茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「豹 ――巴里の植物園で」
茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「豹」
豹
――巴里の植物園で
格子(かうし)の通り過ぎる爲めに
彼の眼は疲れて、もう何にも見えない。
彼には數千の格子があるやうで、
その格子の後に世界はない。
しなやかに强い足なみの音もない步みは
最も小さな輪をかいて廻つて、
大きな意志がしびれて立つてゐる
中心を取卷く力の舞踊のやうだ。
唯をりをり瞳の帷が音もなく
あがる。――すると形象は入つて
四肢の緊張した靜さを通つて行く――
そして心で存在を止(や)めるのだ。
[やぶちゃん注:「帷」「とばり」。]
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