和漢三才圖會卷第九十 菰果類 蘡薁
くさぶだう 山葡萄 燕薁
ゑびつる 野葡萄 嬰舌
蘡薁 藤名木龍
【俗吾由美
ごゆみ 又云衣比豆留】
[やぶちゃん注:「ゑびつる」はママ。]
本綱蘡薁野生蔓葉花實與葡萄無異其實小而圓色不
甚紫也冬月惟葉凋而藤不死其莖吹之氣出有汁如通
草也其子堪作酒【甘酸平】止渴悅色益氣
△按野葡萄子亦熟紫黒人好釀酒
*
くさぶだう 山葡萄 燕薁《えんわう》
ゑびつる 野葡萄 嬰舌《えいぜつ》
蘡薁 藤《つる》を「木龍《もくりゆう》」と名づく。
【俗、「吾由美《ごゆみ》」。
ごゆみ 又、云ふ、「衣比豆留《えびづる》」。】
[やぶちゃん注:「ゑびつる」はママ。]
「本綱」に曰はく、『蘡薁《あうおく》は、野生す。蔓・葉・花・實、葡萄と異《ことな》るこよ無く、其の實、小《せう》にして、圓《まろ》く、色、甚≪だには≫紫ならざるなり。冬月、惟《ただ》、葉、凋《しぼ》みて、藤《つる》、死(か)れず。其≪の≫莖、之≪を≫吹けば、氣《かざ》[やぶちゃん注:匂い。]、出《いで》て、汁、有《あり》て、通草[やぶちゃん注:双子葉植物綱キンポウゲ目アケビ科 Lardizabaloideae 亜科Lardizabaleae連アケビ属アケビ Akebia quinata 。本邦でも、この異名があるが、中国語でも、漢方でアケビの木質茎を指す語としてあるので(「維基百科」の「通草」を見よ)同種を指すと断定出来る。後注も参照のこと。]のごとし。其≪の≫子、酒に作るに堪《たへ》たり【甘、酸、平。】。渴≪き≫を止《とめ》、色を悅《よろこ》ましめ[やぶちゃん注:精力を増強させ。]、氣を益す。』≪と≫。
△按ずるに、野葡萄の子も亦、熟すれば、紫黒≪たり≫。人、好《このん》で、酒に釀(つく)る。
[やぶちゃん注:実は大呆ケして、前の「葡萄」の注で、本種の注を、ビッちりとヤラかしてしまった。かと言って、「そちらをご覧あれ」では、如何にも「蘡薁」さんに気の毒だ。されば、煩を厭わず、仕切り直す。前のコピー・ペーストではなく、記事を新規追加し、新たな勘案を施してあるので、しっかり読まれたい。
而して、まず、★良安の言っている本種は、
日本・朝鮮半島、中国の東アジア地域に分布し、日本では本州・四国・九州に分布する、
ブドウ属エビヅル Vitis ficifolia
である。
以下、ウィキの「エビヅル」を引きながら、新たに厳密な再考証をする(注記号はカットした)。漢字表記は『蝦蔓・蘡薁』で『雌雄異株』。『和名「エビヅル」は』蔓『性の植物で、実が』、『エビの目に似ていることから名付けられている』。『古名はヤマブドウとともに「エビカズラ」(葡萄蔓)、「エビ」とはブドウの古名である』。★『ただし、中国では「蘡薁」は Vitis adstricta 』(☜)『という別の野生ブドウを指す。学名に Vitis ficifolia を使われることが多いが、Vitis ficifolia のタイプ標本は中国の桑葉葡萄につけられたもので、桑葉葡萄とエビヅルでは形態的な違いも大きい』とある。
★従って、時珍の指すものは、実はエビヅルではない可能性が極めて高いのである!
