和漢三才圖會卷第九十 菰果類 草𮔉 / 卷第九十~了
くさみつ 剌𮔉 給㪍羅
草𮔉
大明一統志云西畨撒馬兒罕地有小草叢生葉細如藍
秋露凝其上味甘如𮔉可熬爲餳土人呼爲達郞古賔
[やぶちゃん注:「賔」は「賓」の異体字。]
△按本綱出諸說有異同皆西畨所生草上甘露也最竒
品也爲多識記之耳
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くさみつ 剌𮔉《しみつ》 給㪍羅《きふぼつら》
草𮔉
「大明一統志」に云はく、『西畨《さいばん》、撒馬兒罕(サハシカン)[やぶちゃん注:現在のウズベキスタンにあるシルクロードのオアシス古都サマルカンド(ウズベク語:Самарқанд/Samarqand;英語:Samarkand)のこと。ここ(グーグル・マップ・データ)。]の地に、小草《こぐさ》、有《あり》て、叢生す。葉、細《こまや》かにして、藍《あい》のごとし。秋の露、其《その》上に凝(こ)りて、味、甘きこと、𮔉《みつ》のごとし。熬《いり》て餳(あめ)と爲《なす》。土人、呼《よん》で「達郞古賔《たつらうこひん》」と爲《なす》。』≪と≫。
△按ずるに、「本綱」に諸說を出《いだ》す。異同、有り。≪而れども、≫皆、『西畨に生ずる所の、草≪の≫上の甘露なり。最も竒品なり。』≪とす≫。多識[やぶちゃん注:知識人でありたい者たち。]の爲め、之≪れを≫記すのみ。
[やぶちゃん注:まず、「大明一統志」であるが、これは、明の全域と朝貢国について記述した地理書。全九十巻。李賢らの奉勅撰。明代の地理書には、先の一四五六年に陳循らが編纂した「寰宇(かんう)通志」があったが、天順帝は命じて重編させ、一四六一年に本書が完成した。但し、記載は、必ずしも正確でなく、誤りも多い。ともかくも、当該書と思われる「維基文庫」の「明一統志」の卷八十九を見るに、「和卓」(これは、ホージャ(簡易アルファベット表記:khoja; アラビア文字アルファベット転写: khwāja)で、これは、ウィキの「ホージャ」によれば、『主に中央アジアから南アジアにかけてのイスラム教圏で使われる称号の一つである』とあって、広域である「西畨」(=「西蕃」=西域)ではあるが、「撒馬兒罕(サハシカン)」=サマルカンドは、やや東に位置する。ともかくも、以下に、当該部に相当する箇所を、そのままに引用すると(私が附した下線太字部分が本引用と合致する)、
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𥐼砂賽瑪爾堪〈東抵額爾巴拉西連哈里東至肅州九十里〉 沿革
其地不知古何國或雲漢罽賔國地東西相距三千餘里地勢寛衍土田膏腴為諸國勝元駙馬特穆爾主其國東有揚濟克城蘇嚕克哈雅薩蘭城塔什罕西有克實克都哩諸城皆𨽻焉本朝洪武二十年特穆爾遣囬囬摩哩哈必蘇等貢駝馬永樂間其孫卾勒博遣使貢馬正統二年又貢馬及玉石 風俗善治宮室〈陳誠西域記人多工巧藝善治宮室門楹皆雕文刻鏤窓牗綴以瑟瑟〉主戴白㡌器用金銀〈同上主戴白圓㡌妻以白□[やぶちゃん注:ママ。]纒首飲食喜甘酸𦎟襍米肉器用金銀不設𠤎箸以手取食〉山川景物頗類中原〈同上〉賈用銀錢屠埋血腥〈同上商賈交易用國中所造銀錢坊幣有酒禁屠牛羊者埋其血腥〉建屋祀天泥金書經〈同上俗重拜天建屋祀之以青石為柱雕鏤甚精經文皆書以泥金裹以羊皮〉 山川鐡門峽〈在渇石城西懸崖絶壁髙數十仭徑路﨑嶇深二三里夷人守此名鐡門關唐書雲自焉耆西五十里過鐡門關疑即此〉哈喇布拉克河〈在賽瑪爾堪城東河淺濶而北流〉火站河〈在蘇嚕克哈雅城西〉阿布爾河〈在蘓嚕克哈雅城西〉阿珠河〈在特爾黙城東水西流多魚〉 土産金 銀 玉 銅 鐡 珊瑚 琥珀 琉璃罽苾思檀〈樹葉類山茶實類銀杏而小〉水晶鹽〈堅明如水晶琢為盤以水濕之可和肉食〉瓦矢實〈類野蒿實甚香可辟蠧〉阿魏 甘露〈小草叢生葉細如藍秋露凝其上味如蜜可熬為𩛿俗呼為達喇呼必葢𠂀露也〉
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この冒頭の国名らしき「賽瑪爾堪」は、自動和訳をすると「サイマカン」となっており、「撒馬兒罕(サハシカン)」という良安が振ったルビと、かなり、似ている、とは言えるとは思う。
しかし、実は、良安は原本に当たったわけではなかった。これは、「本草綱目」からの孫引きなのである! 「漢籍リポジトリ」の「卷三十三」の「果之五【蓏類九種内附一種】」の正規分の「果之五」の最後にある「刺蜜」([081-17a]以下)の部分引用に外ならないのである! 煩を厭わず、全文を手を加えて、以下に示す(私が附した下線部分が合致する)。
