河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(一)鰑の說(その6)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。]
前條の諸種を捕獲するの漁具(ぎよぐ)は網器(まうき)を用ふる少(すくな)く、釣鈎(てうこう)を多しとす。其釣具は凡(をよそ[やぶちゃん注:ママ。])三十餘種あり。皆、夜間の漁業たり。漁者(ぎよしや)の熟練なる其動作、輕捷(けいせう)にして、盛漁(せいぎよ)の實况(じつきやう)は、實(じつ)に漁業中の奇觀とす。而(しか)して鰑を製するの法(ほう[やぶちゃん注:ママ。])たる、其(その)胴を割(さ)き、臟腑を去り、能く洗ひ、日光に乾燥するに過きず[やぶちゃん注:ママ。]して、懸乾(かけぼし)、吊乾(つりぼし)、簀乾(すぼし)、串乾(くしぼし)の四法(しはう)あり。然(しか)れども、截割(さいかつ)の巧拙、洗濯(せんやう/あらひ)の精粗(せいそ/よしあし)、及び、用水の善惡(ぜんあく/よしあし)、懸掛(けんけい/かけかた)の配置(はいち/くばりかた)、乾燥(かんさう/ほしかた)、罨蒸(あんせう/ねかす)の適度(てきど/かげん)、伸展(しんてん/のばしかた)、貯藏(ちよぞう[やぶちゃん注:ママ。]/たくはひ)の方法、等(とう)により、大(おほい)に品位の優劣を致す。其(その)製したる鰑は、產地、季節、品種、輸出等(とう)により、販賣上の名を異(こと)にす。卽ち、五島鰑、佐渡、伊豆鰑、函館鰑、江刺鰑、南部鰑、氣仙鰑、久米島鰑、琉球鰑、對州鰑(たいしうするめ)、袋烏賊(ふくろいか)、甲付乾烏賊(こうつきほしいか[やぶちゃん注:ママ。])、白鰑(しろするめ)、平鰑(ひらするめ)、磨鰑(みがきするめ)、串烏賊(くしいか)、烏賊風乾(いかのかさほし[やぶちゃん注:「かざ」ではないのはママ。誤植であろう。東洋文庫版ルビでは『かざ』となっている。])、丸乾鰑(まるぼしするめ)、沖乾烏賊(おきほしいか)、平板鰑(ひらいたするめ)、䀋乾烏賊(しほほしいか)、干烏賊、夏烏賊、秋烏賊、冬烏賊、冬乾烏賊(ふゆぼしいか)、夏鰑、秋鰑、冬鰑、花烏賊(はないか)、劍先鰑、鯖烏賊(さばいか)、於多福鰑(をたふくするめ[やぶちゃん注:ママ。])、ゑきれ烏賊、赤鰑、赤烏賊鰑(あかいかするめ)、ひき烏賊乾(いかいかほし)、ぶと烏賊、笹鰑(さゝするめ)、眞烏賊乾(まいかぼし)、乾水烏賊(ほしみづいか)、水鰑、乾藻烏賊(ほしもいか)、上々番鰑(じやうじやうばんするめ)、一番鰑、二番鰑、番外鰑、丸形鰑(まるがたするめ)等(とう)なり。此內、地名を以て名(なづ)けしは產額の多きに因り、夏・秋・冬を以て名けしは、捕獲の季節に因れり。又、上々番鰑以下、四名の如きは、支那輸出に就きての區別なり、とす。磨(みが)き鰑は、劍先鰑の皮を剝ぎたるもの。花烏賊は、南部にて初捕獲の小柔魚乾(こするめいかほし)を云ひ、能登國(のとのくに)鳳至郡(ほうしごほり)宇津村(うつむら)より出(いだ)す所の「ごとうするめ」と唱(となふ)るものは、柔魚(するめいか)を以て製したるものにて、眞の五島錫にあらず。眞の五嶋鰑は劍先鰑なり。然(しか)るに、古書に『五島產の鰑は花枝(あふりいか)にて製す』と云へり。「ぶと烏賊」は一に「ふどういか」、又「ぶどう鰑」とも稱し、重(お)もに肥前、及び、長門等(とう)に產する劍先形(けんさきがた)にして、小さく、肉、厚きものとす。笹鰑は笹烏賊とも稱し、劍先の肉薄きものにて、關東の鎗烏賊(やりいか)にて製すれば、槪(おほむ)ね、此形狀(けいせう[やぶちゃん注:ママ。])となれり。
[やぶちゃん注:以上に出る製品名に就いては、先に示した『河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 上卷(一)鰑の說(その5)――総て図版画像附・全キャプション電子化注附』の私の注で考証したものが、多数含まれるので、そちらを見られたい。いちいち、それを改めて見よ注をするほど、私は「オメデタイ」男ではない。七日もかけたそれを(自信作であるが、同時に、相応に疲弊した)、また改めてここで指示することは、一切、しない。悪しからず。
「罨蒸(あんせう/ねかす)」鯣ではないが、日本語で書かれた「丸啓水産品加工(上海)有限公司」(「会社案内」のページに『日本企業である丸啓鰹節株式会社、ヤマキ株式会社により設立された花かつお、サバ削り、鰹パウダー、ブレンド調味料などの鰹節類を原料とした食品加工企業』とある)公式サイト内の「鰹節の出来るまで」の「工程流れ」のページの「2番火」・「罨蒸」「3番火」の項に、『木の蓋をして寝かす(罨生・あんじょう)こと』とあった。
「對州鰑(たいしうするめ)」対馬(つしま)産鯣の産品名。
「ゑきれ烏賊」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のスルメイカのページの「地方名・市場名」の項に、『イキレ[稚イカ]』・『エキレ[稚イカ]』とあり、採集『場所』を『山口県萩』とし、『サイズ/時期』に『稚イカ』とあった。検索したところ、確かに萩での呼称が多く確認出来たが、語源を明らかにしている記載は見当たらなかった。国立国会図書館デジタルコレクションでの検索でも、ダメで、所持する海産物関係の書籍でも判らなかった。識者の御教授を乞うものである。
「古書に『五島產の鰑は花枝(あふりいか)にて製す』と云へり」この古書不詳。]
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