茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「時禱篇」(私は總べての未だ云はれなかつた事を信ずる。……)
私は總べての未だ云はれなかつた事を信ずる。
私は自分の最も敬虔な感情を放さう。
誰もまだ敢て欲しなかつたものが、
いつか不意に私に成就するだらう。
これが僣越なら、神樣、お赦し下さい。
私はただあなたに云はうと思ふのです、
私の最上の力は衝動のやうに
怒もなく、躊躇もなくあれと。
そのやうに子供はあなたを愛してゐます。
このやうに溢れ流れて
廣い腕となつた河目で大海に注ぎ、
このやうな生長する囘歸によつて、
私はあなたを認め、あなたを告げませう。
以前一人もしなかつたやうに。
これが自負ならば、自負させて下さい。
こんなに嚴肅にまた獨り
あなたの雲の額の前に立つ
私の祈禱のために。
[やぶちゃん注:岩波文庫の校注を見ると、再版「詩集」では、全体に亙って、有意な数の書き変えが行われていることが判る。その指示に従って、復元してみる。
*
私は總べての未だ言はれなかつた事を信ずる。
私は自分の最も敬虔な感情を放さう。
誰もまだ敢て欲しなかつたものが、
いつか不意に私に成就するだらう。
これが僣越なら、神樣、お赦し下さい。
私はただあなたに言はうと思ふのです、
私の最上の力は衝動のやうにあるべきです。
怒もなく、躊躇もなく。
そのやうに子供はあなたを愛してゐます。
この溢れ流れるさまで
廣い腕となつた河目で大海に注ぐさまで、
この生長する囘歸で、
私はあなたを信仰し、あなたを告げませう。
以前一人もしなかつたやうに。
これが自負ならば、自負させて下さい。
こんなに嚴肅にまた獨り
あなたの雲の額の前に立つ
私の祈禱のために。
*]
« 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「時禱篇」(私が生れて來た闇黑よ、……) | トップページ | 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版「時禱篇」(我々は慄ふ手でお前を建て、……) »