間から飮む、

丁度氣短かな身振をして

お前が彼處に碎け散つたかのやうに、

さうして今は塵のやうに碎けた世界が

遠い星からまた地の上に、

春雨の降るやうに軟く落ちるかのやうに。

 

[やぶちゃん注:二箇所の「堀る」はママ。

「盈溢」「えいいつ」。満ち溢れること。

「寂寥」「せきれう」(現代仮名遣「せきりょう」)。心が満ち足りず、もの寂しいこと。

「彼處」「かしこ」、或いは、「あそこ」。私は前者を採る。]

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