和漢三才圖會卷第八十九 味果類 目録・秦椒
[やぶちゃん注:以下の「目録」(表記はママ)は、上方の項目の読みは、そのままに示した(歴史的仮名遣の誤りはママ。清音の箇所は濁音化していない)。下方の附属項のルビのカタカナ表記はそのままで丸括弧で示した。]
卷之八十九
味果類
秦椒(さんしやう) 椒樹皮(サンシヤウノカハ)
蜀椒(しよくのはしかみ)
朝倉椒(あさくらさんしやう)
冬山椒(ふゆさんしやう)
柚山椒(ゆさんしやう)
蔓椒(いぬさんしやう)
崖椒(のさんしやう)
胡椒(しやう)
畢澄茄(ひてうさや) 山胡椒
畨椒(たうがらし)
吳茱萸(ごしゆゆ)
食茱萸(おほたら)
鹽麩子(ふし)
醋林子(さくりんし)
茗(ちや)
蠟茶(ろふちや)
孜兒茶(がいじちや)
茶湯(ちやのゆ)
皐蘆(なんばんちや)
和漢三才圖會卷第八十九
攝陽 城醫法橋寺島良安尚順編
味果類
[やぶちゃん注:右下に裂けた実の五個体が描かれ、「椒紅」とキャプションが添えてある。]
さんしやう 花椒 大椒
檓【音毀大椒】
秦椒
椒𣐹𣒏【並同】
玆消切音焦
唐音 今俗作枡非也
シン ツヤ゚ウ 名山椒
本綱秦椒始産于秦故名今𠙚𠙚可種最昜蕃行其葉對
生尖而有刺四月生細花五月結實生青熟紅大於蜀椒
其目亦不及蜀椒目光黑也伹秦地亦有蜀椒蘇㳟曰秦
[やぶちゃん字注:「㳟」は「恭」の異体字だが、見慣れないので、訓読では「恭」に代える。]
椒樹葉及莖子都似蜀椒伹味短實細爾然宗奭及時珍
曰其實大於蜀椒
椒紅【辛温有毒】 除風邪温中堅齒髮明目久服好顏色耐老
古今醫統云花椒以帯目未開口者用碎土拌和入浄
缾中宻封口倒置地上於南檐有日色𠙚晒着至春分
[やぶちゃん字注:「檐」は原本では(つくり)が「簷」であるが、表示出来ないので、「檐」とした。また、「春分」は原書(中文サイト「中醫笈成」の「古今醫統大全」
の「花木類第二」に当たったところ、『花椒 以帶目未開口者,用碎土拌和,入淨瓶中,密封口倒置地上,於南檐有日色處曬』(「さらす」と同義)『著,至春初撒畦中,則粒粒皆出。』とあり、「春初」は引用の誤りであることが判明したので、訓読では訂した。]
撒畦中則粒粒皆出凡椒紅口閉者有毒殺人
△按秦椒乃常名山椒者也以蘇秦之說可爲當山谷多
有之也樹髙五六尺不直其葉似槐葉而青綠色對生
尖有丫冬凋落其枝多刺三月生嫩芽謂之木芽入羹
[やぶちゃん注:「丫」は原本では「了」であるが、誤刻と断じて、「丫」とした。東洋文庫訳も「丫」となっている。]
及酒中有佳香四月開細花青白色五月結實攢生青
色謂之青山椒味辛香佳藏鹽水越年辛味不變也六
月熟黃紅色採大者曝乾純赤開口謂之椒紅藏之包
黑反古紙則味不變備前瓷坩亦可也然越年者辛味
失苦生殊小顆者名平椒唯青時可食乾之不佳往昔
所謂秦之地乃今陝西也
椒樹皮 剥木去麁皮曝乾販之用時浸水刮去內白肌
鹽漬或以醬油煮乾食之味辛鹹微香美僧家最賞之
山城鞍馬山之產皮薄味勝丹波但馬及遠州山中野
州二荒山皆多出之
食椒噎甚者不能言悶亂【急令開口吹入人息於咽則安或爐灰少許舐則佳凉水亦可】
*
さんしやう 花椒《くわせう》 大椒
檓【音「毀」。大椒。】
秦椒
椒・𣐹・𣒏【並びに同じ。】
「玆」「消」の切。音「焦」。
唐音 今、俗、「枡」に作るは、非なり。
シン ツヤ゚ウ 山椒《さんせう》と名づく。
