茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「戀人の死」 / 底本訳詩篇部~了
戀人の死
死は我々を取つて沈默の中へ押入れると
萬人の知ることだけを彼は死について知つてゐた。
しかし彼女が彼から引奪(ひつたく)られはせずに、
そつと彼の眼から解きほどかれ
未知の蔭へ滑り去つたとき、
そして彼方の人々は今
月のやうに彼女の微笑で
彼等の習(ならは)しをよくするのを感じた時、
その時死者たちは彼の知己となつた。
恰も彼女によつて一人一人と
全く近い親戚になつたやうに。
[やぶちゃん注:本詩篇を以って、底本の詩篇部は終わっている。
以下、訳者に拠る「ライネル・マリア・リルケ」と標題する全九章から成る論考がある。これも無論、電子化するが、現在、ブログ・カテゴリ「小泉八雲」の正字化不全とミス・タイプ、及び、注の検証という大仕事を行っているため、一日一章の電子化しか出来ない。悪しからず。]
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