茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「西班牙の舞妓」 / 「新詩集」「第一卷」~了
西班牙の舞妓
手の中の硫黃附木(つけぎ)のやうに、白く、
熖になる前に、八方ヘ
閃き搖れる舌を出す―。近い見物の
輪の中で、早く、明るく且つ熱く
彼女の踊は閃めきながら廣がりだす。
そして急にそれは全くの熖。
彼女は眼差で髮に火を點じ。
一度に放れ業で全衣裳を
この火事の中へ引廻す。
火事の中からは、驚いた蛇のやうに、
裸の腕が眼をさまし、響きながら延ばされる。
やがて火が乏しくなつたやうに、
彼女はそれを集めて、華々しく
また投げる、誇らしい身振で。
見よ、地上に火は狂つて橫はり、
なほ未だ熖を出して、消えはしない――
しかし勝ち誇り、落ちついて、そして
甘い挨拶の微笑をして、彼女は顏をあげ
その小さな堅い足で火を踏み消す。
[やぶちゃん注:第一連三行目のダッシュが「―」なのは、ママ。
「西班牙」スペイン。]
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