「本綱」に曰はく、『秦椒《しんせう》[やぶちゃん注:歴史的仮名遣に於いては、「椒」の現代仮名遣「ショウ」は、歴史的仮名遣では「セウ」であって、「シヤウ」ではない。しかし、良安の「椒(しやう)」の読みが示されているものは、目録でも、標題の「さんしやう」でも、この「秦椒」だけでなく(但し、以下の「椒紅」には、良安は「ひさんせう」(「紅山椒」の当て訓)を当てては、いる)、以下の項でも、ほぼ一貫して「しやう」であることから、その誤った彼の思い込みの慣用読みを総て私が訂正することは、本電子化ポリシー上、正当な行為とは思われない。しかし、それに合わせて、ルビのない「椒」に対しても、私が「しやう」を使用することは、誤りである以上、私には許されないと考えるし、その気も、全く、ない。されば、私が添えた読みでは、正しい歴史的仮名遣で「せう」を用いる。それでこそ、以下の項目でも良安の慣用読みの誤りが、読者に明確に常に認知されるからである。]は、始《はじめ》て、秦に産す。故、名づく。今、𠙚𠙚、種《う》うべし。最《もつとも》蕃行《ばんぎやう》し昜《やす》し[やぶちゃん注:繁殖しやすい。]。葉、對生す。尖りて、刺《とげ》、有り。四月に細≪かなる≫花を生じ、五月、實を結ぶ。生《わかき》は青く、熟せば、紅《くれなゐ》にして蜀椒《しよくせう》より大なり。其の目《み[やぶちゃん注:実。]》も亦、蜀椒の目の光り黑きに及ばざるなり。伹《ただし》、秦の地にも亦、蜀椒、有り。蘇恭《そきやう》の曰《いはく》、「秦椒の樹・葉、及び、莖・子《み》、都(すべ)て、蜀椒に似たり。伹《ただし》、味、短《みじか》く[やぶちゃん注:及ばず。]、實≪も≫細《こまか》なるのみ。」≪と≫。然《しか》るに、宗奭《そうせき》、及《および》、時珍の曰く、「其の實、蜀椒より大なり。」と。』≪と≫。
『椒紅(ひさんせう)【辛、温。毒、有り。】』『風邪を除き、中《ちゆう》[やぶちゃん注:中胃。脾胃。]温《あたた》め、齒・髮を堅くし、目《め》を明にして、久《ひさし》く服すれば、顏色を好くし、老《おい》に耐《たふ》。』≪と≫。[やぶちゃん注:検証すると、ここで「本草綱目」の引用は終わっている。]
「古今醫統」に云はく、『花椒、目《み》[やぶちゃん注:先行する「本草綱目」の引用中の『目《み[やぶちゃん注:実。]》』に同じ。]を帯《おび》、未だ口を開かざる者を以て、碎≪ける≫土を用≪ひて≫、拌-和(かきま)ぜ、浄《きよらな》缾《かめ》の中に入《いれ》、宻《みつ》に口を封じて、倒《さかさ》まに地上に置《おき》、南≪の≫檐《のき》≪の下の≫日《ひ》≪の≫色《いろ》の有《ある》𠙚[やぶちゃん注:太陽光線が直接に射す所。]に於《おい》て晒-着《さらしつ》け[やぶちゃん注:陽に晒し続けて。]、春≪の≫初≪め≫に至《いたり》て、畦《あぜ》≪の≫中に撒(ま)けば、則《すなはち》、粒粒《つぶつぶ》、皆、出づ。』≪と≫。[やぶちゃん注:以下は良安の補足と推定される。]『凡そ、椒紅≪の實の≫、口《くち》、閉《とづ》る者、毒、有りて、人を殺《ころす》。』≪と≫。
△按ずるに、秦椒《さんせう》は、乃《すなは》ち、常≪には≫「山椒《さんせう》」と名《なづく》る者なり。蘇秦の說を以《もつ》て當れりと爲《なす》べし。山谷に、多く、之れ、有るなり。樹の髙さ、五、六尺。直(す)ぐならず。其の葉、槐《えんじゆ》の葉に似て、青綠色。對生して、尖《とがり》て、丫《また》、有り。冬、凋み落つ。其の枝、刺《とげ》、多《おほし》。三月、嫩芽《わかめ》を生ず。之れを「木芽(《き》のめ)」と謂ふ。羹(にもの)、及《および》、酒≪の≫中に入《いれ》、佳き香、有り。四月、細≪かなる≫花、開《ひらき》、青白色。五月、實を結ぶ。