和漢三才圖會卷第八十九 味果類 蜀椒
しよくしやう 巴椒 川椒
漢椒 南椒
蓎藙 㸃椒
蜀椒
【巴蜀川漢皆
地之名也】
【和名奈留波之加美
シヨ ツヤ゚ウ 一名不佐波之加美】
本綱蜀椒初出於蜀國【今號四川】今𠙚𠙚人家多作園圃種之
其木髙四五尺似茱萸而小有針刺葉堅而滑四月結子
無花伹生于枝葉間顆如小豆而圓皮紫赤色肉厚皮皺
其子光黑如人之瞳子故謂之椒目他椒子雖光黑亦不
似之
椒紅【辛温有毒】 手足太隂右腎命門氣分之藥稟五行之氣
而生葉青皮紅花黃膜白子黒其氣馨香其性下行能
使火熱下達不致上薫芳艸之中功皆不及之
凡人嘔吐服藥不納者必有蚘在膈閒蚘聞藥則動動
則藥出而蚘不出伹於嘔吐藥中加炒川椒十粒良蓋
蚘見椒則頭伏也 又能可收水銀 畏欵冬防風附
子
椒目【苦寒】 利小便治十二種水種脹満及腎虛耳鳴聾
△按蜀國今號四川生於彼地草木皆佳種也故川椒川
芎川烏頭川黃連川楝子之名據此入藥椒紅亦宜用
川椒在本朝可用朝倉椒
*
しよくしやう 巴椒《はせう》 川椒《せんせう》
漢椒 南椒
蓎藙《たうき》 㸃椒《てんせう》
蜀椒
【巴・蜀・川・漢、皆、
地の名なり。】
【和名、「奈留波之加美《なるはじかみ》、
シヨ ツヤ゚ウ 一名、「不佐波之加美《ふさはじかみ》。】
[やぶちゃん注:「椒」の『しやう』は良安の誤った慣用読み。前の「秦椒」の私の注意書きを参照されたい。なお、以下の項目でも同じなので、これは繰り返さないので、注意されたい。「巴・蜀・川・漢」東洋文庫訳の後注に、『いずれも現在の四川地方の呼称。蜀は四川省の古の国名。漢は四川省西部の地域(成都・広漢・潼(とう)川)、巴は四川省東部の地域(重慶・虁(き)州・順慶・閬(ろう)中)。川とは巴蜀の総称。』とある。則ち、これらは各個的な地名の羅列なのではなく、現在の古い広域としての「四川地方」の古名、及び、その内の歴史的・地方的な国名・地方名を披歴羅列したものである。この内、「広漢」は現在の四川省徳陽市南西部に位置する県級市としてあり、「潼川」は潼川府で、宋から民国の初年にかけて、現在の四川省中部に設置された管轄としての府名。「虁州」は唐詩ではお馴染みで、唐代に現在の四川省東部の奉節県におかれた州名。揚子江中流の有名な「三峡の険」の入り口に相当する。「順慶」は四川省南充市の市轄区である順慶区に残り、「閬中」は四川省南充市に位置する県級市で、四川省を南北に重慶市へと流れる嘉陵江の河畔にある。古くからの中心都市で水運の街として栄え、現在は国家歴史文化名城に指定されている。「巴蜀」広義の四川地方の非常に古い地名であり、具体的には「巴」は現在の重慶一帯を、「蜀」は現在の成都一帯を中心とした古地名である。流石に、いちいち示すほど、私はお目出度くない。グーグル・マップ・データの四川省をリンクさせておくので、各自、確認されたい。]
「本綱」に曰はく、『蜀椒、初《はじめ》、蜀の國に出づ。【今は「四川」と號す。】今、𠙚𠙚《ところどころ》、人家、多《おほく》園圃《えんぽ》[やぶちゃん注:果樹・野菜を植えて育てる所と、田畑を指す。]に作《なし》、之れを種《うう》。其の木、髙さ、四、五尺。茱萸《しゆゆ》に似て、小《ちさく》、針刺《はりとげ》、有り。葉、堅《かたく》して、滑《なめらか》≪なり≫。四月、子《み》を結《ぶ》≪も≫、花、無《なく》して、伹《ただ》、枝葉の間に生ず。顆(つぶ)、小豆《あづき》のごとくして、圓《まろく》、皮、紫赤色。肉、厚く、皮、皺《しは》≪し≫。其の子、光《ひかり》、黑《くろく》して、「人の瞳《ひとみ》の子《たま》」のごとし。故に、之れを、「椒目《せうもく》」と謂ふ。他《ほか》の椒《せう》≪の≫子、光、黑なりと雖も、亦、之れに、似ず。』≪と≫。
