和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 龍眼肉
[やぶちゃん注:左下方に熟した龍眼の包皮を持った実二つが描かれてある。]
りうがんにく 龍目 亞荔枝
圓眼 益智
龍眼肉 燕卵 荔枝奴
驪珠 𮔉脾
ロン ヱン 鮫淚 川彈子
本綱龍眼肉南方有之木高一二𠀋性最畏寒似荔枝枝
葉微小凌冬不凋春末夏初開細白花七月實熟殼青黃
文似鱗甲形正圓大如雀卵核若木梡子而不堅肉薄於
荔枝白而有漿其甘如𮔉實極繁每枝二三十顆作穗如
蒲桃白露後方可采摘晒焙令乾成朶乾者名龍眼錦食
品以荔枝爲貴而資益則龍眼爲良蓋荔枝性熱而龍眼
性和平也【嚴用和濟世方有歸脾湯入用之取甘味歸脾能益人智之義】
△按龍眼肉自廣東廣西福建多來皆其肉正黒也伹生
者白焙熟如此乎多種其核遇有活生者而未有可結
子木五雜組云凡荔枝龍眼核種者多不活卽活亦須
二十年始合抱結子故接佳種之枝間歳卽成實
りうれい
龍荔
本綱龍荔狀如小荔枝而肉味如龍眼其木之身葉亦似
二果故名之三月開小白花與荔枝同時熟不可生噉伹
可蒸食
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りうがんにく 龍目《りゆうもく》 亞荔枝《あれいし》
圓眼 益智
龍眼肉 燕卵《えんらん》 荔枝奴《れいしど》
驪珠《れいしゆ》 𮔉脾《みつひ》
ロン ヱン 鮫淚《かうるい》 川彈子《せんだんし》
「本綱」に曰はく、『龍眼肉、南方≪に≫、之れ、有り。木の高さ、一、二𠀋。性、最≪も≫、寒を畏《おそ》る。荔枝《れいし》に似て、枝・葉、微《やや》小《ちさ》く、冬を凌《すごし》て、凋は《✕→ま》ず。春の末、夏の初《はじめ》、細≪き≫白花を開く。七月、實、熟す。殼、青黃の文《もん》、鱗甲《りんかう》に似たり。形、正圓にして、大いさ、雀の卵(たまご)のごとく、核《さね》、木梡子(もくれんし)のごとくして、堅からず、肉、荔枝より薄く、白《しろく》して、漿(しる)、有り。其《その》甘きこと、𮔉《みつ》のごとし。實、極《きはめ》て、繁く、枝每《ごと》に[やぶちゃん注:レ点はないが、返って読んだ。]、二、三十顆、穗を作《な》し、蒲桃《ほたう/ぶだう》のごとし。白露《はくろ》[やぶちゃん注:二十四節気の一つ。グレゴリオ暦の九月八日頃。秋の気配が感じられ始める頃に当たる。]の後、方《ま》さに、采摘(《とり》むし)るべし。晒《さらし》焙《あぶり》て、乾かしめ、朶《えだ》成《なり》≪にして≫乾く者を、「龍眼錦《りゆうがんきん》」と名づく。食品に、荔枝を以つて、貴《とうと》しと爲《すれ》ども、資益《しえき》[やぶちゃん注:身体の補益。]なるは、則ち、龍眼を良と爲す。蓋し、荔枝は、性、熱にして、龍眼は、性、和平なり【嚴用和《げんようわ》が「濟世方」に、「歸脾湯」、有り。之れを入用すれば、甘味は脾に歸し、能く人智を之れに益するの義を取る。】。』≪と≫。
△按ずるに、龍眼肉、廣東・廣西・福建より、多く來《きた》る。皆、其の肉、正黒なり。伹《ただし》、生《なま》は、白く、焙熟《あぶりじゆく》して、此くのごとくなるか。多《おほく》、其の核《さね》を種《うゑ》て≪も≫、遇《たまたま》、活-生(は)へる者、有れども、未だ、子《み》を結ぶ木、有るべからず。「五雜組」に云はく、『凡そ、荔枝・龍眼の核を種《う》うる者、多くは、活(は)へず[やぶちゃん注:「へ」はママ。]。卽ち、活《かつ》しても亦、須《すべか》らく、二十年、始《はじめ》て、合-抱(ひとかかへ)にして、子を結ぶ≪ばかりなり≫。故に、佳《よき》種の枝を接(つ)げば、間歳《かんさい》[やぶちゃん注:一年。]、卽ち、實を成す。』と云ふ。
りうれい
龍荔
「本綱」に曰はく、龍荔《りゆうれい》、狀(《かた》ち)、小≪さき≫荔枝のごとくして、肉の味、龍眼のごとし。其の木の身、葉も亦、二果に似たる故、之れを名づく。三月、小≪さき≫白花を開き、荔枝と同時に熟す。生にて噉《く》ふべからず。伹《ただし》、蒸(む)して食ふべし。
[やぶちゃん注:これは、
双子葉植物綱ムクロジ目ムクロジ科リュウガン属リュウガン Dimocarpus longan