攢生《さんせい》して[やぶちゃん注:群がって生え。]青色≪たり≫。之れを「青山椒《あをざんせう》」と謂く《✕→謂ふ》。味、辛《からく》、香《かほり》、佳し。鹽水《しほみづ》に藏《ざう》すること、年を越《こえ》て、辛味《からみ》、變せざるなり。六月、熟して、黃紅色。大なる者を採《とり》て、曝乾《さらしほせ》≪ば≫、純赤≪たり≫。口を開く。之れを「椒紅《しやうこう》」と謂ふ。之れを藏《ざうす》るに、黑き反-古-紙(ほうぐ)に包≪めば≫、則《すなはち》、味、變せず。備前の瓷-坩(つぼ)も、亦、可なり。然れども、年を越《こえ》る者は、辛味(からみ)、失せて、苦(にがみ)、生ず。殊に、小顆(こつぶ)なる者、「平椒(ひんしやう)」と名づく。唯《ただ》、青き時、食ふべし。之れを乾≪かすと≫、佳ならず。往-昔《むかし》、所謂《いはゆ》る、秦の地は、乃《すなはち》、今の陝西《せんせい》なり。
椒樹皮(さんしやうのかは) 木を剥(はぎ)て、麁皮《あらかは》を去り、曝-乾《さらしほし》て、之≪れを≫販《うる》。用《もちひ》る時、水に浸し、內の白≪き≫肌を刮(こそ)げ去《さり》、鹽に漬け、或《あるい》は、醬油≪を≫以《もつて》、煮《に》、乾《かはかして》、之れを食ふ。味、辛鹹《しんかん》[やぶちゃん注:辛く塩辛いこと。]・微香《びかう》≪ありて≫、美なり。僧家、最《もつとも》、之≪れを≫賞す。山城鞍馬山の產、皮、薄く、味、勝れり。丹波・但馬、及《および》、遠州の山中、野州《しもつけ》二荒山《ふたらさん》、皆、多《おほく》、之れ、出《いづ》。
椒を食《くひ》て、噎(むせ)て甚しき者は、言《ものいふ》こと、能《あたは》ず、悶亂《もんらん》す【≪その時は≫急《ただちに》に、口を開きしめて、人の息を咽《のど》に吹き入≪るれば≫、則ち、安《やす》し。或いは、爐≪の≫灰、少許《すこしばかり、》舐《なめ》れば、則ち佳なり。凉水《りやうすい》も亦、可なり。】。
[やぶちゃん注:「秦椒」は、小学館「日本国語大辞典」によれば、『ミカン科の植物、サンショウ・イヌザンショウ・フユザンショウなどの異名』とあった。しかし、これは日本語での話であり、そのままには受け入れられない。本邦では、まず、
双子葉植物綱ムクロジ(無患子)目ミカン科Rutaceaeサンショウ(山椒)属サンショウ Zanthoxylum piperitum
が代表種として認識されており、良安の勝手な「山椒」は、まず、これを第一としていいだろうとは思われる。以下、
サンショウ属イヌザンショウ(狗山椒)変種イヌザンショウ Zanthoxylum schinifolium var. schinifolium (又は、変種ではなく、Zanthoxylum schinifolium )
サンショウ属カホクザンショウ(華北冬山椒)変種フユザンショウ Zanthoxylum armatum var. subtrifoliatum
も挙げておく。しかし、『秦椒《さんせう》は、乃《すなは》ち、常≪には≫「山椒《さんせう》」と名《なづく》る者なり』と言ってしまった良安は完全アウトである。
✕「本草綱目」で言う「秦椒」はサンショウ Zanthoxylum piperitum ではない
のである。それは、「維基百科」の「秦椒」に三つの意味を並置し、
*
〇ナス目ナス科トウガラシ属トウガラシ Capsicum に属するトウガラシ類である。
〇ミカン科の植物「花椒」の果実である。
〇ミカン科サンショウ属( Zanthoxylum 属)の小型落葉樹である「竹叶花椒」である。
