阿部正信編揖「駿國雜志」(内/怪奇談)正規表現版・オリジナル注附 「卷之二十四下」「奇男」
[やぶちゃん注:底本はここから。句読点・記号を追加した。]
「奇男《あやしきをとこ》」 安倍郡《あべのこほり》府中、御在城の時にあり。「當代記」云《いはく》。『慶長十四年四月四日。駿府大御所御座之間近處ニ何共不ルㇾ知人、水走リ板潛來ル。則戒メ見ルニ一圓戲者也、非ズトㇾ可ㇾ有二誅戮一被ル二追放一。云云。』。
[やぶちゃん注:「當代記」(安土桃山から江戸初期までの諸国の情勢・諸大名の興亡・江戸幕府の政治等に関する記録。全十巻。姫路城主松平忠明(ただあきら:家康の外孫)の著ともされるが、不詳(以上は平凡社「百科事典マイペディア」に拠った))を、まず、推定訓読する。字下げ・改行、及び、句読点をさらに追加・変更した。
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慶長十四年四月四日。駿府大御所、御座の間《あひだ》、近處《ちかきところ》に、何とも知られざる人、水走《みづばし》り板《いた》、潛來《くぐりきた》る。
則《すなはち》、戒《いまし》め見るに、一圓《いちゑん》、戲者《たはけもの》なり。
「誅戮《ちうりく》、有《ある》非《べから》ず。」[やぶちゃん注:大御所自身の命令。]
と、追放せらる。云云《うんぬん》。
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・「水走り板」意外なことに、この語は、辞書類を探したが、全く見当たらない。検索でAIの答えた『日本庭園において、水路や池から水が流れ出る場所、またはその流れを指す言葉です。庭園に水を取り入れるための重要な要素であり、流れの形状や石組みによって様々な景観を作り出します。』というのが、納得出来る(同じくAIが言う『枯山水庭園(水を使わない庭園)で』も、『砂や石で水面や流れを表現することがあ』るとするのは、この場合、シチュエーションの事実内容を上手く説明出来ないと判断したので採用しない)。則ち、駿府城の大御所のいるところの庭園に水を引いた木製水路(人一人がなんとか潜れるようなもの)から侵入したものと解釈しておく。
・「一圓」副詞で「一向に・さらに・少しも」の意で、この場合は、「全く以って、あきれたことに」というニュアンスであろう。
・「戲者」「おどけもの」「ざれもの」「じやれもの」「たはもの」とも読めるが、一番、シークエンスで家臣が使いそうな「たはけもの」を採用した。意味は、ここでは、人を罵って言うところの「馬鹿者・阿呆・痴れ者・うつけ者」の意味で採る。
これは、前篇「怪男」と全く同年同日の記載であり、こちらこそが、事実であったとするのが、自然である。則ち、家康が見たのは――奇体な人間ならざる存在でも――訳の分からぬ「切支丹」でも――「封」でも――「太歲」でも――「肉人」でも――「視肉」でもなんでもない、少々、頭がイカれた、クソ闖入者に過ぎなったのである!――噂話なんて、結果して、こんなものさ…………]
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