『椒紅《せうこう》【辛、温。毒、有り。】』『手足の太隂・右腎命門《うじんめいもん》の氣分の藥≪なり≫。五行の氣を稟《う》けて、生ず。葉は青く、皮は紅《くれなゐ》。花は、黃、膜は白、子は黒。其《その》氣、馨香《けいかう》≪たり≫[やぶちゃん注:良い匂いが漂う。]。其の性、下行して、能《よく》、火熱をして、下達《かたつ》せしめ、上薫《じやうくん》致させしめず。芳艸《はうさう》の中《うち》、功、皆、之れに及ばず。』≪と≫。
『凡そ、人、嘔吐して、藥を服し、納《をさ》まらざる者、必《かならず》、蚘《むし》[やぶちゃん注:ヒト寄生虫(但し、ここでは日和見感染の種も含むとすべきであろう)を指す。]、有《あり》て、膈《かく》[やぶちゃん注:漢方では、現代医学の「横隔膜」ではなく、主に「胸の壁」・「胸腹の境界」を指し、臓腑の機能を司る上で重要な役割を持つ部位を指す。]の閒《あひだ》に在《あり》。蚘、藥を聞けば、則《すなはち》、動《どう》ず。動ずれば、則、藥は出《いで》て、蚘、出でず。伹《ただし》、嘔吐の藥中に於《おい》て、炒《い》≪れる≫川椒《せんせう》[やぶちゃん注:「秦椒」の異名。「秦椒」を参照のこと。]十粒を加へて、良し。蓋し、蚘、椒を見れば、則ち、頭《かしら》、伏《ふ》≪すれば≫なり。』『又、能《よく》、水銀を收《をさ》む。』『欵冬《かんとう》・防風・附子《ふし》を畏《おそ》る。』≪と≫。
『椒(さんせう)の目(め)【苦、寒】』『小便を利し、十二種の水種・脹満《ちやうまん》[やぶちゃん注:腹部が膨張する症状。]、及《および》、腎虛・耳鳴《みみなり》・聾《らう》を治す。』≪と≫。
△按ずるに、蜀の國は、今、四川と號す。彼の地に生ずる草木、皆、佳《よき》種なり。故、川椒・川芎《せんきゆう》・川烏頭《せんうづ》・川黃連《せんわうれん》・川楝子《せんれんし》の名、此《これ》に據る。藥≪に≫入《いる》る椒紅(しざんせう)も亦、宜しく、川椒を用ふべし。本朝に在りては、朝倉椒《あさくらざんしやう》を用ふべし。
[やぶちゃん注:本種同定は、既に、前回の「秦椒」の引用の考証、及び、後の私の最終比較同定で、★「秦椒」と同じ、
サンショウ属カホクザンショウ(華北山椒) Zanthoxylum armatum
であることを既に述べてあるので、そちらを見られたい。
なお、 なお、以上の本文は、「本草綱目」の「漢籍リポジトリ」の「卷三十二」の「果之四」「味類一十三種内附四種」の冒頭から二つ目の「蜀椒」からのパッチワークである。
「奈留波之加美《なるはじかみ》」「不佐波之加美《ふさはじかみ》」所持する平凡社「世界大百科事典」の「サンショウ(山椒)」の「利用」の項に(コンマは読点に代えた)、『サンショウは古くから食用、薬用とされてきた。はじめは〈はじかみ〉と呼ばれたが、同じようにしんらつ』(辛辣)『味をもつショウガが伝来すると、それを〈くれのはじかみ〉と呼び、サンショウは〈なるはじかみ〉〈ふさはじかみ〉と呼んで区別するようになった』とあった。
「茱萸《しゆゆ》」とあるが、これは本邦では、✕バラ目グミ科グミ属 Elaeagnus のグミ類を指すのであるが、サンショウ類とは似ても似つかないのは一目瞭然であり、では何かと言うと、東洋文庫訳で、割注を附して、『茱萸(後出、呉茱萸)』とある通りで、この後の九項目の「吳茱萸(ごしゆゆ)」に相当するものである。私は既に、「卷第八十四 灌木類 山茱萸」で登場し、私の注も附してある。一部を削り、表記にも手を加え、それを掲げておく。