*
とあり、以下、香辛料のトウガラシ類をピックアップした解説で、『主に秦嶺山脈で生産される「花椒」(=唐辛子)、例えば、鮮やかな赤い色で有名な「大紅袍」や、七月中旬に熟す「七月袍」などを指す。この地域の唐辛子は、辛い料理を好むことで知られる四川省の人々に売られている』とあるのである。他の中文百科も総てが、この立場を取っている。しかし注意しなくてはならないのは、
◎現代中国では「椒」は、第一義にサンショウ類ではない広義の「トウガラシ」であり、次に、
◎広義の「サンショウ属の果実の名称」であり、
◎最後に「竹叶花椒」を指すのである。
★
やっと核心に踏み込めた。而して、
この「竹叶花椒」はサンショウ属カホクザンショウ(華北山椒) Zanthoxylum armatum なのである。
★
さて、本邦のウィキの「カホクザンショウ」を見よう(注記号はカットした。太字・下線は私が附した)。『カホクザンショウ(華北山椒』『英名:Sichuan pepper)は、中国のミカン科サンショウ属の落葉低木である。日本原産のサンショウ(山椒)とは同属異種に当たる』。『一般には中国名である花椒で知られ、日本語読みで「はなしょう」もしくは「かしょう」、中国語読みで[xwátɕjɑ́u](拼音: huājiāo)と発音され、「ホアジャオ」とも呼ばれる。また、日本の山椒と区別して四川赤山椒、四川山椒、中国山椒、中華山椒などとも呼ぶ』。『果皮は食用、薬用である。痺れるような辛さを持つ香辛料として、中国料理、特に四川料理では多用する。「花椒」のほか』、『蜀椒(しょくしょう)』(「目録」で判る通り、次の立項は「蜀椒」である)『椒紅(しょうこう)』(☜本文に出る。以下同じ)『などとも呼ばれ、漢方では健胃・鎮痛・駆虫作用があるとされる』。『一般的によく使われる「花椒」』(☜)『は、カホクザンショウの実が熟すると、木に赤い花が咲いたようにも見えるので、これが由来となっている』。『細かくは、実の大きさと色によって、大きく赤い大椒(だいしょう)、別名大紅袍(だいこうほう)・獅子頭(ししがしら)と、小振りで黄色い小椒(しょうしょう)、別名小黄金(しょうおうごん)に分けられ、実の採集時期によって秋椒(しゅうしょう)と伏椒(ふくしょう)に分けられる』。『英語ではSichuan pepper, Szechuan pepper, Chinese prickly-ash, Flatspine prickly-ashなどとも呼ばれる』。『漢の』「爾雅」の「釋木」『に見える古名に檓』(☜)『(き、拼音:huǐ)、大椒(だいしょう)』(☜)『がある』。『前漢の馬王堆漢墓から出土した医書に椒と称し』、『薬用に供されていた』。『後漢代の』「神農本草經」中卷「木部中品」『に秦椒(しんしょう)』(☜)『中巻木部下品には蜀椒(しょくしょう)の名称がみられる』。『後漢の』「說文解字」『には椒の異体字である「茮」(ショウ、拼音:jiāo)の字体で収載されており、「茮莍也」との説明がある』。『北魏の』「齋斉民要術」『は「植椒編」を設け、栽培、利用についての記述がある』。『明の』「本草綱目」『「果之四」に秦(秦嶺山脈)に産が始まる花椒と注記した秦椒と、蜀椒を記載』し、『前者の別名を大椒とするが、いずれも産地名と組み合わせた呼称であり、別種であるかは不明。産地名を付した呼称は、他に巴椒(はしょう)・川椒(せんしょう)・南椒(なんしょう)・漢椒(かんしょう)などある』。