茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「形象篇」「第一卷」 「ものおぢ」
ものおぢ
うら枯れた森に鳥の聲が一つ。
それはその枯れた森では無意味に見える。
その圓い鳥の聲は、
それを作つた瞬間の中に
大空のやうに廣く枯れた森の上に休む。
萬物は軟かいこの叫びの中に入り、
全地は總べて音なくその中に橫はるやうに見える。
大風もその中へたわみ入るやうだ。
さうして步み續けようとする分(ミニツツ)は、
何人もそれで死ななくてはならない
物を知つてるやうに、蒼ざめて、靜に、
その叫びから踏み出した。
[やぶちゃん注:「分(ミニツツ)」ドイツ語の時間・角度の単位である「分」はMinuteで、音写は「ミヌーテ」であるから、ここは、英語のminuteの音写「ミニッツ」を振ったのもの。]
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