和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 天仙果
いぬひわ
俗云犬枇杷
天仙果
又云唐枇杷
或云計良
【見灌木類讓葉下】
本綱天仙果出四川樹髙八九尺葉似荔枝而小無花而
實子如櫻桃纍纍綴枝閒六七月熟其味至甘
△按天仙果和州山中有之冬凋春生葉似讓葉潤青末
尖六七月無花結實一柎二三顆狀似枇杷而小初青
熟赤紫色內滿白細子小兒喜食俗名犬枇杷
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いぬびわ
俗、云ふ、「犬枇杷」。
天仙果
又、云ふ、「唐枇杷《からびわ》」。
或いは、云ふ、「計良《けら》」
【灌木類「讓葉」の下《もと》に見ゆ。】
「本綱」に曰はく、『天仙果は、四川に出づ。樹の髙さ、八、九尺。葉は、「荔枝《れいし》」に似て、小《ちさ》く、花は無《なく》して、實(《み》の)る。子《さね》、櫻桃(ゆすらうめ)のごとく、纍纍《るいるい》として、枝の閒に綴《つづ》る。六、七月、熟す。其《その》味、至て、甘し。』≪と≫。
△按ずるに、天仙果、和州山中に、之《これ》、有り。冬、凋み、春、葉を生ず。讓葉《ゆづりは》に似て、潤《うるほひ》、青く、末《すゑ》、尖り、六、七月、花、無《なく》して、實を結ぶ。一柎《いちがく》[やぶちゃん注:「蕚」と同義。]、二、三顆。狀《かたち》、枇杷に似て、小く、初《はじめ》、青《あをく》、熟≪す≫る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、赤紫色。內に白き細《ほそき》子《さね》、滿つ。小兒、喜《よろこん》で食ふ。俗に「犬枇杷」と名づく。
[やぶちゃん注:これは、
双子葉植物綱バラ目クワ科イチジク連イチジク属イヌビワ Ficus erecta var. erecta
である。当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『落葉低木から小高木。山野や海沿いに生える。別名ヤマビワ、イタビ、姫枇杷』。果実(正確にはイチジク状果という偽果の
』一『種)がビワの実に似ていて食べられるが、ビワに比べ不味であることから「イヌビワ」の名がある。「イヌ」は劣るという意味である。「ビワ」とついていてもビワ(バラ科』(Rosaceae)『)の仲間ではなくイチジクの仲間で、ビワとは近縁関係にはない。イチジク渡来前の時代の日本では』(イチジクの本邦渡来は寛永年間(一六二四年~一六四四年)『本種は「イチジク」とよばれていた』(太字は私が附した)。『日本の本州(関東以西)・四国・九州・沖縄と、韓国の済州島に分布する。海岸や沿海の山地に自生する。特に関東地方から沖縄までの海岸沿いの照葉樹林の林縁に多く見られる』。『なお、イチジク属のものには熱帯性のものが多く、本種は落葉性を獲得したため、暖温帯まで進出できたものと考えられる。本種はイチジク属の木本としては本土で最も普通に見られるため、南西諸島などに分布する同属のものには「○○イヌビワ」という本種に比した名を持つものが多い』。『落葉広葉樹の低木から小高木で、高さは』五『メートル』『くらいまでになる。樹皮は灰白色でなめらか、一年枝はやや太く、緑色を帯びて無毛である。枝を』一『周するように、はっきりした托葉痕がある。樹皮に傷つけるとイチジクと同様に乳白色の樹液が出る』。『葉は狭い倒卵形から長楕円形、基部は少し心形か』、『丸まる。葉質は薄くて草質、表面は滑らかかあるいは短い毛が立っていてざらつく。変異が多く、海岸沿いでは厚い葉のものも見ることがある。ごく幅の狭い葉をつけるものをホソバイヌビワ( var. sieboldii (Miq.) King)、葉面に毛の多いものをケイヌビワ( var. beecheyana (Hook. et Arn.) King)というが、中間的なものもある。葉縁に鋸歯はない。秋には紅葉し、鮮やかな黄色や橙色に染まり、常緑樹林の中でよく目立つ。紅葉後は遅くまで落葉せずによく残っている』。『花期は晩春(』四~五『月ごろ)で、雌雄異株。葉の付け根についた花嚢(かのう)は、秋に赤色から黒紫色へと変化して果嚢(かのう)となる。イチジクを小さくしたような形の実をつける』。『果嚢は』九『月末』から十『月ごろに完熟し、見た目は小さなイチジク様で、直径』一・〇~一・三センチ『メートル』『の球形で長い柄があり、白い粉を吹いたような濃紫青色となる。果嚢は甘く、食用になる』。『冬芽はイチジクに似ていて、枝先の頂芽は円錐形で先が尖り、互生する側芽は球形や楕円形をしている。頂芽は無毛で芽鱗』二『枚に包まれている。側芽の芽鱗は』二~四『枚である。葉痕は円形や心形で、維管束痕は多数が輪状に並ぶ』。以下、「蜂との共生」の項。『イヌビワの花序には、他の多くのイチジク属植物と同様に、イチジクコバチ科』Agaonidae『のハチ(イヌビワコバチ』 Blastophaga nipponica )『が寄生する。雄花序の奥側には雌花に似た「虫えい花」(花柱が短く、不妊)があり、これにハチが産卵する。幼虫は虫えい花の子房が成熟して果実状になるとそれを食べ、成虫になる。初夏になると雌成虫は外に出るが、雄成虫は花序の中で雌成虫と交尾するだけで一生を終える。雌成虫は雄花序の出口付近にある雄花から花粉を受け、この頃(初夏)に開花する雌花序に入った際には授粉をするが、ここでは子孫を残せず、雄花序に入ったものだけが産卵し、翌年春にこれが幼虫になる。このように、イヌビワの授粉には寄生蜂が必要であり、イヌビワと寄生蜂は共生しているということができる』。『他に、イシガケチョウ』(石崖蝶・石垣蝶:鱗翅目アゲハチョウ上科タテハチョウ科イチモンジチョウ亜科イシガケチョウ属イシガケチョウ Cyrestis thyodamas )『の食草としても知られる』とある。因みに、この種の小名の erecta 、これ、果嚢(同ウィキの画像)を勃起した男性生殖器になぞられたものであろうな……。
なお、引用は先と同じ、「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「無花果」([077-27a]以下)の「附錄」中の「天仙果」からの抄録である。短いので、全文を手を加えて、以下に示す。
*
天仙果【出泗州樹高八九尺葉似荔枝而小無花而實子如櫻桃纍纍綴枝間六七月熟其味至甘宋祁方物賛云有子孫枝不花而實薄言采之味埒蜂蜜】
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「荔枝」双子葉植物綱ムクロジ目ムクロジ科レイシ属レイシ Litchi chinensis 。先行する「荔枝」を見よ。
「櫻桃(ゆすらうめ)」何度も言っているので、繰り返さないが、この良安命の「ゆすら」「ゆすらうめ」はアウトである! 「卷第八十七 山果類 櫻桃」を見られたい。]
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