和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 馬檳榔
[やぶちゃん注:この図、かなり汚損を清拭したのだが、本文と私の注によって、この図は全く信用出来ない。テキトーに描いたものであることが、バレバレである。]
むまひんらう 馬金囊
紫檳榔
馬金南
馬檳榔
本綱馬檳榔生南夷地蔓生結實大如葡萄紫色味甘內
有核頗似大楓子而殼稍薄團長斜扁不等核內有仁亦
甜凡嚼之者以冷水一口送下其甜如𮔉
核仁【苦甘寒】 治產難臨時細嚼仁數枚【井𬜻水送下】須臾立產
再四枚【去殻】兩手各握二枚惡水自下也
欲斷產者常嚼二枚【以水下之】久則子宮冷自不孕矣
又治惡瘡腫毒內食一枚【以水下之】外嚼塗之卽無所傷
△按馬檳榔名義未詳亦不言葉形狀恨未得其種也
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むまびんらう 馬金囊《ばきんなう》
紫檳榔《しひんらう》
馬金南《ばきんなん》
馬檳榔
「本綱」に曰はく、『馬檳榔は南夷の地に生ず。蔓生して、實を結《むすぶ》。大いさ、葡萄のごとく、紫色。味、甘く、內《うち》に、核《さね》、有り。頗る、「大楓子《だいふうし》」に似て、殼、稍《やや》、薄く、團《まろ》く長く、斜めに扁《ひらた》く、等(ひと)しからず。核の內に、仁《にん》、有り、亦、甜し。凡そ、之れを嚼《か》≪む時は≫、冷水一口を以つて、送下《おくりくだ》せば、其《その》甜《あまき》こと、𮔉《みつ》のごとし。』≪と≫。
『核仁《さねのにん》【苦、甘。寒。】』『產難を治す。時に臨《のぞみ》て、細《こまか》に、仁、數枚を嚼(か)み【井𬜻水《せいくわすい》[やぶちゃん注:寅の刻(午前二時から四時)に汲んだ水を指す。仏教由来。]にて送下《おくりくだす》。】、須臾(しばらく)して、立処《たちどころ》に[やぶちゃん注:「処」は送り仮名にある。]產す。再たび、四枚を以つて【殻は去る。】、兩手に各《おのおの》[やぶちゃん注:送り仮名に『〻』がある。]二枚を握(にぎ)れば、惡水、自《おのづか》ら下るなり。』≪と≫。
『產を斷《たた》んと欲する者≪は≫、常に二枚を嚼み【水を以つて、之れを下す。】、久《ひさしき》時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、子宮、冷《ひえ》て、自《おのづか》ら、孕(はら)まず。』≪と≫。
『又、惡瘡・腫毒を治す。內《うち》へ一枚を食《たべ》【水を以つて、之れを下す。】、外≪用≫には、嚼んで、之れを塗れば、卽《すなはち》、傷せる無し。』≪と≫。
△按ずるに、馬檳榔は、名義、未だ詳かならず。亦、葉の形狀を言はず。恨《うらむ》らくは、未だ其《その》種《たね》を得ざることを。
[やぶちゃん注:これは、
双子葉植物綱アブラナ目フウチョウボク(風蝶木)科フウチョウボク属マビンロウ Capparis masaikai
である。「維基百科」の「馬檳榔」(臺灣正體)で確認した。それによれば、『中国の固有種』で、『中国本土では雲南省・貴州省・広西チワン族自治区などに分布する。標高千六百メートルの地域に植生する。丘陵の道路脇、谷間・丘陵の斜面の密林、石灰岩の山などに生育することが多い。未だ人工的に栽培用には導入されていない』とあった。本邦の同種のウィキを引いておく(注記号はカットした)。『マビンロウ(Mabinlang)は、雲南省の亜熱帯地域に生える』『植物で、テニスボール大の果実を付ける。成熟種子は、中国医学で用いられる』。『また種子を噛むと甘味を出すため、甘味料としても用いられる。甘味の原因は、マビンリン』(Mabinlin:当該ウィキによれば、『雲南省に生育するマビンロウ( Capparis masaikai )から単離される甘味を持つタンパク質であ』り、四『つのホモログ』(相同遺伝子)『があるが、マビンリン-2が』一九八三『年に初めて単離され』、一九九三『年に性質が調べられ』、四『つの中で最も研究が進んでいる。その他のマビンリン-1、-3、-4は』一九九四『年に発見された』とある)『と呼ばれる甘味タンパク質であることが分かっている。これらは、重量比でスクロースの』百~四百『倍と非常に甘い』とあった。学名のグーグル画像検索をリンクさせておく。詳しい学術的記載がネットでは少ないが、サイト「GKZ 植物事典」の同種のページがよい。
なお、以上の本文は、「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十一」の「果之三」「夷果類」の「都念子」([077-32a] 以下)からの抄録である。短いので、全文を手を加えて、以下に示す。
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馬檳榔【會編】
釋名馬金囊【雲南志】馬金南【記事珠】紫檳榔【綱目】
集解【時珍曰馬檳榔生滇南金齒沅江諸諸夷地蔓生結實大如葡萄紫色味甘內有核頗似大楓子而殻稍薄團長斜扁不等核內有仁亦甜】
實氣味甘寒無毒
核仁氣味苦甘寒無毒【機曰凡嚼之者以冷水一口送下其甜如蜜亦不傷人也】
主治產難臨時細嚼數枚井華水送下須庾立產再以四枚去殻兩手各握二枚惡水自下也欲斷產者常嚼二枚水下久則子宮冷自不孕矣汪機傷寒熱病食數枚冷水下又治惡瘡腫毒內食一枚冷水下外嚼塗之卽無所傷【時珍】
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「南夷」旧中国に於いては、東南アジアを指す蔑称であるから、おかしい。而して、これから、時珍は本種の実際の成木を見たことがないことが判る(何度も述べているが、李時珍は殆んど郷里黄州府蘄州(現在の湖北省黄岡市蘄春県蘄州鎮)から出ていない(南京でさえ、本「本草綱目」の出版のために出向いた程度なのである)。されば、良安の恨み節『馬檳榔は、名義、未だ詳かならず。亦、葉の形狀を言はず。恨らくは、未だ其種を得ざることを』も納得出来るのである。漢方薬としてしか、知らなかったのである。
「大楓子《だいふうし》」大風子油(だいふうしゆ)のこと。当該ウィキによれば、キントラノオ目『アカリア科(旧イイギリ科)ダイフウシノキ属』 Hydnocarpus 『の植物の種子から作った油脂』で、『古くからハンセン病の治療に使われたが、グルコスルホンナトリウムなどスルフォン剤系のハンセン病に対する有効性が発見されてから、使われなくなった』とあり、『日本においては江戸時代以降』、「本草綱目」『などに書かれていたので、使用されていた。エルヴィン・フォン・ベルツ、土肥慶蔵、遠山郁三、中條資俊などは』、『ある程度の』ハンセン病への『効果を認めていた』とある。先行する「卷第八十二 木部 香木類 楓」の私の注を見られたい。]
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