阿部正信編揖「駿國雜志」(内/怪奇談)正規表現版・オリジナル注附 「卷之二十四下」「釜化河伯」
[やぶちゃん注:底本はここ。句読点の変更や追加をし、記号を加えた。]
「釜化河伯《かま かつぱに かす》」 駿東郡德倉村《とくらむら》狩野川《かのがは》にあり。傳云《つたへいふ》、此川の東に淵あり。「釜が淵」と云《いふ》。往昔《わうじやく》、此池の山王の社《やしろ》に、大釜《おほがま》、二《ふたつ》あり。或時、盜賊、來《きたつ》て其一《ひとつ》を取り、途中、あやまつて、此川に落《おと》せり。是より、釜、化して河伯となる。「遊方名所畧」云《いはく》、『釜淵、沼津ヨリ一里有二釜淵一駿河新宿路傍畠中有二大釜二一。俗傳云、賴朝富士牧獵時、所ㇾ鑄也。時有二竊ㇾ之荷擔而行者一、重不ㇾ堪二其任一捨二之ヲ川中一、此釜有ㇾ靈、遂爲二水中主一、故云爾。一釜又有二畠中一云云』。
[やぶちゃん注:「遊方名所畧」元禄一〇(一六九七)年刊。作者・書誌不詳。この引用の訓点は不全であるので、ここで、私が訓読文を試みておく。
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『釜淵(かまがふち)。沼津より一里、釜淵、有り。駿河新宿の路傍の畠中に、大釜、二つ有り。俗傳に云はく、「賴朝、富士の牧獵(まきれう)の時、鑄(い)さするなり。時に、之れを竊(ぬす)み、荷として擔(にな)ひ行く者、有り。重くして其の任に堪へずして、之れを川中に捨つ。此の釜、靈、有り、遂に水中の主(あるじ)と爲(な)れり。故に、云ふのみ。一つの釜、又、畠中(はたなか)に有り云云(うんぬん)』。
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「駿東郡德倉村狩野川」現在の静岡県駿東郡清水町(しみずちょう)。「ひなたGIS」で示す。狩野川に河童が棲息していると記す記事は、複数、見られるが、ここに記されている――釜が河童になる――という話を見出すことは出来なかった。河童が持ってきた瓶の話は、河津町(かわずちょう)であるが、サイト「スーちゃんの妖怪通信」の「河童の瓶[かめ]」を見られたい。但し、本記事との関連性は、全く、ない。]
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