茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「盲ひつつある女」
盲ひつつある女
その女(ひと)は他の人々のやうにお茶に坐つてゐた。
私には何だか其女が茶椀を
他人とは少し違つて持つやうに思へた。
一度ほほ笑むだ。痛ましい程に。
終に人々が立上つて話をし、
偶然ではあつたが、徐ろに多くの部屋を
通つて行つた時、(人々は話した、笑つた、)
私はその女を見た。その女は他の人々の後をついて來た。
直ぐ歌はなくてはならない人のやうに、
しかも大勢の前で、控目に、
喜んでゐるその明るい眼の上には、
池の面へのやうに外からの光があつた。
その女は靜に從(つい)て來た。長くかかつた。
何かをなほ越さなかつたやうに、
しかし、越した後は、もう
步かずに飛翔するだらうと思ふやうに。
[やぶちゃん注:「終に」ここは、「つひに」だろう。
「面へ」これは、「おもへ」であろう。]
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