阿部正信編揖「駿國雜志」(内/怪奇談)正規表現版・オリジナル注附 「卷之二十四上」「幽靈火」
[やぶちゃん注:底本はここ。]
「幽靈火《ゆうれいび》」 庵原郡江尻驛の傍《かたはら》、巴河《ともゑがは》にあり。傳云《つたへいふ》。「巴河の兒橋《ちごばし》より半里計り上《かみ》に一奇火《いちきくわ》あり。春より、夏、多く、秋、冬は稀也。霖《ながあめ》の夜、水上《みなかみ》に出《いづ》。其色、極《きはめ》て靑く、淫々《いんいん》として、光輝、なし。爰に燃《もゆ》るか、とすれば、忽《たちまち》、消《きえ》て、彼《かの》所に顯《あらは》る。其形、松明《たいまつ》の火に彷彿たり。云云」。里人云《いふ》。「此河、三年に一度、必《かならず》、溺死の者、あり。其怨魂、消滅せずして、此怪をなす。故に『幽靈火』と云《いへ》り。云々」。
[やぶちゃん注:「巴河の兒橋」前の「奇兒現橋上」で既注。
「兒橋より半里計り上」巴川の流れが、大きな変化がないと仮定すると(少なくとも「ひなたGIS」の戦前の地図では変わっていない)、北脇新田の直ぐ川上の、巴川が、百二十度、南西に蛇行する辺りに当たる。
「淫々として」大修館書店「新漢和辞典」によれば、『①「涙や水の盛んに流れるさま」、』・『②「増してゆくさま」』・『③「遠く去る」』・『④「往来するさま。浮き沈みするさま」』とある。ここは、②、或いは、④が適合するが、以下の続く叙述に運動性の表現から、④が最もふさわしい。]
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