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刺蜜【拾遺】 校正【自草部移入此】
釋名【草蜜拾遺給敎羅】
集解【藏器曰交河沙中有草頭上有毛毛中生蜜胡人名爲給㪍羅時珍曰按李延壽北史云高昌有草名羊刺其上生蜜味甚甘美又梁四公子記云高昌貢刺蜜杰公云南平城羊刺無葉其蜜色白而味甘鹽城羊刺葉大其蜜色青而味薄也高昌卽交河在西畨今爲火州又叚成式酉陽雜俎云北天竺國有蜜草蔓生大葉秋冬不死因受霜露遂成蜜也又大明一統志云西番撒馬兒罕地有小草叢生葉細如藍秋露凝其上味甘如蜜可熬爲餳土人呼爲逹卽古賔蓋甘露也按此二說皆草蜜也但不知其草卽羊刺否也又有䭱齊樹亦出蜜云可入藥而不得其詳今附于左】
附錄䭱齊【音别有按叚成式云䭱齊出波斯國拂林國亦之名頓敎梨佗頓音奪樹長丈餘皮色青薄光净葉似】□[やぶちゃん注:原本画像を見ると、(へん)は(「却」-「去」)、で(つくり)は「何」に見える漢字である。]魏生于枝端一枝三葉八月伐之臘月更抽新條七月斷其枝有黃汁如蜜微香可以入藥療病也
氣味甘平無毒主治骨蒸發熱痰𠻳暴痢下血開胃止渴除煩【藏器】
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而して、これは、何かと言うと、和名が存在しない、日本語・中国語の孰れのウィキにもない、
双子葉植物綱マメ科マメ亜科 Faboideae Alhagi 属 Alhagi pseudalhagi
であることが、中文サイト「中醫世家」の「中药材」の「刺蜜《中药大辞典》:刺蜜」で判明した。本邦の記載では、販売サイトのここで、別名として「トゥランジュビーン」「Turanjbeen」「ラクダのとげ」「Camel thorn」とあった。而して、さらに調べてみたところ、★英文サイト“EPPO Global Database”の“ Alhagi maurorum ”のページで、
このAlhagi persarum 、及び、Alhagi pseudalhagi をシノニム(原文では“Other scientific names”とある)に挙げている
ことが判った。そこで、英文ウィキの“ Alhagi maurorum ”のページが詳しいので、機械翻訳を参考に引用する(太字・下線は私が附した)。『この低木はユーラシア原産であるが、世界の多くの国・地域にも導入されている』。『この多年生植物は、地中一・八メートル以上まで伸びる巨大な根茎から成長する。新芽は親の植物から六メートル以上も伸びることがある。地上部では、高さは最大九十センチメートルに達する。枝分かれが激しく、灰緑色の茂みで、枝には長い棘がある。落葉樹で、葉は楕円形から卵形、長さは最大一センチメートルである。長さ一センチメートルまでの、小さな、明るいピンク色から栗色のエンドウマメ様の花と、茶色又は赤みがかった最大二・五センチメートルの小さな豆を持った鞘をつけ、種子の間は狭くなっている。種子は茶色の斑点のある豆である』。以下、「分布と原植生地」のパート。『ユーラシアの温帯・熱帯地域と、中東のアフガニスタン・アルメニア・アゼルバイジャン・中国の北西部・キプロス・インド北部・イラン・イラク・イスラエル・ヨルダン・カザフスタン・クウェート・レバノン・モンゴル・パキスタン・シリア・タジキスタン・トルコ・タギジスタン・ウズベキスタン・ロシア(コーカサス・ダゲスタン共和国・ロシアの南ヨーロッパ地区・西シベリア平原南部)に自生している』。本『種は、オーストラリア・アメリカ合衆国南西部・南アフリカ に帰化植物となっている』。本種『は、原産地以外では、有害な雑草である。アルファルファの種子を汚染し、耕作地に誤って持ち込まれると容易に生育』し、『土壌耐性が広く、塩分を多く含んだ土壌・砂質土壌・岩場土壌・乾燥土壌でも繁殖する。灌漑用水路等の水源の近くで、最もよく生育する。家畜にとっては、口に合わず、飼料地や放牧地に侵入すると、彼らに不快な症状を惹起させる』。以下、「用途」の項。』本種『は、民間療法において、腺腫瘍・鼻茸(はなたけ)・胆管関連疾患の治療薬として地元で使用されてきた。胃粘膜保護作用・発汗作用・利尿作用・去痰作用・下剤作用・止瀉作用・小毒作用があることから、薬草として使用され、リウマチや痔の治療にも用いられている。この植物は「コーラン」の中で、『甘いマナの原料』として言及されてる。また、甘味料としても使用されてきている。イランの民間療法では』本種『の煎じ薬が黄疸治療に使われてきた』とあった。
なお、本項を以って、「卷第九十」は終わっている。]
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