和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 橄欖
かんらん 青果 忠果
諫果
橄欖
カン ラン
本綱橄欖樹髙𠀋餘大數圍葉似欅柳枝皆髙聳二月開
花八月成實長寸許狀如長棗兩頭尖青色先生者向下
後生者漸高其子味苦澀久之方囬甘味比之忠言逆耳
[やぶちゃん注:「囬」は「回」の異体字。]
亂乃思之故名諫果其核亦兩頭尖而有稜核內有三竅
竅中有仁此亦可食其木髙不可梯緣者伹以木釘釘之
或納鹽少許於皮內一夕子皆自落木亦無損物理之妙
也其枝節閒有脂膏如桃膠人取之和皮葉煎汁熬如黒
餳謂之欖糖用泥船𨻶牢如膠𣾰着水益乾也食河豚魚
肝及子必迷悶至死惟此果及木煮汁解之
相傳橄欖木作取魚棹篦魚觸着卽浮出乃知能治一切
魚鼈之毒也
*
かんらん 青果 忠果
諫果《かんくわ》
橄欖
カン ラン
「本綱」に曰はく、『橄欖は、樹の髙さ、𠀋餘。大いさ、數圍《すまはり》。葉、「欅柳《キヨリウ》」の枝に似《にて》、皆、髙く聳(そび)え、二月、花を開き、八月、實を成《なす》。長さ、寸ばかり。狀《かた》ち、長き棗《なつめ》のごとく、兩頭、尖(とが)りて、青色。先に生ずる者、下に向ひ、後に生ずる者、漸く、高し。其の子《み》、味、苦く、澀(しぶ)し。久《ひさしく》して、方(まさ)に、甘味に囬《かは》る。之れを、「忠言、耳に逆ひ、亂《みだし》て、乃《のち》、之れを思《おも》ふ」に比す。故に、「諫果」と名づく。其の核《さね》に亦、兩頭、尖りて、稜(かど)、有り。核の內に、三つの竅(あな)、有り、竅の中に、仁《にん》、有り、仁、此れ亦、食ふべし。其の木、髙《たかく》して、梯(はしご)にて緣(のぼ)るべからざる者は、伹《ただ》、木釘《きくぎ》を以《もつて》、之≪れに≫釘《くぎ》し、或いは、鹽、少《すこし》ばかりを、皮≪の≫內に納(い)るれば、一夕《いつせき》に≪にして≫、子、皆、自《おのづか》ら落つ。木も亦、損すること、無し。物理の妙なり。其の枝節の閒、脂膏、有り、「桃膠《たうこう》」[やぶちゃん注:東洋文庫訳の後注に『桃が盛んに茂るとき、樹皮を刀で割くとしばらくして樹脂があふれ出てくる。これを桃膠という。』とあった。]のごとし。人、之を取りて、皮・葉を和《わ》して、汁に煎《せんじ》、熬《いり》て、「黒餳《コクセイ》」[やぶちゃん注:黒い飴。]のごとし。之れを、「欖糖《ランタウ》」と謂ふ。用《もちひ》て、船≪の≫𨻶《すきま》に泥《でい》して[やぶちゃん注:塗り込んで。]牢《かた》きこと、「膠《にかは》・𣾰《うるし》」のごとく、水に着《つ》≪くれば≫、益《ますます》[やぶちゃん注:原本の右下に踊り字「〱」がある。]、乾《かはく》なり。「河豚魚(ふくとう)」≪の≫肝、及《および》、子《はららご》を食《くひ》て、必《かならず》、迷悶《めいもん》[やぶちゃん注:狂い悶(もだ)えること。]して、死に至《いたる》≪時≫、惟だ、此の果、及《および》、木、汁に煮て、≪服せば、≫之れを解す。』≪と≫。
『相傳《あひつた》ふ、「橄欖木、魚を取る棹(さほ)・篦(へら)に作る。魚、≪それに≫觸着《ふれつ》けば、卽ち、浮出《うきい》づ。乃ち[やぶちゃん注:原本の送り仮名は「イ」であるが、「チ」の誤刻と断じた。]、知《し》んぬ、能く、一切≪の≫魚鼈《ぎよべつ》の毒を治することを。」≪と≫。』≪と≫。
[やぶちゃん注:これは、オリーブと早まってはいけない。全くの別種である、
◎双子葉植物綱ムクロジ目カンラン科 Burseraceaeカンラン属ウオノホネヌキ(正式和名だが、「カンラン」でないと通用せんな) Canarium album
である。「橄欖」で、殆んどの方が早とちりする、
✕双子葉植物綱モクセイ科オリーブ属オリーブ Olea europaea
ではない。オリーブは、地中海沿岸諸国、特に中東と、南ヨーロッパ、及び、アフリカの同沿岸域の一部に限られており、オリーブは、中国には自生しないから、明代の李時珍が、こんな生木の詳細記載をとうkとくすることは、絶対に、あり得ないのである(無論、シルク・ロードを経由して、実(み)や苗は齎されてはいたであろうが)。
