茅野蕭々譯「リルケ詩抄」正規表現版 「新詩集」「第二卷」 「愛する女」
愛する女
これは私の窗だ。丁度
私は軟かに眼がさめた。
私は自分が漂ふのかと思つた。
何處まで私の生は達し、
何處に夜が始まるのだらう。
私は思ひたい。私は未だ
周圍のすべてだと。
水晶の底のやうに透明で、
暗がつて、默してゐる。
拂はまた數多の星を
自分の中に持つてゐたい。
それ程大きく私の心が見える。
それで彼を喜んで放してやつた。
恐らく私は彼を愛さうと、
恐らく引止めようとし始めたのだらう。
一度も書いてないやうに、
變に私の運命が私を見つめる。
何故私はこの
無限の下に置かれたのだ。
牧場のやうに薰りながら、
あちこちへ動いて、
誰か呼聲をきくやうにと
同時に心配して呼びながら。
そして他人の中に
滅びるやうに定められて。
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