和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 波羅𮔉
はらみつ 安南人呼曰
曩伽結
波羅𮔉
波斯國人曰
婆那娑
拂林國人曰
阿薩軃
ポウ ロウ ミツ
本綱波羅蜜【梵語也此果甘故名】生交趾南畨諸國樹髙五六𠀋樹
類冬青而黑潤葉極光淨冬夏不凋樹至斗大方結實不
花而實出於枝閒多者十數枚少者五六枚大如冬瓜外
有厚皮𮖐之若栗毬上有軟刺礧砢五六月熟時顆重五
[やぶちゃん注:「𮖐」は「裹」の異体字。]
六斤剥去外皮殻內肉層疊如橘嚢食之味甜美如𮔉香
氣滿室一實凡數百核核大如棗其中仁如栗黃煮炒食
之甚佳果中之大者惟此與椰子而已
*
はらみつ 『安南の人、呼んで、
「曩伽結《なうかけつ》」と曰《い》ふ。』。
波羅𮔉
『波斯國《はしこく》の人、
「婆那娑《ばなさ》」と曰ふ。』。
『拂林國《ふつりんこく》の人、
「阿薩軃《あさつた》」と曰ふ。』。
ポウ ロウ ミツ
「本綱」に曰はく、『波羅蜜【梵語なり。此の果、甘き故、名づく】。交趾(カウチ)・南畨《なんばん》の諸國に生ず。樹、髙さ、五、六𠀋。樹は、「冬青(まさき)」の類《るゐ》にして、黑《くろく》潤《うるほふ》。葉、極《きはめ》て、光淨《くわうじやう》なり。冬・夏、凋まず。樹、斗《とます》の大《おほい》さに至《いたり》て、方《まさ》に、實を結ぶ。花、さかず、而≪れども≫、實(み)、枝の閒《あひだ》に出づ。多き者、十數枚。少《すくな》き者、五、六枚。大いさ、「冬瓜(かもうり)」のごとく、外(そと)に、厚≪き≫皮、有りて、之れを𮖐(つゝ)む。栗の毬(が)のごとし。上に、軟≪かなる≫刺《とげ》、礧砢(いらぼ)[やぶちゃん注:「ざらざら」及び「いぼいぼ」した小突起を指す。]、有り。五、六月、熟する時、顆《くわ》の重さ、五、六斤[やぶちゃん注:明代の一斤は五百九十八・六二グラムであるから、二・九九三~三・五九二キログラム。]。外皮を剥(は)ぎ去り、殻≪の≫內の肉、層-疊(かさな)りて、「橘《キツ》」の嚢(ふくろ)のごとし。之れを食ふ。味、甜美《てんび》にして、𮔉《みつ》のごとく、香氣、室に滿つ。一實、凡《すべ》て數百核、核の大いさ、棗《なつめ》のごとく、其の中の仁《にん》、栗のごとく、黃なり。煮炒《にい》りて、之れを食ふ。甚だ、佳、なり。果の中の大なる者、惟《ただ》、此《これ》と、椰子《やし》と、のみ。
[やぶちゃん注:これは、
双子葉植物綱バラ目クワ科パンノキ属パラミツ Artocarpus heterophyllus
である。当該ウィキを引く(画像が豊富にある。注記号はカットした)。『パラミツ(ハラミツ、波羅蜜、菠蘿蜜)『は』『英語で、ジャックフルーツ(英:Jackfruit)と呼ばれ、東南アジア、南アジア、アフリカ、ブラジルで果樹などとして栽培されている。東アジアでは台湾南部や中国海南省、広東省、雲南省などで栽培されている。原産はインドからバングラデシュと考えられている』。『バングラデシュ(ベンガル語)ではカタール(kathal)、インド(ヒンディー語)ではカタル(katal)、インドネシア語やマレー語ではナンカ(nangka)、フィリピン(タガログ語)ではランカ (langka)、タイではカヌーン』、『ベトナム語ではミッ(mít)と呼ばれる』。『和名は漢語由来の波羅蜜であるが、ほかにマレー語のナンカを語源とする』「南果」(なんか)『とも呼ばれ、同属異種のパンノキ』『との対比で、パラミツの木を』「長実パンの木」『(ながみぱんのき)とも呼ぶ』。