茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「貧困と死」 (私は彼を褒めたたへよう。軍勢の先に……)
私は彼を褒めたたへよう。軍勢の先に
角笛の行くやうに、行つて叫ばう。
私の血を海よりも高く鳴響かさう。
私の言葉を人が好むやうに甘くしよう、
でも葡萄酒のやうに人を惑はせてはならない。
そして春の夜々、私の休息處をめぐつて
僅かの人々のゐる時には、
私は絃を彈いて喜ばう。
一葉一葉を遲々として憂ひめぐる
北方の四月のやうに微かに。
何故となら私の聲は兩面に育つて
匂ともなり、叫びともなつたから。
一つは遠い者を準備し、
他は自分の寂寥の幻や
幸や天使でなくてはならない。
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