茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「薔薇の內部」
薔薇の內部
何處にこの内部に叶ふ
外部がある。どんな痛みを
人はかういふ麻布で蔽ふのか。
なんといふ天が此中に映ずるのだ。
これ等の開いた薔薇の、
憂のない花の
內海に。見よ、
彼等がゆるやかの中に緩かに
橫つてゐるさまを、慄へる手が
彼等を散りこぼすことも出來ぬやうに。
彼等は殆ど自分をも保てない。
多くの花は溢れさせ、
內部から流れ越え、
いよいよ充ちてゆく
日の中へこぼれ入る。
全き夏が一つの部屋になるまで、
夢の中の一つの部屋に。
[やぶちゃん注:「橫つてゐるさまを」「よこたはつてゐるさまを」。]
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