『英語でjackfruit(ジャックフルーツ)と呼ばれるのは、マラヤラム語』(malayāḷam:南インドのケララ州などで話される言語で、「インド憲法」で認められている二十二の公用語の一つ)『の「chakka」が、ポルトガル語に借用されて「jaca」となり、それが英語に借用され、類型を示すfruitと結びついた結果と考えられる』。『常緑の高木で、葉は成木では長楕円形だが、幼木では大きな切れ込みがあり、学名(種小名)のheteropyllum』(「異形の葉」の意)『は、こうした成木と幼木で著しく葉の形が異なることを指している。 雌雄同株で、雄花のみをつける雄花序は枝の先につくが、雌花のみをつける雌花序は幹生花と呼ばれ、幹に直接つく』。『幹や太い枝に連なってぶら下がる果実は長さ』七十センチメートル、『幅』四十センチメートル、『重さ』四十~五十キログラム『に達することもあり、世界最大の果実といわれる。その形は、歪んだ球形や楕円形が多いが、ときに円柱形となり、長さにも差がある。果実の表面には数』ミリメートル『の』疣(いぼ)『状の突起があり、熟すと全体に黄色になり、強烈な甘い匂いを放つ。果実はクワ科』Moraceae『の特徴である集合果で、花序を形成する組織の多くが』、『合着して果実となる』(実生果実(複数)の画像)。『輪切りにして』四分の一『に割った果実。種の周囲に果肉があり、他の果肉との間に仮種皮がある』(その画像)。『繊維状にほぐれる』、『淡黄色から黄色の果肉や仮種皮を食用にする。種子は』二センチメートル『ほどのやや長円形で、これも食用になる。パラミツは実生から』三『年で果実をつけることもあるほど』、『生長が早い』。『同属のコパラミツ(チャンパダ、cempedak、A. integer )で、非常にユニークな送粉体系が』二〇〇〇『年に報告された。コパラミツの雄花序には接合菌コウガイケカビ属』(菌界ケカビ(毛黴)門ケカビ亜門ケカビ目コウガイケカビ(筓毛黴)科コウガイケカビ属 Choanephora )『の一種( Choanephora sp. )が共生して菌糸体を広げて胞子をつけており、Contarinia 属の』二『種のキノコバエ』(有翅昆虫亜綱新翅下綱内翅上目ハエ目長角亜目ケバエ下目キノコバエ上科キノコバエ科 Mycetophilidae)『の仲間が飛来して菌を摂食し、産卵する。雌花序には菌は共生しないが、キノコバエは雄花序と同じ臭いに騙されてこちらにも飛来し、雄花序を訪れたときに付着した花粉を運ぶ。雄花序で孵化した幼虫は、ここに繁殖した菌を食べて成長する』。『熟した果肉や仮種皮は甘く、生で食用にされる。樹脂分を含み、みずみずしさには乏しいが、弾力や粘りのある食感がある。未熟な果実は野菜として、タイ料理、ベトナム料理やインドネシア料理などで煮物、炒め物などに使われる。種子は焼くか茹でることで食用にされる』。『熟す前の果肉は、デザートではなく総菜として食用となる』。『果肉』を『ほぐしながら熱を通すと、熱を通したマグロ(ツナ)肉・牛肉のようになるため、代替肉として利用される』。『産地から遠く離れた欧米』及び『日本では、輸入果実を扱う専門店にて空輸された生の果実が購入できる他に、シロップ煮缶詰、チップス、乾燥果実が一般的である』。また、『葉と根は薬用になる』。『パラミツの木材は建材、家具、仏像、印鑑の他、ガムラン』(インドネシア語:gamelan:インドネシアで行われている大・中・小のさまざまな銅鑼や鍵盤打楽器による合奏の民族音楽の総称。広義では、インドネシア周辺のマレーシア・フィリピン南部スールー諸島などの地域の類似の音楽をも含める場合がある。欧米や日本などでは「ガムラン音楽」(Gamelan music) とも呼ばれる)『などの楽器に使われる。また、材は仏僧の法衣などの黄色の染料に使われる』とある。
