茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「衰へた女」
衰 へ た 女
死んだ後のやうに輕く
彼女は手套や肩掛をつける。
簞笥からの匂が、
前にはそれで自分を認めた
なつかしい香を追ひ拂つた。
今彼女はもう、自分が誰だとは
全く訊ねない。(遠い親戚だ)
そして思ひ沈むで步き廻る。
そして氣づかはしげな部屋に氣をくばり、
片づけたり、いたはる。
なほこの部屋に住むのは
同じ娘だからだらう。
[やぶちゃん注:この詩篇――何故か、ひどく、気になる、一読、忘れ難いものである……。
「手套」音で「しゆたう」(現代仮名遣「しゅとう」)と読んで、「手袋」のことを言うが、ここは、下で対となっている「肩掛」を「かたかけ」と読むのに合わせて、「てぶくろ」と読むべきである。
「香」「かをり」。]
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