和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 木威子
もくいし
木威子
本綱木威子生嶺南山谷樹髙𠀋餘葉似楝葉子如橄欖
而堅亦似棗削去皮可爲粽食【酸辛】此橄欖之種類也
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もくいし
木威子
「本綱」に曰はく、『木威子は嶺南[やぶちゃん注:現在の広東省・広西省。]の山谷に生ず。樹の髙さ、𠀋餘。葉、楝(あうち)の葉に似、子《み》は橄欖のごとくにして、堅し。亦た、棗《なつめ》に≪も≫似、皮を削り去《さり》て、粽《ちまき》と爲《なし》、食ふべし【酸辛。】。』。『此《これ》、橄欖の類なり。』≪と≫。
[やぶちゃん注:この「木威子」は、
双子葉植物綱ムクロジ目カンラン科 Burseraceae カンラン属ウラン(烏欖)Canarium pimela
である。東洋文庫訳の割注では『(カンラン科クロカンラン)』と和名を示すが、学術論文、及び、複数の植物学術サイトを見るに、「ウラン」「烏欖」と出るので、正式和名は以上であろう。平凡社「世界大百科事典」の「カンラン」に、『カンラン属Canariumは約75種の樹木からなり,大部分が東南アジア~太平洋地域に分布する。ウランC.pimela Leenh.など何種類かの果実はカンラン同様食べられる』とあり、また、同種の「維基百科」も「乌榄」と中文名で載るからである。而して、そこには、『カンボジア・ラオス・ベトナム・雲南省・広西チワン族自治区・海南省・広東省など、中国本土各地に分布している。標高五百四十~千二百八十メートルの地域に植生し、一般的には混交林で生育する。未だ、人工的に栽培用に導入されたことはない』とし、『别名』の項に、『木威子(金楼子・「本草拾遺」)・黑欖(広東)』とある(邦文ウィキは存在しない)。「百度百科」のそれには、『「開寶本草」「齋民要書」「本草圖說」等の典籍の記録によると、烏欖の歴史は既に二千年以上である。主な高品質品種には、「油欖」・「西山欖」・「三芳欖」・「車心欖」・「秧地頭欖」・「早欖」等がある』とあり、最も全般に詳しいのは、「拼音百科」の「榄角」で、流石は中国で、食品としての実の記載として前半は圧巻である。『原材料情報』には、『烏欖の栽培は主に北回帰線より南の地域で行われている。主な生産地は、広東省の普寧・揚西・朝安、朝陽・恵来・博羅・増城・東莞・番禺・広西チワン族自治区の広州・梧州一帯・福建省南部の各県である。海南省や雲南省にも分布する。ベトナム・ラオス・カンボジアでも栽培されている』とあり、『生育習性』の項には、『烏欖の分布地域の年間平均気温は約摂氏二十二度、最低気温はマイナス二度、年間降水量は千二百~二千七百ミリ。好日樹種で、主に海抜千二百八十メートル以下の混交林に植生する。温暖を好み、極寒を嫌う。厳しい霜を受けると、大木の葉は総て枯れてしまい、苗木は生き残れないが、短期間の霜には耐えることが可能である。土壌に対する必要性はあまり厳しくなく、酸性土壌を好み、砂岩が風化した酸性砂質壌土でよく生育する。低地の水浸しの場所に植えるのには適さない。成長が早く、土が深く、水はけがよく、日光が十分に当たる場所でよく育つ』とあった。因みに、英文の同種のウィキも貧弱で、公的なデータでは『亜種は記録されていない。 果実は塩水で茹でると、食用になり、塩漬けのプラムの風味に似ており、中華料理の調味料として使用される』とあるばかりである。
なお、「本草綱目」の記載は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「木威子」([077-9a]以下)のパッチワークである。短いので、全文を示しておく(一部に手を入れた)。
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木威子【拾遺】
釋名【未詳】
集解【藏器曰木威生嶺南山谷樹高丈餘葉似楝葉子如橄欖而堅亦似棗削去皮可以爲粽食時珍曰木威子橄欖之類也陳氏說出顧微廣州記中而梁元帝金樓子云橄欖樹之南向者為橄欖東向者爲木威此亦傳聞謬說也】
實氣味酸辛無毒【時珍曰按廣州記云苦澀】主治心中惡水水氣【藏器】
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「楝(あうち)」日中ともに、双子葉植物綱ムクロジ目センダン科センダン属センダン Melia azedarach var. subtripinnata であるが、中国では、漢方薬の基原植物として、同属の、トウセンダン Melia toosendan も挙げられてあるのでそちらも挙げておく必要がある。詳しくは、先行する「楝」の私の注を見られたい。
「橄欖」双子葉植物綱ムクロジ目カンラン科 Burseraceaeカンラン属ウオノホネヌキ(正式和名) Canarium album 。前の項「橄欖」を見られたい。
「棗」双子葉植物綱バラ目クロウメモドキ(黒梅擬)科ナツメ属ナツメ Ziziphus jujuba var. inermis 。先行する「棗」を見られたい。]
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