「日本大百科全書」の「カンラン(橄欖)」「Canarium album Raeusch.」から引く(読みは一部を除きカットした)。『カンラン科(APG分類:カンラン科)の常緑高木。中国原産』(☜)『で、ムクロジに似る。魚の骨が刺さったのを治すとの説から、和名ウオノホネヌキという。葉は互生し複葉で、小葉は長楕円状披針形、全縁で硬い。花は白色の小花で、葉腋の短い枝に総状につき、開く。萼は浅く』三『裂し、花弁は直立する。果実はモクセイ科のオリーブに似ており、卵状楕円形で長さ』二・五『センチメートル、秋に熟して下垂する。核果は熟しても緑色なので緑欖(りょくらん)ともいわれる。中国でオリーブに橄欖の字をあてるので、混同されることがある。日本へは江戸時代に渡来し、種子島』『などで植栽される。果実は生食、塩漬け、蜜漬けにするほか、果実酒にして滋養剤とする。種子は欖仁(らんにん)といい、中国料理に用いる』とあるが、他の辞書などの記載では、原産地を――インドシナから中国南部――或いは――東南アジア原産――とし、英文ウィキの同種では「インドシナ原産」とする。「拼音百科」では「フィリピン・インドネシア・中国原産」とする。一方、「維基百科」の同種の「青橄榄」や、「百度百科」の「橄榄」では、中国原産としている。
なお、「本草綱目」の記載は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「橄欖」([077-6b]以下)のパッチワークである。
「欅柳《キヨリウ》」マンサク亜綱クルミ目クルミ科サワグルミ属シナサワグルミ(支那沢胡桃) Pterocarya stenoptera 。当該ウィキには、『別名はカンポウフウ、カンベイジュ』。『中国原産の落葉高木。雌雄同株で花期は』五『月頃、雄花は黄緑色、雌花は黄緑色で柱頭は紅色である』。『公園樹、街路樹として植栽される』とのみあるばかりだが、「拼音百科」の同種のページには、『落葉樹、高さ十八~三十センチメートル。樹皮は濃い灰色で、縦方向に深い亀裂が入っている。若い木には長い毛と皮目があり、葉の傷跡がはっきりしている。冬芽は細く、葉柄があり、裸で、錆色の茶色の毛で覆われている。髄は薄片状。葉は互生し、殆んどが偶数の羽根状、稀に奇数もあり、長さ八~十六センチメートル、葉軸の両側に狭い翼があり、小葉は十~二十八枚、長楕円形から長楕円披針形、長さ八~十二センチメートル、幅二~三センチメートル、先は鈍形または微披針形、基部は斜、縁は細かい鋸歯があり、表面に小さな疣状の突起があり、中脈と側脈の腋に非常に短い星状の毛が密生する。花穂は葉と同時に開き、花は単性、雌雄同株、雄の花序は前年の枝の腋に単生し、長さ六~十センチメートルで、垂れ下がる雄花には一つの苞と二つの小苞があり、一~二枚の発達した花被片、 六~十八本の雄蘂がある。雌の花序は新枝の頂部に単生し、長さ十~二十センチメートル、花序の軸は星状毛と単純毛で密に覆われ、雌花は苞葉の腋に単生し、両側に小苞が一つずつある、花被片は四つ、子房に付生、子房は下位、二つの心皮からなる、花柱は短く、柱頭は二裂。果序は長さ二十~四十五センチメートル、小堅果は長楕円形、長さ六~七ミリメートル、しばしば縦溝がある、両側の果実翼は小苞の発達により拡大し、線状または広線状である。開花期は四月から五月で、結実期は八月~九月』とし、『主に中国東部、中南部、南西部、陝西省、台湾などに分布しており、中国東北部や中国北部でも少量栽培されている』。『標高千五百メートル以下の平地の小川や川岸、日陰のある山間の雑木林に生育する。日光が充分に当たる環境を好み、現在では中庭や道路沿いに広く植えられている』。『本種の根は、リウマチ・歯痛・疥癬・傷・腫れなど、さまざまな病気の治療に使用できる。また、長い間、治らなかった潰瘍・熱湯や火による火傷・咳などの症状も緩和する』とあった。
「河豚魚(ふくとう)」時珍は、本貫の黄州府蘄州(きしゅう:現在の湖北省黄岡市蘄春県蘄州鎮)から出ることは殆んどなく、実際に海辺域に赴いて実地観察をしたことはないと思われる。しかし、中国には、揚子江や黄河の淡水域にも遡上する猛毒を有する海産のメフグ Takifugu obscurus (河口等と淡水域に適応しているフグは、他にも、タイ・スリランカ・インドネシアなどに分布するミドリフグ Tetraodon nigroviridis や、東南アジア産のハチノジフグ Tetraodon biocellatus 等、結構、いる)等がおり、また、純海産のフグ類の強毒性は情報として知っていた。]
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