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「吳茱萸《ごしゆゆ》」「ごしゅゆ」はムクロジ目ミカン科ゴシュユ属ゴシュユ Tetradium ruticarpum である。当該ウィキによれば、『中国』の『中』部から『南部に自生する落葉小高木。日本では帰化植物。雌雄異株であるが』、『日本には雄株がなく』、『果実はなっても種ができない。地下茎で繁殖する』。八『月頃に黄白色の花を咲かせる』。『本種またはホンゴシュユ(学名 Tetradium ruticarpum var. officinale、シノニム Euodia officinalis )の果実は、呉茱萸(ゴシュユ)という生薬である。独特の匂いと強い苦みを有し、強心作用、子宮収縮作用などがある。呉茱萸湯、温経湯などの漢方方剤に使われる』とあった。漢方薬剤としては平安時代に伝来しているが、本邦への本格的渡来はこれまた、享保年間(一七一六年から一七三六年まで)とされる。
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というのが、それである。
「手足の太隂」東洋文庫訳の後注に、『身体をめぐる十二経脈の一つ。手の太陰肺経は胃のあたりからおこり、大腸に連なり上行して肺に入る。ついで喉頭をめぐり、横に出て肢の下にくる。そこから腕の内面を通って手の親指の末端に至る。支脈は腕の下部から分かれて第二指の先端に至る。足の太陰肺経は足の親指の末からおこり、脚の内面を上り腹部に入って肺に連なり腎につながる。さらに横隔膜を通って咽喉から舌に行く。支脈は胃部から分かれて心臓に達する。』とある。
「右腎命門《うじんめいもん》」東洋文庫訳の後注に、『右腎のことを命門という。命門とは元気の根源という意味。』とある。
「十二種の水種」東洋文庫訳の後注に、『水腫は体内に水液が溜っておこる病症。風水・皮水・正水・石水・黄水・心水・肝水・肺水・肺水・腎水・陰水・陽水。』とある。
「川芎《せんきゆう》」センキュウ。セリ科の草木。その根茎が頭痛などの薬剤になる。薬用として栽培された』とある。当該ウィキによれば、『中国北部原産で秋に白い花をつける』『多年草』(セリ目セリ科ハマゼリ属)『センキュウCnidium officinaleの根茎を、通例、湯通しして乾燥したもので』、『本来は芎窮(きゅうきゅう)と呼ばれていたが、四川省のものが優良品であったため、この名称になったという。日本では主に北海道で栽培される。断面が淡黄色または黄褐色で、刺激性のある辛みと、セロリに似た強いにおいがある。主要成分としてリグスチリド』(Ligustilide)『などがあげられる』。『現在の分析では鎮痙剤・鎮痛剤・鎮静剤としての効能が認められ、貧血や月経不順、冷え性、生理痛、頭痛などに処方されて』おり、『漢方では』「当帰芍薬散」に『配合され』、『婦人病』、所謂「血の道」の『薬として』、『よく用いられる』とあった。
「川烏頭《せんうづ》」「烏頭」は猛毒で知られるキンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。
「川黃連《せんわうれん》」「黃連」はキンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica の髭根を殆んど除いた根茎を乾燥させたもの。
「川楝子《せんれんし》」漢方で、ムクロジ目センダン科センダン属トウセンダン Melia toosendan の果実を指す。詳しくは、「卷第八十三 喬木類 楝」の私の長い引用注を見られたい。
「朝倉椒《あさくらざんしやう》」次の同名の項を参照されたい。ここでは、メンドクサイのでAIのデータを引いておく。『朝倉山椒は、兵庫県養父市八鹿町朝倉が発祥とされる山椒で、柑橘系の爽やかな香りが特徴です。江戸時代には徳川家康に献上されたこともあると伝えられ、その風味の良さで知られています。トゲがなく、大きな実がなり、辛みが後にひきにくいという特徴があります。』とある。]
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