「本草綱目」『は蜀椒の別名として点椒(てんしょう)も記載』する。『なお、現代中国語の「秦椒」にはトウガラシの意味もある』。『サンショウは雌雄異株だが、カホクザンショウでは雌雄同体で雄株はないと見られている。樹高は』七メートル『ほどになる。枝には鋭い棘が』二『本ずつ付く。葉は互生、奇数羽状複葉。長さ』八~十四センチメートル『ほど』。五~十一『対の小葉は』一~二センチメートル『の楕円形で縁は鋸歯状。裏は表に比べ白っぽい。花は』三~五『頃』、『開花し、直径』四~五ミリメートル『で黄緑色。果実の直径は』四ミリメートル『程度で、初めは緑色だが』七『月から』十『月頃に赤く熟し、裂開して中の黒い種子が落下する』。『サンショウ属を含むミカン科の木にはアゲハチョウの幼虫が付くことがある。アゲハチョウの幼虫は大食であり、小さな株なら』、一『匹で葉を食べ尽されて丸裸にされてしまうこともあるので注意が必要である』。『東アジア原産。中国では黒竜江省から広西チワン族自治区まで広く分布する。栽培もされており、四川省、河北省、山西省、陝西省、甘粛省、河南省などが主産地である』。現在は『中国の貿易商が、日本の山口県や大阪府泉佐野市にて青花椒の栽培を試みている』。『一部の同属異種の果皮をも「土花椒」などと称して、香辛料に使用される例がある』。以下、同属異種が列挙される。
Zanthoxylum piperitum (『サンショウ(山椒)。日本原産』。以下の本邦の「サンショウ」は同ウィキを、必ず、見られたい。ここでは、グダグダになって混同してしまうので引用しないが、良安の勘違いを批判的に認識するためには、先ず、そちらを見られたい)
Zanthoxylum armatum (シノニム:Zanthoxylum alatum :『 フユザンショウ(冬山椒)』)
Zanthoxylum schinifolium (『イヌザンショウ(犬山椒)。中国語で「香椒」。芳香がなく、棘が互生する。イヌザンショウの果実は黄緑から緑色で、「香椒子」「青椒」「青花椒」と呼ばれて精油を持ち、煎じて咳止めの民間薬に用いられる』)
Zanthoxylum bungei (『ツルザンショウ。中国語で「野山椒」「蔓椒」』)
Zanthoxylum beecheyanum (『ヒレザンショウ。沖縄県』)
Zanthoxylum simulans (『トウザンショウ(唐山椒)』)
Zanthoxylum argyi
Zanthoxylum avicennae (『中国語で「簕欓」「鷹不泊」。華南、ベトナム、フィリピン原産』)
Zanthoxylum ailanthoides (『カラスザンショウ(烏山椒)』)
Zanthoxylum americanum -(『アメリカザンショウ(アメリカ山椒)』)
Zanthoxylum fraxinoides
Zanthoxylum nispinum (『中国語で「竹葉椒」』)
Zanthoxylum nitidum (『テリハサンショウ(照葉山椒)』。『中国で「両面針」と称して薬用にされる。葉の中心線に沿って棘がある』)
Zanthoxylum micranthum (『中国語で「小花花椒」』)
Zanthoxylum integrifoliolum (『中国語で「蘭嶼花椒」』)