である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『果実を割ったとき』、『中にある大きな黒褐色の種子と』m『そのまわりの半透明な白い部分の様子を、中国で伝説の神獣である龍の眼に見立てて「龍眼」と名付け、これを日本語では音読みしてリュウガンと読まれる』。『広東語ではlùhng-ngáahnと発音し、ここから西洋ではlongan(英語等)などと呼ばれ、日本語でもロンガンという呼称もある』。『普通話ではlóngyǎn(ロンイエン)。ほかに、閩南語では「リンギン」(白話字 (POJ) Lêng-géng 』『)などと読まれる。タイ語では』『ラムヤイ』、『ベトナム語では』『ニャン』。『中国南部やインドが原産といわれる。果樹として主に東南アジア地域で広く栽培されている。果実の主な生産地は福建省など中国南部、台湾 (特に南投県と嘉義県が一番有名)、タイ、ラオス、インドネシア、ベトナム。日本では鹿児島県の大隅半島や、沖縄などの一部地域に分布する』。貝原益軒の「大和本草」(宝永六(一七〇九)年刊)『には、「薩摩に茘枝(れいし)竜眼の木もとより山にありと云う」の記述があり』(実際には、具体な記載は同書の「卷十」の「果木」で「荔枝 龍眼」のセットで記されてある。前項が「荔枝」であったから、この際、国立国会図書館の原本のここから、全文を起こして以下に示しておく(原文は漢字・カタカナ表記であるが、カタカナは一部を除いて、平仮名に代えて読み易くしておく。一部は推定訓読し、また、句読点・記号・濁点を、適宜、補った。読みが必要と考えた箇所は、《 》で補った。歴史的仮名遣の誤りはママ)。十八『世紀には日本で栽培されていたことがうかがえる』。
*
荔枝(リチイ) 龍眼 此二木、其小なるは、根、共に、「から」[やぶちゃん注:「唐」。]よりわたること、あり。荔枝は唐音「リ・チイ」。其葉、「ほゝ」の木に似て、「また」あり。龍眼の葉は、「かし」の葉に似て、「また」、なし。二樹、南國に宜し。北國に宜からず。中華にも、嶺南の暖地にあり。其餘の處、之れ、無し。荔枝、『百果の内にて、味、尤《もつとも》、すぐれたり。』と、張九齡「荔枝賦」にしるせり。大木には、實、百斛に至る。『五、六月、盛に熟する時、其土人、其下に燕會して、之れを賞す。量を極めて、取り啖ふ。』と、「本草」に記せり。『龍眼は、荔枝、過《すぎ》て後、七月、熟す。一枝に、五、六十顆、一處《ひとつところ》にあつまりみのる事、蒲萄《ぶだう》のごとし。』と、「事類合璧」にしるせり。一名、「亞荔枝」と云ふ。『荔枝につぐ』となり。「薩摩に、荔枝・龍眼の木、もとより、山に、あり。」と云ふ。中華にも『「山龍眼」とて、野生あり』と、「本艸」にいへり。「泉州境・肥州長崎等、處々に、あり。」と云ふ。皆、實を此地にうえしなり。「から」、ともに、うふべし。其の實、自然に、をちて、生ずるを以《もつて》しるべし。但し、實を、うへて、生じがたく、生じても、長じがたく、實のりがたし。長ぜずして枯《か》る。土地、異《こと》なればなり。「本草約言」、『龍眼の功、人參と並ぶ。』といへり。○荔枝は、龍眼より、味、すぐれたれども、藥に用ひず、核(さね)は、まれに用ゆる事あり。龍眼は「歸脾湯」及《および》「心神復元湯」に用ゆ。其の外、用事、まれなり。藥酒に用《もちひ》る事あり、藥にも、果にも、新渡《しんわたり》の近きを、用ふべし。藥に用るには、「から」を去り、日に、ほし、收《をさめ》おくべし。或いは、肉を取《とり》、蜜に、つけ置《おく》べし。砂糖につけるも亦、可なり。此くのごとくすれば、久しきに堪《た》ふ。「から」ともに、をきて久しければ、必《かならず》、かびて、用、立たず。
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良安の記載と、よく似ている。但し、益軒の刊行の方が少し早いので、真似たとすれば、良安の方だろうと思われる。ウィキの引用に戻る。
『リュウガンは台湾や、中国の比較的暖かい上海などの地域で街路樹として植えられている。そのような場所では道路に四散した果実が異臭を放つ様子もみられ、日本人にはイチョウを彷彿とさせる光景である』。『常緑広葉樹の小高木で、樹木は』五~十『メートル』、『 高いもので』十五メートル『ほど生長する。葉は革質で、小葉の長さが』十~四十六『センチメートル 』『ある』。『花期は春から初夏』五月頃『で、葉腋から花茎を伸ばして、芳香がある径』六『ミリメートル』『ほどの黄白色の小さな花を円錐状に咲かせる』。『果実期は秋で、直径』二~二・五『センチメートル』『ほどの丸く茶褐色の果実をブドウの房のように一度に多く実らせる。