和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 菴摩勒
あんまろく 菴摩落迦果
餘甘子
菴摩勒
アン モウ レツ
本綱菴摩勒木髙一二𠀋枝條甚軟葉細𮔉朝開暮歛如
[やぶちゃん字注:「歛」は「斂」の異体字。「𮔉」は「宻」(=「密」)の後刻であるので、訓読文では訂した。]
夜合而葉微小春生冬凋三月有花着條而生如粟粒微
黃隨卽結實作莛圓大如彈丸毎條三兩子至冬而熟如
[やぶちゃん字注:「莛」は、原本では、「𮏙」の(しんにょう)を「辶」にし、中の「壬」を「手」とした字体で、国立国会図書館デジタルコレクションの当該部でも、そうなっているのだが、こんな字は見当たらない。困って、「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「菴摩勒」([077-9b]以下)を見たところが、「集解」の四行目十字目にある「莛」であることが判った。この「莛」は「莖」の意味があり、東洋文庫訳も、ここを、『実は茎(くき)の先に弾丸のような円大なのがついてなる』と訳しているので、間違いない。しかも、この字を探すために、良安の引用箇所を確認したところ、このパッチワークは、いつにも増して、テッテ的にバラバラにしたものを、接ぎ剥ぎにしたものであることが判明した。酷いバラバラ殺人事件並みにヒドい。ヒド過ぎる。呆れ果てた。本邦にない種であるのをいいことに、時珍が引いた複数の内容を、キメラのように捏造したトンデモない「引用ならざる引用」なのである!]
李子狀青白色連核作五六瓣初入口苦澀良久飮水更
甘乾卽並核皆裂俗作果子噉之黃金得餘甘子則體柔
亦物類相感相伏也故解金石之毒其木可製噐物
*
あんまろく 菴摩落迦果《あまらくかくわ》
餘甘子
菴摩勒
アン モウ レツ
「本綱」に曰はく、菴摩勒は、木の髙さ、一、二𠀋。枝條《シデウ/えだ》、甚だ、軟《やはらかく》、葉、細密にして、朝《あした》に開き、暮に歛《し》まる。「夜合(ねむのき)」のごとくにして、葉、微《やや》小《しやう》なり。春、生じ、冬、凋(しぼ)む。三月、花、有り、條《えだ》に着《つき》て、生ず。粟粒《あはつぶ》のごとく、微《やや》黃なり。隨《したがひ》て、卽ち、實を結ぶ。莛(ぢく[やぶちゃん注:「軸」状のやや太い茎(小枝)を指す。])を作《つくり》、圓大にして、彈-丸《たま》のごとし。條《えだ》毎《ごと》に、三、兩子《りやうし》≪生《な》る≫[やぶちゃん注:二つ、或いは、三つ実がつく。]。冬に至《いたり》て、熟す。李《すもも》≪の≫子《み》の狀《かたち》のごとく、青白色。核《さね》を連《つらね》て、五、六瓣《べん》、作る。初《はじめ》、口に入《いる》る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、苦く、澀し。良《やや》久《ひさしく》して、水を飮めば、更に甘し。乾く時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、卽ち、核、並《ならびに》皆、裂く。俗、果子《かし》と作《な》して、之れを噉《くら》ふ。黃金《わうごん》[やぶちゃん注:貴金属の金(ゴールド)。]、餘甘子を得て、則《すなはち》、體《たい》、柔かなり《✕→かになれり》。亦、物類の相感して、相《あひ》、伏すなり。故、金石の毒を解す。其の木、噐物《うつはもの》を製すべし。
[やぶちゃん注:これは、本邦には分布しない、
双子葉植物綱キントラノオ(金虎尾)目コミカンソウ(小蜜柑)科Pyllanthaceaeコミカンソウ属ユカン(油甘) Phyllanthus emblica
である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『マラッカノキ、アンマロク(庵摩勒:サンスクリット名 amalaka から)、アムラともいう。インドから東南アジアにかけての原産で熱帯・亜熱帯に栽培され、果実が食用となる』。『英語では myrobalan(ミロバラン)と呼ぶが、これは本種のほか』、『シクンシ科モモタマナ属( Terminalia )のカリロク(参照:ミロバランノキ T. chebula )やバラ科スモモ属のミロバランスモモ(別名:cherry plum ;学名: Prunus cerasifera )のように』、『分類学的にまるで異なる複数の種を指し得る』ので注意が必要である。『落葉性の小高木あるいは中高木である』。『葉は長楕円形で長さ』二・五『センチメートル』、二『縦列が密に互生するが早落性の枝に着生し、一見すると羽状複葉に見える』。『花は小枝の腋部から帯黄色の雌雄小花が混生する』。『果実は球状で臘質、径』一・五~三『センチメートル、縦方向に浅く』六『条が走り、黄緑色から帯赤色、大理石のような果肉を有する。核は』六『稜で、種子は』六『個である』。『果実はインドで古くから食用・薬用に利用されている。繊維質で酸味とタンニンによる渋味があり、そのまま』、『あるいは料理の材料として食用にされるが、南インドでは特に漬物とすることが多い。ビタミンCを豊富に含む。アーユルヴェーダにて使用されるハーブの一つ』である。なお、先行する「和漢三才圖會卷第八十七 山果類 毗梨勒」の注で出した通りで、そちらの注の「アーユルヴェーダ三果」の出る私の注を参照されたい。『また、ユカンの根やタイワンニンジンボク( Vitex negundo )の根の抽出物はラッセルクサリヘビ』( Daboia russelii )『やタイコブラ( Naja kaouthia )の毒を著しく中和するという研究も存在する』。『日本では果実の抽出物を配合したヘアケア製品やフェイスジェル、石鹸などが販売されている』とあった。
「夜合(ねむのき)」私の偏愛する双子葉植物綱マメ目マメ科ネムノキ亜科ネムノキ属ネムノキ Albizia julibrissin 。ウィキの「ユカン」の葉の画像(ここと、ここ)を見られたい。確かに似てるわ!
「黃金《わうごん》、餘甘子を得て、則《すなはち》、體《たい》、柔かなり《✕→かになれり》。亦、物類の相感して、相《あひ》、伏すなり。故、金石の毒を解す」単なる五行思想に配した結果としてのものに過ぎまいとタカを括っていたが(金をユカンが柔らかにするという事実はネットでは見当たらなかった)、以上のウィキに猛毒の毒蛇への解毒作用があるという説を読んで、ビックらコイた!]
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