『果皮は、爽やかな香りと痺れるような辛味を持ち、花椒の名で呼ばれる香辛料である。四川料理、貴州料理、雲南料理、西北料理などで多用され、煮込み料理を中心に、炒め料理、蒸し料理など幅広い料理に使われる』。『特に、日本でも知られる麻婆豆腐や担担麺をはじめとする四川料理は、花椒の痺れるような辛さ(麻味)と唐辛子のピリっとした辛さ(辣味)のハーモニーである麻辣味が基本であり、花椒は欠かせない。日本国内の市場規模は』二〇一八『年で約』一『億円で、それまでの』四『年間で』二『倍以上に拡大した。果皮の乾燥粉末を料理の仕上げに使うことが多いが、果皮を植物油に漬けて成分を溶出させた花椒油(かしょうゆ)も使われる。粉末(挽きたてが望ましい)は香りに優れ、花椒油は辛味に優れるため、一つの料理で両方の使い方をすることもある』。『炒った塩と同量の花椒の粉末を混ぜたものを花椒塩(かしょうえん、ホアジャオイエン)と呼び、中国各地で揚げ物につけて食べるのに用いる』。『粉末を桂皮(シナモン)、丁香(クローブ)、小茴(フェンネルもしくはウイキョウ)、大茴(八角もしくはスターアニス)、陳皮(チンピ)などとブレンドしたものは五香粉(ごこうふん、ウーシャンフェン)と呼ばれ、食材の臭い消しなど下処理に多用される』。『砂糖、黒酢、豆板醤、練り胡麻、トウガラシ、ニンニク、ショウガ、ネギ、砕いたラッカセイなどと組み合わせた味は複雑で奇怪な味という意味で「怪味」(かいみ、グヮイウェイ 拼音: guàiwèi)と呼ばれるが、これに花椒の風味は欠かせない。タレは怪味だれ、怪味ソースなどとも呼ばれる』。『中国などでは豆豉や油脂などと配合した合わせ』、『調味料も多種』、『販売されている』。『全粒の花椒を大量に買うと、種子が果皮に挟まったものが』、『まれに混じることがあるが、これは』不味い『ので気付いたなら取り除くべきである』。『花椒が無い場合、日本のサンショウで代用できないことはないが』、『風味や辛さが大きく異なる』。『果皮には産地により差があるが約』一~九『%の精油成分を含む。主な精油成分はゲラニオール、リモネン、クミンアルコール、シトロネラールなど。油脂分ではパルミチン酸とパルミトレイン酸を多く含む。主な辛味成分はヒドロキシ-α-サンショオール(Hydroxy-α-sanshool)などのサンショオール誘導体とサンショアミド』である。『果皮は「花椒」、「椒紅(しょうこう)」と称して生薬としても用いられる。漢方で「花椒」は健胃、鎮痛、駆虫作用があるとされ、大建中湯、烏梅丸などに使われる』。「本草綱目」『は性味を「辛、温、有毒」とする。陰虚の患者、妊婦は忌避すべきとされる。授乳を終える時期に花椒を煎じ、砂糖を加えて飲むと、乳の分泌が抑えられ、乳房の張りも収まるとされる』。『また、中の黒い種子を「椒目」(しょうもく)と称し、煎じたり、粉砕して「水気腫満」(水腫)、「崩中」(子宮出血)、下り物の治療に用いた。利尿作用、鎮咳作用もある。主な成分はオレイン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、リノール酸メチル、リノレン酸メチルなどの脂肪酸エステルで、モノテルペノイド、セスキテルペノイドも含む』。『日本薬局方では、サンショウの成熟した果皮で、種子をできるだけ除いたものを生薬・山椒(サンショウ)と規定している。このため花椒を日局サンショウとして用いることはできない』。『花椒の実は多くなることから、中国では古くより子孫繁栄の象徴と見られてきた。西周の詩歌を集めた』、「詩經」の「唐風」には、「椒聊之實 蕃衍盈升」『(椒聊の実は、繁って増え、上に昇る)と記されている。また、後漢の班固は』「西都賦」『で壁に花椒を塗った「椒房」を皇后の部屋としていると記し、子孫繁栄を願っていたことが窺える』とある。