果肉(仮種皮)はブドウに似た白く半透明な果汁の多いゼリー状で、中央に大きな黒褐色の種子がある。白色透明の果肉は、甘味があり』、『生でも食べることが出来る。果実は同じムクロジ科のレイシ(ライチ)に似ているが、暗褐色で表面に凸凹があるレイシと比べ、リュウガンの実の表面に凸凹がなく、淡褐色である。独特な香りと味があり』、『好みが分かれる』。『果実は生食だけでなく、乾燥したものを「龍眼肉」と称して食用や薬用に広く利用される。中国料理では乾燥させたものを佛跳牆などのスープなどに使用する。漢方ではこの果肉を乾燥したものを利用する。ジュース、缶詰、アイスクリームの材料としても利用される。台湾や沖縄での収穫期は』七~八月。『果実は可食でき、大風で大木から落ちた果実は生食している。生食はブドウの果実のようで、酸味もあり』、『おいしく食べることできる。また、マーケットで缶詰も入手は可能である。滋養強壮にもよく、食後のデザートにも適している』。『リュウガンの果実は、干しぶどうのように乾燥させたものがあり、味も干しぶどうに似ていて、特有の燻製臭がある』。『漢方では補血、滋養強壮に役立つ薬と考えられていて、漢方薬として果肉を乾燥させたものを竜眼肉(りゅうがんにく)、桂円肉(けいえんにく)と呼ぶ。心と体を補い補血、滋養強壮の効果が有るとされる。疲労、不眠、貧血、病後、産後の肥立ち、また胃腸に効くとされる』。『仮種皮にはブドウ糖、蔗糖、酒石酸、脂肪、デキストリン、アデニン、コリンなどを含んでいる。酒石酸は鉄分の吸収を促進させる作用、コリンは副交感を軽く刺激して、胃腸などの内臓器官の活動を活発にさせる作用が知られている』とある。なお、「維基百科」の「龙眼」には、歴史的記載・伝説・「龍眼と荔枝」の項が、オリジナルティがあり、読ませる。但し、自動翻訳では、これらの記載は上手く翻訳されないので、コピーして、翻訳サイトを使うのがよい。
なお、「本草綱目」の引用は、「卷三十一」の「龍眼」からのパッチワークである。「漢籍リポジトリ」が作動していないので、「維基文庫」でリンクしておく。
「木梡子(もくれんし)」双子葉植物綱ムクロジ目ムクロジ科ムクロジ属ムクロジ Sapindus mukorossi 。先行する「無患子」を見られたい。
『嚴用和《げんようわ》が「濟世方」に、「歸脾湯」、有り』「嚴用和」は南宋の医家。廬山出身。当時の病気に応じて治療することを唱え、古い処方箋に反対した。「濟世方」(全十巻)の成立は一二五三年。「維基百科」の彼の記載に拠った。早稲田大学図書館「古典総合データベース」のこちらで、天明元(一七八一)年に大坂で刊行された訓点附きのものを全巻が視認出来る。この「歸脾湯」の本文を見たくなって、やらんでいいのに、捜してみたところ、「卷之三」のここにあった。対処方疾患は、思慮の過制・心脾の労傷・健忘などの文字列が見えるから、正しく「能く人智を之れに益するの義」精神薬である。
『「五雜組」に云はく、『凡そ、荔枝・龍眼の核を種《う》うる者、多くは、活(は)へず[やぶちゃん注:「へ」はママ。]。卽ち、活《かつ》しても亦、須《すべか》らく、二十年、始《はじめ》て、合-抱(ひとかかへ)にして、子を結ぶ≪ばかりなり≫。故に、佳《よき》種の枝を接(つ)げば、間歳《かんさい》[やぶちゃん注:一年。]、卽ち、實を成す。』と云ふ。』「維基文庫」の同書の電子化で、やっと見つけた。「卷十一 物部三」の以下である。なかなか見つからなかったのは、最後に「龍目亦然」とあったからだった! やられたわい(コンマを読点に代えた)。
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荔枝核種者多不活、即活亦須二十年、始合抱結子。閩人皆用劣種樹、去其上梢、接以佳種之枝、間歲即成實矣。龍目亦然。
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「龍荔」「百度百科」の「龙荔」で判明した。和名なしの、
リュウガン属ディモカルプス・コンフィニス Dimocarpus confinis
であった。「維基百科」の「龙荔」によれば、『龍麗と龍眼はライチに似ている。果実は甘いが、微毒性あるため、そのまま食べることはない。本種の木材は高品質で丈夫なため、人工的に栽培されている』とあった。]
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