なお、引用は「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「波羅蜜」([077-26a]以下)のパッチワークである。標題下の各国の呼称の解説も引用である。短いので、全文を手を加えて、以下に示す。
*
波羅蜜【綱目】
釋名【曩伽結時珍曰波羅蜜梵語也因此果味甘故借名之安南人名曩伽結波斯人名婆那娑拂林人名阿薩軃皆一物也】
集解【時珍曰波羅蜜生交趾南畨諸國今嶺南滇南亦有之樹高五六丈樹類冬青而黒潤倍之葉極光淨冬夏不凋樹至斗大方結實不花而實出於枝間多者十數枚少者五六枚大如冬瓜外有厚皮裏之若栗毬上有軟刺礧砢五六月熟時顆重五六斤剥去外皮殻内肉層疊如橘嚢食之味至甜美如蜜香氣滿室一實數百核核大如棗其中仁如栗黃煮炒食之甚佳果中之大者惟此與椰子而已】
瓤氣味甘香微酸平無毒主治止渴解煩醒酒益氣令人悅澤【時珍】
核中仁氣味同瓤主治補中益氣令人不饑輕健【時珍】
*
「安南」インドシナ半島東岸の狭長な地方。現在のヴェトナムである。その名は唐の「安南都護府」(唐の南辺統治機関)に由来する。唐末、「五代の争乱」(九〇七年〜九六〇年)に乗じて、秦以来の中国支配から脱却した。一時は明に征服されたが、一四二八年(本邦では室町時代の応永三十五年・正長元年相当)独立。十七世紀には朱印船が盛んに出入し、ツーラン・フェフォには日本町が出来た。
「波斯國」ペルシャ。但し、東洋文庫訳の後注に、『『酉陽雜俎(ゆうようざっそ)』3(平凡社東洋文庫)廣動植之三「婆那娑樹」の注で、今村與志雄氏は「ハラミツは、インド、ビルマ、そしてマライ諸島を原産とする。いまのイランをいうペルシアにも、また払林という地名の示すような西アジアにも産出しない」と述べられ、この波斯国は、マライの波斯国(ポースー)としか解釈できないとされている。』とある。同書は全巻所持するので、確認した。同書では、以上の引用の前で「酉陽雜俎」の「婆那娑樹」の本文を、時珍が「本草綱目」のこの項で踏襲したものであろうと推定をされた由の記載がある。さらに、この聴き馴れない『マライの波斯国(ポースー)』という国名については、同書同巻で先行する「龍脳香樹」で別に今村先生が、詳細な考証をなさっており、それは、実は、先行する「卷第八十二 木部 香木類 安息香」の私の注で、引用してあるので、そちらを見られたい。
「拂林國」現在のシリア。
「冬青(まさき)」既に「卷第八十四 灌木類 冬青」で示した通り、良安はルビによって同定を誤っている。
〇「冬青」は双子葉植物綱モチノキ目モチノキ科モチノキ属モチノキ亜属ナナミノキ Ilex chinensis
であり、
✕ニシキギ目ニシキギ科ニシキギ属マサキ Euonymus japonicus
ではない。
「橘《キツ》」わざわざカタカナで読みを振ったのは、日本固有種である双子葉植物綱バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン亜科ミカン連ミカン亜連ミカン属タチバナ(橘) Citrus tachibana と読者に読ませないためである。では、時珍の言う「橘」は何かというと、
◎蜜柑の一種
◎江南地方から南、或いは、中国南部に分布するところの、温帯・亜熱帯のミカンの種群
となるが、私は、秘かに、
★◎トゲがある幻のミカンの樹こそ「橘」の原種
と考えている。以上の考証は「卷第八十七 山果類 橘」の私の考証を読まれたい。]