なお、 なお、以上の本文は、「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十二」の「果之四」「味類一十三種内附四種」の冒頭の「秦椒」からのパッチワークであるが、いろいろと引用に問題を感じているので、長いが、以下に全文を手を加えて示す。下線部が、良安の引いた箇所(勝手に手を入れているので注意)である。彼のここでのパッチワークが、如何に危ういアクロバティックにして、グチャグチャの極みであることが判然とする。
*
秦椒【本經中品】 校正【自木部移入此】
釋名大椒【爾雅】檓【毁】花椒
集解【别錄曰秦椒生㤗山山谷及秦嶺上或瑯琊八月九月采實弘景曰今從西來形似椒而大色黃黑味亦頗有椒氣或云卽今樛樹子樛乃豬椒恐謬恭曰秦椒樹葉及莖子都似蜀椒但味短實細爾藍田秦嶺間大有之頌曰今秦鳳明越金商州皆有之初秋生花秋末結實九月十月采之爾雅云檓大椒郭璞注云椒叢生實大者爲檓也詩唐風云椒聊之實繁衍盈升陸璣疏義云椒樹似茱茰有針刺葉堅而滑澤味亦辛香蜀人作茶吳人作茗皆以其葉合煮爲香今成臯諸山有竹葉椒其木亦如蜀椒小毒熱不中合藥也可入飮食中及蒸鷄豚用東海諸島上亦有椒枝葉皆相似子長而不圓甚香其味似橘皮島上麞鹿食其葉其肉自然作椒橘香今南北所生一種椒其實大於蜀椒與陶氏及郭陸之說正相合當以實大者爲秦椒也宗奭曰此秦地所産者故言秦椒大率椒株皆相似但秦椒葉差大粒亦大而紋低不若蜀椒皺紋爲髙異也然秦地亦有蜀椒種時珍曰秦椒花椒也始產於秦今處處可種最易蕃衍其葉對生尖而有刺四月生細花五月結實生靑熟紅大於蜀椒其目亦不及蜀椒目光黑也范子計然云蜀椒出武都赤色者善秦椒出隴西天水粒細者善蘇頌謂其秋初生花蓋不然也】
修治【同蜀椒】[やぶちゃん注:「本草綱目」の「蜀椒」は次項。]
椒紅氣味辛温有毒【别錄曰生温熟寒有毒權曰苦辛之才曰惡苦蔞防葵畏雌黃】主治除風邪氣温中去寒痺堅齒髪明目久服輕身好顔色耐老増年通神【本經】療喉痺吐逆疝瘕去老血產後餘疾腹痛出汗利五臟【别錄】上氣欬嗽久風濕痺孟詵治惡風遍身四肢𤸷痺口齒浮腫搖動女人月閉不通産後惡血痢多年痢療腹中冷痛生毛髪滅瘢【甄權】能下腫濕氣【震亨】
附方【舊六】膏痺尿多其人飲少用秦椒二分出汗瓜蔕二分爲末水服方寸匕日三服類【傷寒要】手足心腫【乃風也椒鹽末等分醋和傅之良肘後方】損瘡中風【以麪作餫飩包秦椒於灰中燒之令熟斷開口封於瘡上冷卽易之【孟詵食療】】久患口瘡【大椒去閉口者水洗麪拌煮作粥空腹吞之以/飯壓下重者可再服以瘥爲度【食療本草】】牙齒風痛【秦椒煎醋含潄孟詵食療百蟲入耳椒末一錢醋半盞浸良久少少滴入自出【金續千方】】
*
「蘇恭」初唐の官人で医師であった蘇敬(五九九年(隋の最末期)~六七四年)の別表記。当時の宋(現在の湖北地方の中にあった地名)の出身。朝議郎右監門府長史騎都尉。顯慶二(六五七)年に、六朝時代の医学者・科学者にして道教茅山派の開祖であった陶弘景の医学書「本草經集注」に誤りが多いことに鑑み、上奏して修正せんことを請い、同書の改訂案を仕上げた。これが現在の「唐本草」として「新修本草」に収録されている(「維基百科」の彼の記載他から作成した)。
「宗奭《そうせき》」北宋の官人で医学者・薬物学者であった寇宗奭(生没年未詳)。 北宋の名宰相寇準の曽孫と伝えられる。「萊公勳烈」の編集をしている。熙寧一〇(一〇七七)年に思州武城縣主簿に任ぜられ、以後、各地方の官吏を歴任した。特に本草医学に精通し、「本草衍義」二十巻(一一一六年完成)を撰述している。
