茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「一九〇六年の自像」
一九〇六年の自像
古い、長い、貴族の
確立したものが眼の弓の構造に。
眼差には未だ幼年の怖と碧とがある。
そこ此處にある謙遜は、僕(しもべ)ののではないが、
なほ奉仕する者の、また女の謙遜だ。
口は尋常で、大きく又しまつてゐる、
語り過ぎないが、正義を云ふ。
額は惡いものが無く
蔭の中で靜にうつ向くを好む。
連繫をなすものは、ただ豫感されるだけで、
未だ惱みにも成功にも
續けて押通すやうに纏まつてゐないが、
蒔き散らされた事物で遠くから
嚴肅なもの、現實なものが企てられてゐるらしい。
[やぶちゃん注:リルケは一八七五年十二月四日生まれであるから、誕生日以前なら、満三十歳で、パリで孤独な生活をしていた。本「新詩集」は翌一九〇七年の出版である。]
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