そこで調べてみた。邦文ではダメなので(従って、和名はない)、英文ウィキを用いたところ、発見した。英文の「 Vitis bryoniifolia 」がそれだ。そこでは、
学名を“ Vitis bryoniifolia ”と掲げるが、
その“Synonyms”に、八つのシノニムを掲げる、その筆頭に、
Vitis adstricta Hance
とある! 以下、英文を見るに、本種『は、中国原産で、多産で、適応力に優れ、雌雄異株のブドウ科植物である。中国では「蘡薁」』、『又は「華北葡萄」』『として知られる。変種である ternata は「三出蘡薁」』『として知られ、「三つの穂の葉を持つ蘡薁」を意味する』。『 Vitis bryoniifolia は、森林・低木地帯、或いは、特に小川沿いの樹木が生い茂る野原や谷など、樹木が定着した様々な植生地に見られる。標高百~二千五百メートルの高地と低地の両方に植生している。生育期は長く、四~八月にかけて開花し、六月~十月にかけて、薔薇色でプラム色の果実(直径五~八ミリメートル)をつける。分布域も広く、中国の二十七省・自治区の内、十五省・自治区(安徽省・福建省・広東省・広西チワン族自治区・河北省・湖北省・湖南省・江蘇省・江西省・陝西省・山東省・山西省・四川省・雲南省・浙江省)で確認されている。伝統的な中医学では、下剤として古くから用いられてきた。』とある。
そこで、この学名で「維基百科」を調べたところ、正に正当な「蘡薁」の標題で、
Vitis bryoniifolia
とあって、『中国各地に分布する葡萄科の落葉性蔓植物である。果実は醸造酒の原料となり、枝葉は漢方薬として用いられる。中薬名は「野葡萄藤」[やぶちゃん注:この「藤」は前回の項で私が注した通り、植物のフジではなく「蔓」(つる)の意である。]で、主に排尿障害の治療に用いられる。』とあった。
以下、本邦の「エビヅル」の引用に戻る。
『日本、朝鮮半島、中国の東アジア地域に分布し、日本では本州、四国、九州に分布する。山地や丘陵地に』普通『に』見『られる』。『落葉』蔓『性の木本で、他の木本などに巻きひげによって上昇する。巻きひげは』、『茎に対して葉と対生するが』、二『節ずつついていて』、三『節目ごとに消失しているが、これで他の植物に絡まる。葉には葉柄があり、形は扁卵形で長さ』五~八『センチメートル』で、三~五『裂し、葉裏にはクモ毛』(前回、私が推定したのは「蜘蛛毛」である)『とよばれる長い毛がある。葉の先が丸くなるのが特徴。秋には赤色から橙色に紅葉することが多いが、やや地味』である。『花期は』六~八『月で』、『雌雄異株。花序は総状円錐花序で長さ』六~十二センチメートル『になる。花は小さく、雄花、雌花ともに黄緑色で花序に密集する』。『秋には直径』五~六『ミリメートル』『の果実がブドウの房状に黒紫色に熟し、甘酸っぱい味があり』、『食べることができる。しかし、果汁にエビヅル臭という青臭い』「におい」『を有するため、果実品質の評価は一般に低い。花は、新』しい『梢が伸長すれば』、『何度も着花するため、同一樹に、様々なステージの果実が着生する』。『果実は生食、ジャムやジュースに加工して利用できる。また、葉を乾燥し、葉の裏のクモ毛をモグサ代わりに利用する。最近では、リュウキュウガネブの葉から抽出したエキスを含有した化粧水が市販されている。葉エキスの主成分はレスベラトロール』(resveratrol:(3,5,4‘-トリヒドロキシ-トランス-スチルベン/C14H12O3):天然フェノール又はポリフェノールの一種であり、ファイトアレキシン(phytoalexin:複数の植物が傷害を受けた際や、病原体による攻撃を受けた際に生成する物質)である。赤ワインに含まれ、心血管関連疾患の予防効果が期待されており、また、その寿命延長作用が、諸実験動物の研究で報告され、マウスの寿命を延長させる成果が報告され、種を超えた寿命延長作用を持つとして大きな注目を集めてはいる。研究では寿命延長・抗炎症・抗癌・認知症予防・放射線による障害の抑止・血糖降下や、脂肪の合成や蓄積に関わる酵素の抑制等の効果が報告されている。但し、現時点では、ヒトの疾患に実質的な効果があるという証拠はない。以上はウィキの「レスベラトロール」に拠った)『である。またエビヅルの実を入浴剤として利用する地域がある』。以下、途中で挙げられてある「変種」を示しておく。
シチトウエビヅル Vitis ficifolia var. izu-insularis(七島蝦蔓:『葉が大型になり』、『浅』く『三裂し』、『先端がとがる。伊豆七島に分布する』)
キクバエビヅル Vitis ficifolia var. sinuata (菊葉蝦蔓:『本州南部、四国、九州に分布する。葉の裂刻が深い』)
リュウキュウガネブ Vitis ficifolia var. ganebu (琉球葡萄:『八重山、琉球、奄美諸島、トカラ列島に自生する。葉は無裂刻』。『リュウキュウガネブは、エビヅルと同一種とする記述もいくつか見られる。さらに、シチトウエビヅルと葉の形態が似ているため、リュウキュウガネブとシチトウエビヅルを同一種とすべきだとの意見もあるが、リュウキュウガネブは他のエビヅル近縁種と異なり、芽が無休眠性を示すなどの生態的な差異が大きい。また、最近ではリュウキュウガネブ』の『果皮に含まれるアントシアニンの種類と量が多いことから、その機能性が注目されている。ちなみに「ガネブ」とは九州地方の方言で、ブドウの意味である』)
なお、『対馬に分布するケナシエビヅルは「エビヅル」という名前が付いているが、 Vitis austrokoreana Hatusima の学名が付けられていて、エビヅルとは別種となっている。しかし、詳しいことはよくわかっていない』とある。
なお、「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷三十三」の「果之五【蓏類九種内附一種】」の「蘡薁」([081-10a]以下)のパッチワークである。
「通草」双子葉植物綱キンポウゲ目アケビ科 Lardizabaloideae 亜科Lardizabaleae連アケビ属アケビ Akebia quinata 。本邦でも、この異名があるが、中国語でも、漢方でアケビの木質茎を指す語としてあるので(「維基百科」の「通草」を見よ)同種を指すと断定出来る。なお、私の大好きなアケビ(向かいの寺の墓地の数多い高木にあるのを、可愛がって呉れたお兄さんが、よく採ってきて呉れたのだ)は「和漢三才圖會」では、ずっと後の「卷第九十六」「木通」に出る。偏愛するものだし、かなり先なので、国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版の当該部をリンクさせておく。]