「椒紅(ひさんせう)」引用に出たカホクザンショウの実である「花紅」「ホアジャオ」を指す。なお、現代の中国語では「紅椒」と書くと、トウガラシや赤色になったピーマンを意味するので、今度しないように注意が必要である。
「古今醫統」複数回既出既注だが、再掲すると、明の医家徐春甫(一五二〇年~一五九六)によって編纂された一種の以下百科事典。全百巻。「東邦大学」の「額田記念東邦大学資料室」公式サイト内のこちらによれば、『歴代の医聖の事跡の紹介からはじまり、漢方、鍼灸、易学、気学、薬物療法などを解説。巻末に疾病の予防や日常の養生法を述べている。分類された病名のもとに、病理、治療法、薬物処方という構成になっている』。『対象は、内科、外科、小児科、産婦人科、精神医学、眼科、耳鼻咽喉科、口腔・歯科など広範囲にわたる』とある。以下の引用は、「維基文庫」の「古今醫統大全/80」の「通用諸方 \ 花木類第二」に(漢字の一部に手を入れ、コンマを読点に代えた)、
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花椒以帶目未開口者、用碎土拌和、入淨瓶中、密封口倒置地上、於南檐有日色處曬着、至春初撒畦中、則粒粒皆出。
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とあるのを確認した。
「『凡そ、椒紅≪の實の≫、口《くち》、閉《とづ》る者、毒、有りて、人を殺《ころす》。』≪と≫」この部分、思うに、良安が、「本草綱目」の次の「蜀椒」の「修治」にある、
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椒紅氣味辛温有毒【别錄曰大熱多食令人乏氣喘促口閉者殺人[やぶちゃん注:以下、略。]】
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(「漢籍リポジトリ」の「卷三十二」から手を入れて引用した)から、勝手に持ってきたものと推定するものである。基本的に先の引用で判る通り、「秦椒」と「蜀椒」は同一とする見解があるので、まあ、いいとしても、安易に「殺人」というオトロしけない語を、安易に持ってくるというのは、医師として、指弾されるべきレベルの禁則行為である!
「槐《えんじゆ》」双子葉植物綱バラ亜綱マメ目マメ科マメ亜科エンジュ属エンジュ Styphnolobium japonicum 。「卷第八十三 喬木類 槐」を見よ。
「木芽(《き》のめ)」「木の芽」。日本料理でサンショウの若葉を指す語である。香りが良く、辛みがあり、香辛料として用途が広い。吸物に浮かしたり、煮物の青みに添えたりする。刻んで味噌に入れた「木の芽味噌」は木の芽田楽や、木の芽和(あ)え等にする。三杯酢に混ぜた木の芽酢、付け焼きに振り込む木の芽焼などもある(以上は平凡社「百科事典マイペディア」に拠った)。ああっつ! 思い出すなぁ! 柏陽高校で、今は亡き菊池のとっつあん先生が、無理矢理にやらされたラグビー部の顧問から、ワンダーフォーゲル部に引き抜いて呉れた直前、丹沢山行で、とっつあんが、自然の木の芽を見つけて、手ずから、味噌和えにして食わせて呉れたのを! ほんと、美味かったなぁ
「平椒(ひんしやう)」不詳。識者の御教授を乞う。方言か?]
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