茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「戀歌」
戀 歌
お前の魂に觸れないやうに、
私は自分の魂を何う保てばいいのだ。
どうそれをお前越しに他の物へ高めよう。
ああ私はそれを何か闇黑(くらやみ)の
失はれたものの許で葬りたい、
お前の深い心が搖らいでも搖らがない、
知られない靜かな場處に。
しかしお前と私とに觸れる總べてのものは、
二つの絃から一つの聲を引出す
弓の摩擦のやうに、我々を一緖に取る。
どんな樂器の上に我々は張られてゐるか。
どんな彈手が我々を手にしてゐるか。
ああ甘い歌。
[やぶちゃん注:「彈手」「ひきて」。]
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