茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「貧困と死」 (彼等はそれではない。彼等はただ……)
彼等はそれではない。彼等はただ
意志も世界もない富まぬ者だ。
どん底の心配で刻印され、
到る處で葉をむしられ醜くされてゐる。
都會のあらゆる塵は彼等に迫り、
あらゆる汚物は彼等に懸つてゐる。
彼等は痘瘡の床のやうに惡名を負ひ、
破片のやうに捨てられ、骸骨のやう、
また過去つた年の曆のやうだ――
しかし、爾の地に厄あらば、
彼等を竝べて薔薇の鎖とし
それを護符として持つがいい。
何故となら彼等は純な石よりは純で、
初めて始める盲の獸のやうで、
單純に充ち、無限に爾のものだ。
そして何にも欲しないのだから。ただ一つ要することは
實際あるままに貧しくてよいといふこと。
[やぶちゃん注:「爾」「なんぢ」。
なお、次(改ページのここで、右ページ中央に一行のみが記されてある。本篇はここ)の一行詩
*
何故なら貧は内からの大きな輝だから
*
も見られたい。冒頭の「何故なら」は、明らかに、本詩篇の最終行を受けているとしか読めないからである。しかし、岩波文庫の校注では、あくまで一行詩として記してある。原詩を確認出来ないので、注で示しておく。]
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