茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「露臺」
露 臺 ナ ポ リ
上の露臺の狹い處から
畫家に竝べられたやうに、
老いてゆく楕圓の顏と顏が
花束のやうに結ばれて、
夕暮にくつきりと、一層理想的に
感動的に、永遠のためのやうに見える。
この竝んで寄添ふ姉妹等は、
丁度遠くから望もなく
憧れあつてでもゐたやうに、
寄添つてゐる、寂しさと寂しさと。
そして嚴かに默つてゐる兄弟は、
閉ざされて、怜悧に充ち、
しかし僅に母親に較べられる、
やさしい眼差を持つてゐる。
そして其間に、生き衰へて細長い、
疾うに誰とも似なくなつた、
老女の面(めん)が、近づき難く、
一つの手で落ちるのを支へるやうに
支へられる。更に萎びた他(ほか)の手は、
滑り落ちでもするやうに
下の著物の前
子供の顏の橫に垂れてゐる。
その最終の顏は、試に畫かれたやうで、蒼ざめて、
格子のために線をひかれて、
末だ定め難いもの、無いもののやうだ。
« 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「衰へた女」 | トップページ | 茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「海の歌 カブリ ピツコラ マリナ」 »